馬の文献:手根骨破片骨折(Beinlich et al. 2005)
文献 - 2016年06月20日 (月)
「馬の外掌側手根骨間靭帯裂離の有病率および外科的療法の治療効果:1990~2001年の37症例」
Beinlich CP, Nixon AJ. Prevalence and response to surgical treatment of lateral palmar intercarpal ligament avulsion in horses: 37 cases (1990-2001). J Am Vet Med Assoc. 2005; 226(5): 760-766.
この症例論文では、外掌側手根骨間靭帯の裂離(Lateral palmar intercarpal ligament avulsion)を呈した37頭の患馬の、有病率(Prevalence)、臨床症状、診断法、および外科的療法(Surgical treatment)による治療効果が報告されています。外科的療法では、関節鏡手術(Arthroscopy)を介して、剥離骨折片(Avulsion fracture fragment)の摘出、骨折床部(Fracture bed)の病巣清掃(Debridement)、残存した靭帯の平坦化(Trimming of remaining ligament)が行われました。
結果としては、関節鏡手術が応用されたあと経過追跡(Follow-up)ができた22頭のうち、運動復帰を果たしたのは91%(20/22頭)であったのに対して、保存性療法(Conservative treatment)が応用されたあと経過追跡ができた9頭のうち、運動復帰を果たしたのは56%(5/9頭)にとどまりました。そして、ロジスティック回帰分析(Logistic regression analysis)の結果では、外科的療法が応用された馬では、保存性療法が応用された馬に比べて、運動復帰できる確率が八倍も高いことが示されました(オッズ比:8.00)。このため、馬の外掌側手根骨間靭帯の裂離では、関節鏡手術によって十分な病巣治癒と良好な予後が期待され、運動復帰を果たす馬の割合がかなり高いことが示唆されました。
この研究では、1990~2001年に掛けて、前肢跛行(Forelimb lameness)のため来院した6418頭の全患馬のうち、外掌側手根骨間靭帯の裂離が認められたのは37頭で、有病率は0.58%であったことが報告されています。また、品種や性別などにおける好発傾向は認められませんでしたが、症例の七割が三歳齢以下の若齢馬であったことから、馬における外掌側手根骨間靭帯裂離の発症では、骨強度が十分に発達していない若齢馬に対して、アグレッシブな調教を行うことが危険因子(Risk factors)になりうる、という考察がなされています。
一般的に、馬の外掌側手根骨間靭帯の裂離は、内掌側手根骨間靭帯の裂傷(Tearing of medial palmar intercarpal ligament)と同様に、手根関節のねじれや、過伸展(Hyper-extension)に際に、手根骨間に過剰な緊張が掛かることで、靭帯付着部の骨剥離および靭帯裂傷に至る、という病因論(Etiology)が仮説されています。しかし、外掌側手根骨間靭帯の裂離は、他の文献で報告されている内掌側手根骨間靭帯の裂傷に比べて(McIlwraith et al. EVJ. 1992;24:367, Whitton et al. Aust Vet J. 1999;77:713)、発症率の低い稀な病態であると言え、より注意深いレントゲン像の判読、および関節鏡下での探索を要すると考えられました。
この研究では、外掌側手根骨間靭帯裂離の罹患馬は、通常の跛行検査(Routine lameness examination)、中間手根関節の膨満(Mid-carpal joint effusion)の触知、中間手根関節の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)による跛行改善、レントゲン検査(Radiography)、探索的関節鏡手術(Exploratory arthroscopy)、および、核シンティグラフィー検査(Nuclear scintigraphy)などによって診断が下され、CT検査やMRI検査などの他の画像診断法を要した馬は、一頭もありませんでした。レントゲン検査では、背外側掌内側撮影像(Dorsolateral-to-palmaromedial oblique view)において、尺側手根骨の掌内側面(Palmaromedial perimeter of the ulnar carpal bone)の剥離骨折片を発見することで確定診断(Definitive diagnosis)が下され、また、背掌側撮影像(Dorsopalmar view)も、骨折片の形状や変位度(Fragment shape/displacement)を判定するために有用であったことが報告されています。
この研究では、剥離骨折片を生じた症例を見ると、骨折片の大きさが4mm以上であった馬の運動復帰率は55%、骨折片の大きさが4mm未満であった馬の運動復帰率は50%で、骨片サイズは予後にあまり影響しないことが示唆されました。一方、外掌側手根骨間靭帯の裂離が、両側性に起こった馬では運動復帰率が88%、片側性に起こった馬では運動復帰率は68%で、両郡のあいだに有意差は認められず、また、片側性罹患馬のうち、左前肢と右前肢の罹患馬を比べても、運動復帰率に有意差は無かったことが報告されています。このため、外掌側手根骨間靭帯の裂離を生じた症例では、骨片の大きさや数ではなく、靭帯そのものの損傷度合いが、予後を左右する大きな要因である可能性があると考えられますが、関節鏡下では靭帯全体を視診するのは難しいという限界点(Limitation)が指摘されています。ちなみに、内掌側手根骨間靭帯の裂傷においては、靭帯損傷が断面積の半分以上に及んだ場合には、術後に予後が悪化する傾向にあることが報告されています。
この研究では、12頭の患馬において、骨折片を伴わない外掌側手根骨間靭帯の剥離(=靭帯のみの損傷)が認められ、これらの症例は、レントゲン像上で骨片は認められないことから、中間手根関節への診断麻酔によって推定診断(Presumptive diagnosis)が下され、探索的な関節鏡手術によって、確定診断が下されました。このため、関節麻酔に陽性を示したものの、経済的な理由で、関節鏡による探索が行われなかった他の症例でも、外掌側手根骨間靭帯の剥離を生じていた患馬がいた可能性がある(=この論文での有病率は過小評価されている)、という考察がなされています。
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この症例論文では、外掌側手根骨間靭帯の裂離(Lateral palmar intercarpal ligament avulsion)を呈した37頭の患馬の、有病率(Prevalence)、臨床症状、診断法、および外科的療法(Surgical treatment)による治療効果が報告されています。外科的療法では、関節鏡手術(Arthroscopy)を介して、剥離骨折片(Avulsion fracture fragment)の摘出、骨折床部(Fracture bed)の病巣清掃(Debridement)、残存した靭帯の平坦化(Trimming of remaining ligament)が行われました。
結果としては、関節鏡手術が応用されたあと経過追跡(Follow-up)ができた22頭のうち、運動復帰を果たしたのは91%(20/22頭)であったのに対して、保存性療法(Conservative treatment)が応用されたあと経過追跡ができた9頭のうち、運動復帰を果たしたのは56%(5/9頭)にとどまりました。そして、ロジスティック回帰分析(Logistic regression analysis)の結果では、外科的療法が応用された馬では、保存性療法が応用された馬に比べて、運動復帰できる確率が八倍も高いことが示されました(オッズ比:8.00)。このため、馬の外掌側手根骨間靭帯の裂離では、関節鏡手術によって十分な病巣治癒と良好な予後が期待され、運動復帰を果たす馬の割合がかなり高いことが示唆されました。
この研究では、1990~2001年に掛けて、前肢跛行(Forelimb lameness)のため来院した6418頭の全患馬のうち、外掌側手根骨間靭帯の裂離が認められたのは37頭で、有病率は0.58%であったことが報告されています。また、品種や性別などにおける好発傾向は認められませんでしたが、症例の七割が三歳齢以下の若齢馬であったことから、馬における外掌側手根骨間靭帯裂離の発症では、骨強度が十分に発達していない若齢馬に対して、アグレッシブな調教を行うことが危険因子(Risk factors)になりうる、という考察がなされています。
一般的に、馬の外掌側手根骨間靭帯の裂離は、内掌側手根骨間靭帯の裂傷(Tearing of medial palmar intercarpal ligament)と同様に、手根関節のねじれや、過伸展(Hyper-extension)に際に、手根骨間に過剰な緊張が掛かることで、靭帯付着部の骨剥離および靭帯裂傷に至る、という病因論(Etiology)が仮説されています。しかし、外掌側手根骨間靭帯の裂離は、他の文献で報告されている内掌側手根骨間靭帯の裂傷に比べて(McIlwraith et al. EVJ. 1992;24:367, Whitton et al. Aust Vet J. 1999;77:713)、発症率の低い稀な病態であると言え、より注意深いレントゲン像の判読、および関節鏡下での探索を要すると考えられました。
この研究では、外掌側手根骨間靭帯裂離の罹患馬は、通常の跛行検査(Routine lameness examination)、中間手根関節の膨満(Mid-carpal joint effusion)の触知、中間手根関節の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)による跛行改善、レントゲン検査(Radiography)、探索的関節鏡手術(Exploratory arthroscopy)、および、核シンティグラフィー検査(Nuclear scintigraphy)などによって診断が下され、CT検査やMRI検査などの他の画像診断法を要した馬は、一頭もありませんでした。レントゲン検査では、背外側掌内側撮影像(Dorsolateral-to-palmaromedial oblique view)において、尺側手根骨の掌内側面(Palmaromedial perimeter of the ulnar carpal bone)の剥離骨折片を発見することで確定診断(Definitive diagnosis)が下され、また、背掌側撮影像(Dorsopalmar view)も、骨折片の形状や変位度(Fragment shape/displacement)を判定するために有用であったことが報告されています。
この研究では、剥離骨折片を生じた症例を見ると、骨折片の大きさが4mm以上であった馬の運動復帰率は55%、骨折片の大きさが4mm未満であった馬の運動復帰率は50%で、骨片サイズは予後にあまり影響しないことが示唆されました。一方、外掌側手根骨間靭帯の裂離が、両側性に起こった馬では運動復帰率が88%、片側性に起こった馬では運動復帰率は68%で、両郡のあいだに有意差は認められず、また、片側性罹患馬のうち、左前肢と右前肢の罹患馬を比べても、運動復帰率に有意差は無かったことが報告されています。このため、外掌側手根骨間靭帯の裂離を生じた症例では、骨片の大きさや数ではなく、靭帯そのものの損傷度合いが、予後を左右する大きな要因である可能性があると考えられますが、関節鏡下では靭帯全体を視診するのは難しいという限界点(Limitation)が指摘されています。ちなみに、内掌側手根骨間靭帯の裂傷においては、靭帯損傷が断面積の半分以上に及んだ場合には、術後に予後が悪化する傾向にあることが報告されています。
この研究では、12頭の患馬において、骨折片を伴わない外掌側手根骨間靭帯の剥離(=靭帯のみの損傷)が認められ、これらの症例は、レントゲン像上で骨片は認められないことから、中間手根関節への診断麻酔によって推定診断(Presumptive diagnosis)が下され、探索的な関節鏡手術によって、確定診断が下されました。このため、関節麻酔に陽性を示したものの、経済的な理由で、関節鏡による探索が行われなかった他の症例でも、外掌側手根骨間靭帯の剥離を生じていた患馬がいた可能性がある(=この論文での有病率は過小評価されている)、という考察がなされています。
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