馬の文献:手根骨盤状骨折(Fischer et al. 1987)
文献 - 2016年07月25日 (月)
「馬の第三手根骨の矢状骨折:1977~1985年の12症例」
Fischer AT Jr, Stover SM. Sagittal fractures of the third carpal bone in horses: 12 cases (1977-1985). J Am Vet Med Assoc. 1987; 191(1): 106-108.
この症例論文では、馬の手根骨盤状骨折(Carpal slab fracture)における診断法および治療法を検討するため、1977~1985年にかけて、第三手根骨の矢状骨折(Sagittal fracture of the third carpal bone)を呈した12頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
第三手根骨の矢状骨折の診断では、手根関節の屈曲位における30度の角度での近位背側遠位背側撮影像(30-degree dorsoproximal-to-dorsodistal view)(いわゆる遠位列スカイライン像:Distal-row skyline view)において骨折線が確認され、他のタイプの撮影像では骨折線が見られたものはありませんでした。また、二頭の症例では、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の続発も示されました。このため、馬の手根関節の診断におけるレントゲン検査では、必ずスカイライン撮影像を含めることで、矢状骨折などの比較的に稀な関節内病態(Intra-articular disorder)も、見落とさないようにすることが重要であると考えられました。
第三手根骨の矢状骨折の治療では、一頭を除いて、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が応用され、残りの一頭は骨折片の外科的摘出(Surgical removal of fracture fragment)が実施されました。そして、12頭の患馬における生存率(Survival rate)は83%(10/12頭)で、意図した用途への運動復帰(Returned to intended use)に復帰した馬は58%(7/12頭)でした。他の文献では、第三手根骨の矢状骨折に対する螺子固定術(Lag screw fixation)も試みられていますが、この際のレース復帰率は六割弱であったことが報告されています(Richardson. JAVMA. 1986;188:288)。
このため、馬の第三手根骨の矢状骨折では、保存性療法によって、外科的療法とあまり変わらない、中程度の予後が期待され、競走復帰を果たす馬の割合も比較的に多いことが示唆されました。しかし、術前レントゲン検査(Pre-operative radiography)において、顕著な骨折片変位(Marked fragment displacement)が認められた場合には、内固定術(Internal fixation)を介しての骨片の不動化(Immobilization)によって、骨折治癒の促進(Fracture healing enhancement)、および、二次性の骨関節炎(Secondary osteoarthritis)の予防効果が期待できると考察されています。
この研究では、12頭の患馬のうち10頭では、第三手根骨の内側部(Medial aspect)に矢状骨折を起こしており、この10頭のうち五頭では、遠位橈側手根骨(Distal edge of radial carpal bone)の破片骨折(Chip fracture)を併発していました。これらの症例では、二箇所の骨折が同時に発生したものであるかは明確ではありませんが、橈側手根骨の破片骨折が先に起こり、この骨片が関節面に変位することでクサビの作用を示して、第三手根骨の亀裂を生じるという病因論(Etiology)も仮説されています。
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この症例論文では、馬の手根骨盤状骨折(Carpal slab fracture)における診断法および治療法を検討するため、1977~1985年にかけて、第三手根骨の矢状骨折(Sagittal fracture of the third carpal bone)を呈した12頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
第三手根骨の矢状骨折の診断では、手根関節の屈曲位における30度の角度での近位背側遠位背側撮影像(30-degree dorsoproximal-to-dorsodistal view)(いわゆる遠位列スカイライン像:Distal-row skyline view)において骨折線が確認され、他のタイプの撮影像では骨折線が見られたものはありませんでした。また、二頭の症例では、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の続発も示されました。このため、馬の手根関節の診断におけるレントゲン検査では、必ずスカイライン撮影像を含めることで、矢状骨折などの比較的に稀な関節内病態(Intra-articular disorder)も、見落とさないようにすることが重要であると考えられました。
第三手根骨の矢状骨折の治療では、一頭を除いて、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が応用され、残りの一頭は骨折片の外科的摘出(Surgical removal of fracture fragment)が実施されました。そして、12頭の患馬における生存率(Survival rate)は83%(10/12頭)で、意図した用途への運動復帰(Returned to intended use)に復帰した馬は58%(7/12頭)でした。他の文献では、第三手根骨の矢状骨折に対する螺子固定術(Lag screw fixation)も試みられていますが、この際のレース復帰率は六割弱であったことが報告されています(Richardson. JAVMA. 1986;188:288)。
このため、馬の第三手根骨の矢状骨折では、保存性療法によって、外科的療法とあまり変わらない、中程度の予後が期待され、競走復帰を果たす馬の割合も比較的に多いことが示唆されました。しかし、術前レントゲン検査(Pre-operative radiography)において、顕著な骨折片変位(Marked fragment displacement)が認められた場合には、内固定術(Internal fixation)を介しての骨片の不動化(Immobilization)によって、骨折治癒の促進(Fracture healing enhancement)、および、二次性の骨関節炎(Secondary osteoarthritis)の予防効果が期待できると考察されています。
この研究では、12頭の患馬のうち10頭では、第三手根骨の内側部(Medial aspect)に矢状骨折を起こしており、この10頭のうち五頭では、遠位橈側手根骨(Distal edge of radial carpal bone)の破片骨折(Chip fracture)を併発していました。これらの症例では、二箇所の骨折が同時に発生したものであるかは明確ではありませんが、橈側手根骨の破片骨折が先に起こり、この骨片が関節面に変位することでクサビの作用を示して、第三手根骨の亀裂を生じるという病因論(Etiology)も仮説されています。
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