馬の文献:手根骨破片骨折(Frisbie et al. 2002)
文献 - 2016年06月19日 (日)
「インターロイキン1受容体拮抗蛋白の遺伝子送達による馬の実験的骨関節炎の治療」
Frisbie DD, Ghivizzani SC, Robbins PD, Evans CH, McIlwraith CW. Treatment of experimental equine osteoarthritis by in vivo delivery of the equine interleukin-1 receptor antagonist gene. Gene Ther. 2002; 9(1): 12-20.
この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)に大きく影響する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の治療法を検討するため、片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十六頭の実験馬のうち、八頭は生食の両側関節投与(=対照郡)、残りの八頭は軟骨欠損を作成した関節へアデノウイルスベクターを介してのインターロイキン1受容体拮抗蛋白(Interleukin-1 receptor antagonist protein: IL-1Ra)の遺伝子送達(Gene delivery)を行い(=治療郡)、トレッドミル運動(術後14日目から)による負荷を与えて、レントゲン検査(Radiography)、滑液検査(Arthrocentesis)、跛行検査(Lameness examination)、および、滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
結果としては、IL-1Ra遺伝子治療を受けた馬では、対照郡の馬に比べて、跛行グレードの有意な改善と、関節膨満スコア(Joint effusion score)の有意な低下が認められました。また、IL-1Ra遺伝子治療を受けた関節において、対照郡の関節に比べて、細胞浸潤(Cellular infiltration)は有意に増加していたものの、滑膜の血管新生(Vascularity)は有意に低下していました。さらに、IL-1Ra遺伝子治療を受けた関節では、対照郡の関節に比べて、細胞外基質の染色強度(Staining intensity of extra-cellular matrix)が有意に高く(=グリコサミノグリカン損失が少なかった)、また、関節軟骨のプロテオグリカン合成(Proteoglycan synthesis)が増加傾向にありました。このため、馬の手根骨破片骨折の骨片摘出後には、IL-1Ra遺伝子治療によって、滑膜炎(Synovitis)の抑制、疼痛や跛行の改善(Pain/Lameness improvement)、および、関節軟骨の治癒促進(Enhanced articular cartilage healing)が見られ、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の予防効果が期待できることが示唆されました。
一般的に、馬の骨関節炎では、インターロイキン1が最も重要な炎症介在性物質(Inflammatory mediator)として作用しており、この蛋白の働きを阻害するIL-1Ra蛋白の投与によって、関節炎の治療および予防効果が期待されていますが(いわゆるアイラップ治療:IRAP therapy)、関節内に投与されたIL-1Ra蛋白は短期間しか存在できないという問題があります。このため、関節内へとIL-1Ra遺伝子送達を行い、関節組織そのものからIL-1Ra蛋白を持続的に分泌(Prolonged secretion)させることで、より効率的かつ長期間にわたる治療効果(More effective and sustained therapeutic effect)が誘導されると考えられています。
この研究では、高投与量(5e10-particles/joint)のアデノウイルスベクターが投与された手根関節では、投与後の七日目にかけて白血球数増加が認められましたが、投与後の十四日目までには正常値まで回復していました。そして、遺伝子送達によって誘導されたIL-1Ra蛋白は、投与後の二十一目まで滑液内に分泌されていたことが示されました。このため、ベクターによる炎症性の副作用(Inflammatory adverse effect)は短期的レベルにとどまり、IL-1Ra遺伝子送達による治療効果に悪影響を与えることはなかった、という考察がなされています。
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Frisbie DD, Ghivizzani SC, Robbins PD, Evans CH, McIlwraith CW. Treatment of experimental equine osteoarthritis by in vivo delivery of the equine interleukin-1 receptor antagonist gene. Gene Ther. 2002; 9(1): 12-20.
この研究論文では、手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)の関節鏡的骨片摘出(Arthroscopic fragment removal)において、その予後(Prognosis)に大きく影響する要因である骨関節炎(Osteoarthritis)の治療法を検討するため、片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成した十六頭の実験馬のうち、八頭は生食の両側関節投与(=対照郡)、残りの八頭は軟骨欠損を作成した関節へアデノウイルスベクターを介してのインターロイキン1受容体拮抗蛋白(Interleukin-1 receptor antagonist protein: IL-1Ra)の遺伝子送達(Gene delivery)を行い(=治療郡)、トレッドミル運動(術後14日目から)による負荷を与えて、レントゲン検査(Radiography)、滑液検査(Arthrocentesis)、跛行検査(Lameness examination)、および、滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
結果としては、IL-1Ra遺伝子治療を受けた馬では、対照郡の馬に比べて、跛行グレードの有意な改善と、関節膨満スコア(Joint effusion score)の有意な低下が認められました。また、IL-1Ra遺伝子治療を受けた関節において、対照郡の関節に比べて、細胞浸潤(Cellular infiltration)は有意に増加していたものの、滑膜の血管新生(Vascularity)は有意に低下していました。さらに、IL-1Ra遺伝子治療を受けた関節では、対照郡の関節に比べて、細胞外基質の染色強度(Staining intensity of extra-cellular matrix)が有意に高く(=グリコサミノグリカン損失が少なかった)、また、関節軟骨のプロテオグリカン合成(Proteoglycan synthesis)が増加傾向にありました。このため、馬の手根骨破片骨折の骨片摘出後には、IL-1Ra遺伝子治療によって、滑膜炎(Synovitis)の抑制、疼痛や跛行の改善(Pain/Lameness improvement)、および、関節軟骨の治癒促進(Enhanced articular cartilage healing)が見られ、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の予防効果が期待できることが示唆されました。
一般的に、馬の骨関節炎では、インターロイキン1が最も重要な炎症介在性物質(Inflammatory mediator)として作用しており、この蛋白の働きを阻害するIL-1Ra蛋白の投与によって、関節炎の治療および予防効果が期待されていますが(いわゆるアイラップ治療:IRAP therapy)、関節内に投与されたIL-1Ra蛋白は短期間しか存在できないという問題があります。このため、関節内へとIL-1Ra遺伝子送達を行い、関節組織そのものからIL-1Ra蛋白を持続的に分泌(Prolonged secretion)させることで、より効率的かつ長期間にわたる治療効果(More effective and sustained therapeutic effect)が誘導されると考えられています。
この研究では、高投与量(5e10-particles/joint)のアデノウイルスベクターが投与された手根関節では、投与後の七日目にかけて白血球数増加が認められましたが、投与後の十四日目までには正常値まで回復していました。そして、遺伝子送達によって誘導されたIL-1Ra蛋白は、投与後の二十一目まで滑液内に分泌されていたことが示されました。このため、ベクターによる炎症性の副作用(Inflammatory adverse effect)は短期的レベルにとどまり、IL-1Ra遺伝子送達による治療効果に悪影響を与えることはなかった、という考察がなされています。
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