馬の病気:食道憩室
馬の消化器病 - 2013年04月08日 (月)

食道憩室(Esophageal diverticula)について。
食道内腔に袋状の拡張部を生じる疾患で、壁外からの張力に起因する牽引性憩室(Traction diverticula)(=真性憩室:True diverticula)と、内腔圧の上昇に起因する圧出性憩室(Pulsion diverticula)(=偽憩室:False diverticula)の二つの病態に分類されます。牽引性憩室が食道周囲組織の損傷とその後に起こる収縮(Periesophageal tissue wound and subsequent contraction)によって引き起こされるのに対して、圧出性憩室は頚部外傷(Neck trauma)や急激な内圧変化(Acute changes in intraluminal pressure)が病因であると考えられています。
食道憩室の症状としては、牽引性憩室は通常は無症候性(Asymptomatic)に進行して、臨床上の有意性が低いのに対して、圧出性憩室の内腔には摂食物が詰まり易く、食道閉塞(Esophageal obstruction)を続発する危険が高いことが知られています。通常、頚部食道の膨満が見られるのに、胃カテーテルを通過させられる場合には、食道憩室を疑う必要があります。造影レントゲン検査(Contrast radiography)および内視鏡検査(Endoscopy)においては、牽引性憩室では幅の広い基底部を有する内腔の拡張像(Lumenal dilatation with a broad neck)が認められるのに対して、圧出性憩室では幅の狭い突出基底部を有する内腔のフラスコ状突出像(Flask-shaped protrusion with a narrow neck)が見られます。また、憩室周囲組織の超音波検査(Ultrasonography)によって、食道筋層の不連続性(Discontinuity of muscular layer)が確認される場合もあります。
牽引性憩室を起こした症例では、治療を要することは殆どありませんが、圧出性憩室を呈した場合には、損傷部位の辺縁切除(Marginal resection)と筋層再構築(Muscular layer reconstruction)を介しての、粘膜および粘膜下嚢の反転(Inversion of mucosal/submucosal sac)が試みられる場合もあります。しかし、サイズの大きい圧出性憩室では、反転させた過剰な粘膜層(Excessive mucosal layer)が突出を起こして、食道狭窄化(Esophageal stenosis)や食道閉塞の原因となる可能性が示唆されており、この場合には、食道造瘻術(Esophagostomy)を介しての憩室切除術(Diverticulectomy)を要することもあります。
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