馬の病気:中節骨骨折
馬の骨折 - 2013年07月25日 (木)

中節骨骨折(Middle phalanx fracture)について。
中節骨(=冠骨)の骨折は、ウェスタン競技のクォーターホースに最も多く見られ、前肢よりも後肢に好発することが報告されています。中節骨骨折の病因としては、冠関節の過伸展(Hyperextension of pastern joint)、浅屈腱(Superficial digital flexor tendon)もしくは遠位種子骨靭帯(Distal sesamoidian ligaments)による過張力(Excessive tension)、冠関節捻転(Pastern joint torsion)などが挙げられています。中節骨骨折に対しては、骨折のタイプに応じて、様々な治療法が推奨されています。
掌側骨軟骨骨折(Palmar osteochondral fracture)は、冠関節の過伸展に起因する裂離骨折(Avulsion fracture)であると考えられており、無症候性(Asymptomatic)に進行して、偶発的に発見(Incidental finding)されることも多い病態であるため、治療に際しては診断麻酔(Diagnostic anesthesia)を用いることで、跛行との因果関係を確認する事が重要です。外科的療法としては、関節内骨折では関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片除去(Fracture fragment removal)が行われ、また、関節外骨折では腱鞘切開術(Tendon sheath resection)を介しての骨折片除去が有効です。
掌側隆起骨折(Palmar eminence fracture)は、重度の冠関節過伸展によって起こり、片軸性骨折(Uniaxial fracture)では中程度~重度の跛行(Moderate to severe lameness)を呈しますが、関節安定性はある程度維持されるため、軽度の冠関節の亜脱臼(Pastern joint subluxation)を示す症例が殆どです。しかし、両軸性骨折(Biaxial fracture)では重篤な関節不安定性(Joint instability)を生じるため、冠関節脱臼(Pastern joint luxation)を続発して不負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)を示します。片軸性骨折では隆起骨折片の螺子固定術(Lag screw fixation)が試みられる事もありますが、殆どの症例において冠関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)(いわゆる高繋骨瘤:High ring bone)を併発するため、冠関節固定術(Pastern arthrodesis)による関節不動化が推奨されています。両軸性骨折では、冠関節固定術による脱臼整復が不可欠ですが、関節の不安定さを考慮して、螺子固定とプレート固定の併用によって、テンションバンド原理を作用させて、冠関節の安定度を向上させる事が重要です。冠関節固定術の潜在的な合併症(Potential complications)としては、長過ぎる螺子挿入による掌側軟部組織損傷、舟状骨症候群(Navicular syndrome)または蹄関節の変性関節疾患(いわゆる低繋骨瘤:Low ring bone)による跛行、蹄骨背側面の外骨腫形成(Exostosis formation)などが報告されています。
中節骨骨折では、七~八割が粉砕骨折(Comminuted fracture)を呈することが報告されており、冠関節および蹄関節脱臼(Pastern or coffin joint luxation)に起因する不負重性跛行を示します。外科的療法では、プレート固定によって骨折整復と冠関節固定術が行われ、術後のギプス固定が併用されます。重度の粉砕骨折において、骨折片の整復が困難な症例では、ギプス固定単独での治療が施され、蹄壁に通したワイヤーで蹄を遠位へ牽引しながらのギプス装着が有用です。また、様々な外固定手法(External fixation devices: Transfixation pin, Nunamaker external fixator, etc)の使用によって、骨折部位への体重負荷を緩和する手法が試みられる場合もあります。粉砕骨折治療では、治癒経過が長期に渡ることが多いため、砂馬房への変更や蹄叉支持パッドの装着による、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis)の予防処置を講じる事が大切です。
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の文献:中節骨骨折(Colahan et al. 1981)
馬の文献:中節骨骨折(Doran et al. 1987)
馬の文献:中節骨骨折(Bukowiecki et al. 1989)
馬の文献:中節骨骨折(Welch et al. 1991)
馬の文献:中節骨骨折(Crabill et al. 1995)
馬の文献:中節骨骨折(Rose et al. 1997)
馬の文献:中節骨骨折(Galuppo et al. 2000)
馬の文献:中節骨骨折(Radcliffe et al. 2008)
- 関連記事
-
-
馬の病気:中節骨骨折
-
馬の病気:橈骨骨折
-
馬の病気:骨盤骨折
-
馬の病気:肩甲骨骨折
-
馬の病気:副管骨骨折
-