馬の文献:手根骨破片骨折(Frisbie et al. 2008)
文献 - 2016年06月25日 (土)
「馬の運動および初期骨関節炎による滑液および血清バイオマーカーの変化」
Frisbie DD, Al-Sobayil F, Billinghurst RC, Kawcak CE, McIlwraith CW. Changes in synovial fluid and serum biomarkers with exercise and early osteoarthritis in horses. Osteoarthritis Cartilage. 2008; 16(10): 1196-1204.
この研究論文では、滑液検査(Arthrocentesis)および血液検査による骨関節炎(Osteoarthritis)の診断法を検討するため、十六頭の健常馬を三週間にわたってトレッドミル運動させ、その間の滑液および血液検体を採取し、その後、八頭には関節鏡(Arthroscopy)による偽手術(Sham surgery)を行い(=対照郡)、残りの八頭には片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成することで骨関節炎を誘導して(=骨関節炎郡)、術後の十週間にわたって同様な滑液検査および血液検査を行い、十三週間目に滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
この研究では、滑液検査および血液検査において、関節軟骨に含まれるアグリカン成分の分解産物であるCS846抗原決定基(CS846 epitope)、二型コラーゲンのペプチド断片であるCPII抗原決定基、関節軟骨に含まれるグリコサミノグリカン(Glycosaminoglycan: GAG)、二型コラーゲン分解(Type II collagen degradation)の指標であるCol-CEQ抗原決定基、一型および二型コラーゲンの分解片(Type I and II collagen degradation fragments)であるC1,2C、軟骨下骨(Subchondral bone)の活性指標であるオステオカルシン(Osteocalcin)、骨一型コラーゲンのカルボキシル末端(C-terminal of bone type I collagen: CTX1)、一型コラーゲン(Type I collagen: Col-I)、プロスタグランディンE2(PGE2)、などのバイオマーカーの濃度測定が行われました。
結果としては、骨関節炎郡の滑液では対照郡の滑液に比べて、CS846、CPII、Col-CEQ、C1,2C、オステオカルシン、Col-I、PGE2などが、有意に高い濃度を示しました。また、骨関節炎郡の血清では対照郡の血清に比べて、CS846、CPII、GAG、オステオカルシン、C1,2C、Co-Iなどが、有意に高い濃度を示しました。このため、馬の滑液中の七種類のバイオマーカー濃度、および、血清中の六種類のバイオマーカー濃度の測定が、骨関節炎の早期診断、および、関節鏡手術における術後モニタリングのための指標として有用であることが示唆されました。そして、今後の研究では、実際の臨床症例における、健常馬および骨関節炎に起因する跛行馬のデータを比較することで、滑液および血清のバイオマーカー濃度を用いての診断による、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、陽性反応的中率(Predictive value of positive test)などを算出して、対照郡と症例郡の馬のあいだの判別能(Discriminant ability)を評価する必要があると考えられました。
この研究では、六種類の滑液および血清のバイオマーカー(CS846、CPII、GAG、Col-CEQ、C1,2C、オステオカルシン、Col-I)の濃度が、運動負荷のみによっても有意な増加を示していました。このため、これらのバイオマーカーを関節疾患の診断指標とするためには、運動強度および運動期間(Exercise intensity/length)に応じた正常値を決定して、各サンプルのバイオマーカー濃度の有意性(Significance)を慎重に判断する必要がある、という警鐘が鳴らされています。また、この研究では使用された実験馬の全頭が二歳齢であったため、今後の研究では、加齢に伴うバイオマーカー濃度の変動の有無、およびその度合いを調査する必要があると考えられました。
この研究では、血清バイオマーカーの濃度と、跛行(Lameness)および屈曲試験での疼痛反応(Pain response at flexion test)とのあいだに、有意な正の相関(Positive correlation)が認められましたが、血清バイオマーカー濃度と関節膨満(Joint effusion)とのあいだには有意な相関はありませんでした。このため、血清バイオマーカーの濃度上昇は、関節軟骨の変性に起因する関節内疼痛(Intra-articular pain)を反映しているものの、滑液増加の主要因である滑膜炎(Synovitis)の重篤度はあまり反映していなかった、という考察がなされています。
一般的に、滑液採取が行われた馬の関節では、約12時間にわたるメイトリックス・メタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinase)の濃度上昇と、約60時間にわたるGAGおよびPGE2の濃度上昇が起きることが知られています(Brama et al. EVJ. 2004;36:34, Van den Boom et al. EVJ. 2005;37:250)。今回の研究では、滑液検査は一週間に一回しか行われていないため、滑液採取の繰り返しが、バイオマーカー濃度の与えた影響は殆ど無かったと考察されています。
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この研究論文では、滑液検査(Arthrocentesis)および血液検査による骨関節炎(Osteoarthritis)の診断法を検討するため、十六頭の健常馬を三週間にわたってトレッドミル運動させ、その間の滑液および血液検体を採取し、その後、八頭には関節鏡(Arthroscopy)による偽手術(Sham surgery)を行い(=対照郡)、残りの八頭には片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成することで骨関節炎を誘導して(=骨関節炎郡)、術後の十週間にわたって同様な滑液検査および血液検査を行い、十三週間目に滑膜(Synovial membrane)と関節軟骨(Articular cartilage)の組織学的検査(Histologic evaluation)が行われました。
この研究では、滑液検査および血液検査において、関節軟骨に含まれるアグリカン成分の分解産物であるCS846抗原決定基(CS846 epitope)、二型コラーゲンのペプチド断片であるCPII抗原決定基、関節軟骨に含まれるグリコサミノグリカン(Glycosaminoglycan: GAG)、二型コラーゲン分解(Type II collagen degradation)の指標であるCol-CEQ抗原決定基、一型および二型コラーゲンの分解片(Type I and II collagen degradation fragments)であるC1,2C、軟骨下骨(Subchondral bone)の活性指標であるオステオカルシン(Osteocalcin)、骨一型コラーゲンのカルボキシル末端(C-terminal of bone type I collagen: CTX1)、一型コラーゲン(Type I collagen: Col-I)、プロスタグランディンE2(PGE2)、などのバイオマーカーの濃度測定が行われました。
結果としては、骨関節炎郡の滑液では対照郡の滑液に比べて、CS846、CPII、Col-CEQ、C1,2C、オステオカルシン、Col-I、PGE2などが、有意に高い濃度を示しました。また、骨関節炎郡の血清では対照郡の血清に比べて、CS846、CPII、GAG、オステオカルシン、C1,2C、Co-Iなどが、有意に高い濃度を示しました。このため、馬の滑液中の七種類のバイオマーカー濃度、および、血清中の六種類のバイオマーカー濃度の測定が、骨関節炎の早期診断、および、関節鏡手術における術後モニタリングのための指標として有用であることが示唆されました。そして、今後の研究では、実際の臨床症例における、健常馬および骨関節炎に起因する跛行馬のデータを比較することで、滑液および血清のバイオマーカー濃度を用いての診断による、感度(Sensitivity)、特異度(Specificity)、陽性反応的中率(Predictive value of positive test)などを算出して、対照郡と症例郡の馬のあいだの判別能(Discriminant ability)を評価する必要があると考えられました。
この研究では、六種類の滑液および血清のバイオマーカー(CS846、CPII、GAG、Col-CEQ、C1,2C、オステオカルシン、Col-I)の濃度が、運動負荷のみによっても有意な増加を示していました。このため、これらのバイオマーカーを関節疾患の診断指標とするためには、運動強度および運動期間(Exercise intensity/length)に応じた正常値を決定して、各サンプルのバイオマーカー濃度の有意性(Significance)を慎重に判断する必要がある、という警鐘が鳴らされています。また、この研究では使用された実験馬の全頭が二歳齢であったため、今後の研究では、加齢に伴うバイオマーカー濃度の変動の有無、およびその度合いを調査する必要があると考えられました。
この研究では、血清バイオマーカーの濃度と、跛行(Lameness)および屈曲試験での疼痛反応(Pain response at flexion test)とのあいだに、有意な正の相関(Positive correlation)が認められましたが、血清バイオマーカー濃度と関節膨満(Joint effusion)とのあいだには有意な相関はありませんでした。このため、血清バイオマーカーの濃度上昇は、関節軟骨の変性に起因する関節内疼痛(Intra-articular pain)を反映しているものの、滑液増加の主要因である滑膜炎(Synovitis)の重篤度はあまり反映していなかった、という考察がなされています。
一般的に、滑液採取が行われた馬の関節では、約12時間にわたるメイトリックス・メタロプロテイナーゼ(Matrix metalloproteinase)の濃度上昇と、約60時間にわたるGAGおよびPGE2の濃度上昇が起きることが知られています(Brama et al. EVJ. 2004;36:34, Van den Boom et al. EVJ. 2005;37:250)。今回の研究では、滑液検査は一週間に一回しか行われていないため、滑液採取の繰り返しが、バイオマーカー濃度の与えた影響は殆ど無かったと考察されています。
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