馬の文献:手根骨破片骨折(Kawcak et al. 2008)
文献 - 2016年06月26日 (日)
「馬の運動および実験的骨関節炎が診断画像に与える影響」
Kawcak CE, Frisbie DD, Werpy NM, Park RD, McIlwraith CW. Effects of exercise vs experimental osteoarthritis on imaging outcomes. Osteoarthritis Cartilage. 2008; 16(12): 1519-1525.
この研究論文では、手根破片骨折(Carpal chip fracture)の骨片摘出(Fragment removal)の予後に大きく影響する骨関節炎(Osteoarthritis)に対する、様々な画像診断法の有用性を評価するため、十六頭の健常馬を三週間にわたってトレッドミル運動させ、その後、八頭には関節鏡(Arthroscopy)による偽手術(Sham surgery)を行い(=対照郡)、残りの八頭には片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成することで骨関節炎を誘導して(=骨関節炎郡)、術後の十週間目における、レントゲン検査(Radiography)、核医学検査(Nuclear scintigraphy)、CT検査(Computed tomography)、MRI検査(Magnetic resonance imaging)、滑液検査(Arthrocentesis)が行われました。
この研究におけるレントゲン検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、骨融解(Bone lysis)、骨増生(Bone proliferation)、骨棘(Osteophytes)などの所見が有意に多く見られました。このうち、骨融解所見は跛行(Lameness)および二型コラーゲンのペプチド断片(CPII)の濃度と強い相関を示し、また、骨増生所見はプロスタグランディンE2濃度および白血球数と強く相関していました。さらに、骨棘所見は屈曲試験での疼痛反応(Pain response on flexion test)と中程度に相関していました。この論文では、レントゲン検査が適応性と病理性変化を鑑別する能力は示されなかった(Radiography did not provide the ability to differentiate adaptive from pathologic changes)と述べられていますが、この考察文の表現は少し不明瞭であるかもしれません。
この研究における核医学検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)が有意に高かったことが示されました。このうち、放射医薬性取込の増加度合いは、関節膨満(Joint effusion)、白血球数、および、関節軟骨に含まれるアグリカン成分の分解産物であるCS846抗原決定基(CS846 epitope)、二型コラーゲン分解(Type II collagen degradation)の指標であるCol-CEQ抗原決定基、軟骨下骨(Subchondral bone)の活性指標であるオステオカルシン(Osteocalcin)、一型および二型コラーゲン(Type I/II collagen: Col-I/II)、CPIIなどの濃度と、有意な相関を示してしました。過去の文献では、運動のみによる放射医薬性取込の増加は、球節(Fetlock joint)には認められたものの、手根関節には見られなかったことが報告されており(Kawcak et al. AJVR. 2000;61:1252)、この違いは関節容積の相違に由来する可能性がある、という考察がなされています。
この研究におけるCT検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、橈側手根骨(Radial carpal bone)または第三手根骨(Third carpal bone)における軟骨下骨および柵状骨(Trabecular bone)の骨硬化領域の体積(Volume of sclerotic bone)がやや高い傾向を示したものの、いずれも統計的な有意差は認められませんでした。そして、これらのCT所見は臨床所見、滑液所見、他の画像所見のいずれとも、有意には相関していませんでした。しかし、骨関節炎郡の手根関節では、柵状骨の骨硬化が亢進している傾向が認められ、この所見は、軟骨欠損の周辺部における物理的負荷の増加(Increased mechanical stress in areas around the lesion)を反映している可能性があると考察されています。
この研究におけるMRI検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、橈側手根骨における骨浮腫(Bone edema)および骨硬化、関節包の肥厚化(Joint capsule thickening)、滑膜増生(Synovial membrane proliferation)などが有意に高かったことが示されました。このうち、骨浮腫所見は屈曲試験での疼痛反応、関節膨満、Col-CEQ濃度、Col-I/II濃度、CPII濃度などと有意な相関を示し、また、骨硬化所見は滑液透明度(Synovial fluid clarity)と強い相関を示していました。このため、馬の骨関節炎の診断に際しては、MRI検査はレントゲン検査やCT検査よりも優れており、軟骨下骨だけでなく、関節軟骨、関節包、滑膜などの精密検査のために有用であることが示唆されました。さらに、レントゲン検査における骨融解所見は、MRI検査における骨浮腫所見と有意に相関しており、また、核医学検査における放射医薬性取込の増加度合いは、MRI検査における骨浮腫および骨硬化所見と有意に相関していました。
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この研究論文では、手根破片骨折(Carpal chip fracture)の骨片摘出(Fragment removal)の予後に大きく影響する骨関節炎(Osteoarthritis)に対する、様々な画像診断法の有用性を評価するため、十六頭の健常馬を三週間にわたってトレッドミル運動させ、その後、八頭には関節鏡(Arthroscopy)による偽手術(Sham surgery)を行い(=対照郡)、残りの八頭には片方の前肢の遠位橈側手根骨(Distal radial carpal bone)に軟骨欠損(Cartilage defect)を作成することで骨関節炎を誘導して(=骨関節炎郡)、術後の十週間目における、レントゲン検査(Radiography)、核医学検査(Nuclear scintigraphy)、CT検査(Computed tomography)、MRI検査(Magnetic resonance imaging)、滑液検査(Arthrocentesis)が行われました。
この研究におけるレントゲン検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、骨融解(Bone lysis)、骨増生(Bone proliferation)、骨棘(Osteophytes)などの所見が有意に多く見られました。このうち、骨融解所見は跛行(Lameness)および二型コラーゲンのペプチド断片(CPII)の濃度と強い相関を示し、また、骨増生所見はプロスタグランディンE2濃度および白血球数と強く相関していました。さらに、骨棘所見は屈曲試験での疼痛反応(Pain response on flexion test)と中程度に相関していました。この論文では、レントゲン検査が適応性と病理性変化を鑑別する能力は示されなかった(Radiography did not provide the ability to differentiate adaptive from pathologic changes)と述べられていますが、この考察文の表現は少し不明瞭であるかもしれません。
この研究における核医学検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)が有意に高かったことが示されました。このうち、放射医薬性取込の増加度合いは、関節膨満(Joint effusion)、白血球数、および、関節軟骨に含まれるアグリカン成分の分解産物であるCS846抗原決定基(CS846 epitope)、二型コラーゲン分解(Type II collagen degradation)の指標であるCol-CEQ抗原決定基、軟骨下骨(Subchondral bone)の活性指標であるオステオカルシン(Osteocalcin)、一型および二型コラーゲン(Type I/II collagen: Col-I/II)、CPIIなどの濃度と、有意な相関を示してしました。過去の文献では、運動のみによる放射医薬性取込の増加は、球節(Fetlock joint)には認められたものの、手根関節には見られなかったことが報告されており(Kawcak et al. AJVR. 2000;61:1252)、この違いは関節容積の相違に由来する可能性がある、という考察がなされています。
この研究におけるCT検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、橈側手根骨(Radial carpal bone)または第三手根骨(Third carpal bone)における軟骨下骨および柵状骨(Trabecular bone)の骨硬化領域の体積(Volume of sclerotic bone)がやや高い傾向を示したものの、いずれも統計的な有意差は認められませんでした。そして、これらのCT所見は臨床所見、滑液所見、他の画像所見のいずれとも、有意には相関していませんでした。しかし、骨関節炎郡の手根関節では、柵状骨の骨硬化が亢進している傾向が認められ、この所見は、軟骨欠損の周辺部における物理的負荷の増加(Increased mechanical stress in areas around the lesion)を反映している可能性があると考察されています。
この研究におけるMRI検査では、骨関節炎郡の手根関節では、対照郡の手根関節に比べて、橈側手根骨における骨浮腫(Bone edema)および骨硬化、関節包の肥厚化(Joint capsule thickening)、滑膜増生(Synovial membrane proliferation)などが有意に高かったことが示されました。このうち、骨浮腫所見は屈曲試験での疼痛反応、関節膨満、Col-CEQ濃度、Col-I/II濃度、CPII濃度などと有意な相関を示し、また、骨硬化所見は滑液透明度(Synovial fluid clarity)と強い相関を示していました。このため、馬の骨関節炎の診断に際しては、MRI検査はレントゲン検査やCT検査よりも優れており、軟骨下骨だけでなく、関節軟骨、関節包、滑膜などの精密検査のために有用であることが示唆されました。さらに、レントゲン検査における骨融解所見は、MRI検査における骨浮腫所見と有意に相関しており、また、核医学検査における放射医薬性取込の増加度合いは、MRI検査における骨浮腫および骨硬化所見と有意に相関していました。
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