馬の文献:手根骨破片骨折(Misumi et al. 2002)
文献 - 2016年06月19日 (日)
「馬の骨関節炎における軟骨オリゴマー基質蛋白質の血清濃度」
Misumi K, Vilim V, Hatazoe T, Murata T, Fujiki M, Oka T, Sakamoto H, Carter SD. Serum level of cartilage oligomeric matrix protein (COMP) in equine osteoarthritis. Equine Vet J. 2002; 34(6): 602-608.
この研究論文では、血液検査による関節疾患(Joint disorders)の診断法を検討するため、38頭の健常馬(=対照郡)、および、骨関節炎(Osteoarthritis)、関節内骨折(Intra-articular fracture)、離断性骨軟骨炎(Osteochondritis dissecans)などを呈した40頭の患馬(=症例郡)における、血清(Serum)および滑液(Synovial fluid)の中の軟骨オリゴマー基質タンパク質(Cartilage oligomeric matrix protein: COMP)、およびケラタン硫酸(Keratan sulphate)の濃度測定が行われました。
結果としては、症例郡の馬は対照郡の馬に比べて、COMPの血清濃度が有意に低く、また、COMPの血清濃度と滑液濃度のあいだには、有意な相関が認められました。一方、症例郡の馬は対照郡の馬に比べて、ケラタン硫酸の血清濃度も有意に低かったものの、ケラタン硫酸の血清濃度と滑液濃度は相関していませんでした。このため、馬の血清中のCOMP濃度は、関節疾患の早期診断、および、関節鏡手術(Arthroscopy)などにおける術後モニタリングのための指標として、有用なバイオマーカーになる可能性があることが示唆されました。
この研究の結果から、COMPおよびケラタン硫酸の血清濃度における、二つのカットオフ値を定めることで、関節疾患の診断における感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、陽性反応的中率(Predictive value of positive test)などを算出して、対照郡と症例郡の馬のあいだの判別能(Discriminant ability)を評価できると推測されます。また、原発疾患のグレード化や、そのグレードとCOMPおよびケラタン硫酸の濃度との相関性を評価することで、それぞれのバイオマーカーの濃度上昇または下降が、関節疾患の病態進行(Disease progression)、および治癒過程(Healing process)を定量的に推測(Quantitative estimation)するための指標になるか否かを、より詳細に評価できると考えられました。
一般的に、COMPは関節軟骨(Articular cartilage)および滑膜(Synovium)に多く含まれ、骨関節炎の初期病態ではCOMP濃度の上昇、末期病態ではCOMP濃度の下降が見られることが報告されています(Forslind et al . Br J Rheum. 1992;31:593, Sharif et al. Br J Rheum. 1995;34:306)。今回の研究において、症例郡のほうが対照郡に比べて、有意に低いCOMP血清濃度を示した要因としては、関節疾患の進行度合い、または、使用された一次抗体の親和性(Affinity of primary antibodies)などが挙げられています。このため、今後の研究では、実験的な軟骨欠損作成などの関節疾患モデルを用いて、初期および末期病態におけるCOMP濃度の比較、および、COMP小破片(Small fragment)または通常サイズのCOMPに親和性の高い抗体を比較することで、血清中のCOMP濃度の解釈(Interpretation)および有意性(Significance)を、より広範的に評価することが重要であると言えるかもしれません。
この研究では、一歳~二歳齢馬のデータを見ると、対照郡と症例郡のあいだにCOMP血清濃度の有意差は無かったものの、症例馬は対照馬に比べてケラタン硫酸の血清濃度が有意に低かったことが示されました。このため、年齢に応じた軟骨基質代謝回転の発現増加(Age-related up-regulation of cartilage matrix turnover)を反映するバイオマーカーとしては、COMPよりもケラタン硫酸のほうが適している可能性もある、という考察がなされています。
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この研究論文では、血液検査による関節疾患(Joint disorders)の診断法を検討するため、38頭の健常馬(=対照郡)、および、骨関節炎(Osteoarthritis)、関節内骨折(Intra-articular fracture)、離断性骨軟骨炎(Osteochondritis dissecans)などを呈した40頭の患馬(=症例郡)における、血清(Serum)および滑液(Synovial fluid)の中の軟骨オリゴマー基質タンパク質(Cartilage oligomeric matrix protein: COMP)、およびケラタン硫酸(Keratan sulphate)の濃度測定が行われました。
結果としては、症例郡の馬は対照郡の馬に比べて、COMPの血清濃度が有意に低く、また、COMPの血清濃度と滑液濃度のあいだには、有意な相関が認められました。一方、症例郡の馬は対照郡の馬に比べて、ケラタン硫酸の血清濃度も有意に低かったものの、ケラタン硫酸の血清濃度と滑液濃度は相関していませんでした。このため、馬の血清中のCOMP濃度は、関節疾患の早期診断、および、関節鏡手術(Arthroscopy)などにおける術後モニタリングのための指標として、有用なバイオマーカーになる可能性があることが示唆されました。
この研究の結果から、COMPおよびケラタン硫酸の血清濃度における、二つのカットオフ値を定めることで、関節疾患の診断における感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、陽性反応的中率(Predictive value of positive test)などを算出して、対照郡と症例郡の馬のあいだの判別能(Discriminant ability)を評価できると推測されます。また、原発疾患のグレード化や、そのグレードとCOMPおよびケラタン硫酸の濃度との相関性を評価することで、それぞれのバイオマーカーの濃度上昇または下降が、関節疾患の病態進行(Disease progression)、および治癒過程(Healing process)を定量的に推測(Quantitative estimation)するための指標になるか否かを、より詳細に評価できると考えられました。
一般的に、COMPは関節軟骨(Articular cartilage)および滑膜(Synovium)に多く含まれ、骨関節炎の初期病態ではCOMP濃度の上昇、末期病態ではCOMP濃度の下降が見られることが報告されています(Forslind et al . Br J Rheum. 1992;31:593, Sharif et al. Br J Rheum. 1995;34:306)。今回の研究において、症例郡のほうが対照郡に比べて、有意に低いCOMP血清濃度を示した要因としては、関節疾患の進行度合い、または、使用された一次抗体の親和性(Affinity of primary antibodies)などが挙げられています。このため、今後の研究では、実験的な軟骨欠損作成などの関節疾患モデルを用いて、初期および末期病態におけるCOMP濃度の比較、および、COMP小破片(Small fragment)または通常サイズのCOMPに親和性の高い抗体を比較することで、血清中のCOMP濃度の解釈(Interpretation)および有意性(Significance)を、より広範的に評価することが重要であると言えるかもしれません。
この研究では、一歳~二歳齢馬のデータを見ると、対照郡と症例郡のあいだにCOMP血清濃度の有意差は無かったものの、症例馬は対照馬に比べてケラタン硫酸の血清濃度が有意に低かったことが示されました。このため、年齢に応じた軟骨基質代謝回転の発現増加(Age-related up-regulation of cartilage matrix turnover)を反映するバイオマーカーとしては、COMPよりもケラタン硫酸のほうが適している可能性もある、という考察がなされています。
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