馬の文献:手根骨盤状骨折(Lindsay et al. 1981)
文献 - 2016年07月24日 (日)

「馬の手根関節手術:89症例の調査と機能回復の評価」
Lindsay WA, Horney FD. Equine carpal surgery: A review of 89 cases and evaluation of return to function. J Am Vet Med Assoc. 1981; 179(7): 682-685.
この症例論文では、馬の手根骨破片骨折(Carpal chip fracture)および手根骨盤状骨折(Carpal slab fracture)の病態把握、および外科的療法による治療効果を評価するため、1970~1976年にかけて、手根骨骨折の治療のために関節切開術(Arthrotomy)が応用された89頭の症例の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、89頭の症例のうち、手根骨破片骨折は74%、手根骨盤状骨折は26%を占めており、このうち、経過追跡ができた58頭の患馬では、レース復帰率は83%でした。そして、レース復帰した48頭を見ると、骨折前と同レベルまたはより高いレベルでの競走に復帰した馬は38%にとどまり、骨折前と治療後に同じ回数だけ出走した馬の獲得賞金を見ると、骨折前の約6,400ドルから、治療後には約3,000ドルまで顕著に低下していました。しかし、この研究は関節鏡手術(Arthroscopy)が普及する以前の報告であり、これ以後の他の症例報告とのデータ比較は難しいと言えます。
この研究では、手根骨盤状骨折に対しては、骨折片の摘出(Fragment removal)または螺子固定術(Lag screw fixation)が実施されましたが、これらの術式の選択基準(Selection criteria)は述べられていません。また、手根骨盤状骨折を呈して術後の経過追跡ができた馬を見ると、骨片摘出された場合のレース復帰率は40%、螺子固定された場合のレース復帰率は60%であったことが示され、骨折片が外科的整復された症例のほうがやや予後が良い傾向が認められました(サンプル数が少ないため両術式のあいだに統計的な有意差はなし)。
この研究では、手根骨破片骨折を呈した66頭の患馬のうち、骨折の発生箇所を見ると、遠位橈骨(Distal radius)が30%と最も多く、次いで、遠位橈側手根骨(Distal edge of radial carpal bone)が27%、第三手根骨(Third carpal bone)が24%、近位橈側手根骨(Proximal edge of radial carpal bone)が14%などとなっていました。このうち、遠位橈側手根骨の破片骨折では、他の箇所の破片骨折に比べて、レース復帰率および獲得賞金が顕著に低い傾向が認められました。
この研究では、手根骨骨折の全症例のうち、サラブレッドが87%を占めており、これは、来院症例全体に占めるサラブレッドの割合(34%)よりも顕著に高い傾向を示し、手根関節の疾患はサラブレッド競走馬に好発することが示唆されました。一方、手根骨骨折の罹患肢を見ると、左前肢(52%)と右前肢(48%)とのあいだに、顕著な差は見られませんでした。
この研究では、89頭の症例のうち10頭では、手術前にコルチコステロイドの関節注射(Joint injection)が行われており、これらの患馬は、他の症例に比べて、骨折前および治療後ともに出走数が有意に多かったものの、骨折前に比べて治療後のほうが、競走レベルおよび獲得賞金が顕著に悪化している傾向が示されました。
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