馬の文献:手根骨盤状骨折(Schneider et al. 1988)
文献 - 2016年07月26日 (火)
「313頭の馬の371箇所の第三手根骨骨折における発症率、発症場所、および分類」
Schneider RK, Bramlage LR, Gabel AA, Barone LM, Kantrowitz BM. Incidence, location and classification of 371 third carpal bone fractures in 313 horses. Equine Vet J Suppl. 1988; (6): 33-42.
この症例論文では、馬の第三手根骨骨折(Third carpal bone fracture)の発症率(Incidence)の評価と病態把握のため、1979~1987年にかけて、第三手根骨の骨折を呈した313頭の患馬(371箇所の骨折)の、医療記録(Medical records)およびレントゲン像の解析が行われました。
この研究では、第三手根骨骨折を、タイプ1:橈側関節面の不完全骨折(Incomplete fractures of the radial facet)、タイプ2:サイズの大きい橈側関節面の近位破片骨折(Large proximal chip fractures of the radial facet)、タイプ3:サイズの小さい橈側関節面の近位破片骨折(Small proximal chip fractures of the radial facet)、タイプ4:内側角の骨折(Medial corner fractures)、タイプ5:橈側関節面の前面盤状骨折(Frontal plane slab fractures of the radial facet)、タイプ6:橈側関節面と中間関節面の両方にまたがるサイズの大きい前面盤状骨折(Large frontal plane slab fractures involving both the radial and intermediate facets)、タイプ7:中間関節面の骨折(Fractures of the intermediate facet)、タイプ8:矢状盤状骨折(Sagittal slab fractures)、という八種類に分類されました。
この研究では、313頭の第三手根骨骨折の罹患馬のうち、サラブレッドが42%、スタンダードブレッドが57%、クォーターホースが1%を占めていました。しかし、この品種比率は、この病院の来院症例全体に占める各品種の割合とは比較されていないため、スタンダードブレッドのほうがサラブレッドよりも第三手根骨骨折を起こしやすかったのか、もともとスタンダードブレッドの症例数が多い地域性であったのかは、正確には考察されていません。
この研究では、371箇所の第三手根骨骨折のうち、右前肢の骨折が60%、左前肢の骨折が40%を占めており、また、サラブレッドの症例を見ると、右前肢の骨折が68%、左前肢の骨折が27%というように(両側骨折が5%)、左右非対称性が有意に高かったことが示されました。この要因としては、逆時計回りに走行する競走馬においては、右前肢の内側部、および、左前肢の外側部に圧迫負荷(Compressive force)が掛かり易かったため、関節の内側部に位置している第三手根骨(特に橈側関節面)への衝撃が大きくなり易かったことが挙げられています。
この研究では、第三手根骨の骨折にも関わらず、中間手根関節の膨満(Mid-carpal joint effusion)が認められなかった症例は14%で、手根屈曲試験(Carpal flexion test)に陰性を示した馬(屈曲後に跛行悪化なし)も22%に達していました。そして、11%の症例におけるレントゲン検査(Radiography)では、屈曲位における遠位列スカイライン像(Distal-row skyline view)においてのみ骨折が見つかったことが報告されています。
タイプ1の第三手根骨骨折では、関節麻酔(Joint block)による疼痛箇所の限局化(Pain localization)を要した症例が、他の種類の第三手根骨骨折よりも、有意に多かったことが示され、また、このタイプの骨折の約六割では、スカイライン像のよってのみ骨折線が発見できたことが報告されています。さらに、タイプ1骨折では、他の種類とは異なり、左前肢(59%)のほうが右前肢(41%)よりも、高い発症率を示しており、この要因としては、タイプ1骨折は一回の衝撃ではなく、骨疲労の蓄積(Accumulation of bony fatigue)によって生じるという病因論(Etiology)が関与している、という考察がなされています。
タイプ2の第三手根骨骨折は、スタンダードブレッドでは最も多い(46%)タイプの第三手根骨骨折で、サラブレッドでも二番目に多い(27%)タイプの第三手根骨骨折であったことが示されました。タイプ2骨折では、その27%において、他の手根骨の破片骨折(橈側手根骨や中間手根骨など)を併発しており、また、その21%では、対側肢(Contralateral limb)の第三手根骨の骨折を併発していました。そして、タイプ1&2の第三手根骨骨折は、スタンダードブレッドのほうが、サラブレッドよりも、有意に高い発症率を示していました。
タイプ3の第三手根骨骨折では、その38%において、他の手根骨の破片骨折(橈側手根骨や中間手根骨など)を併発しており、また、その33%では、対側肢の第三手根骨の骨折を併発していました。そして、タイプ3骨折の半数以上(53%)では、骨片の変位(Fragment displacement)が認められました。
タイプ4の第三手根骨骨折は、第二手根骨と第三手根骨の境界部に骨折線が起始するかたちで、内側のコーナーに比較的に大きな骨折片を生じていました。そして、タイプ4骨折と矢状盤状骨折の鑑別のためには、スカイライン像の慎重な判読を要することが報告されています。
タイプ5の第三手根骨骨折は、サラブレッドでは最も多い(32%)タイプの第三手根骨骨折で、スタンダードブレッドでも二番目に多い(21%)タイプの第三手根骨骨折であったことが示されました。タイプ5骨折では、その15%において、粉砕骨折(Comminuted fracture)を併発しており、また、その33%では、骨片の変位が認められました。また、このタイプの骨折では、明らかな跛行(Obvious lameness)を呈する場合が殆どで、レントゲン検査では、内外側撮影像(Latero-medial view)または外背内掌側斜位撮影像(Dorsolateral-palmaromedial oblique view)によって骨折線が確認されることが多く、スカイライン像のみに骨折線が見られた症例は6%にとどまりました。
タイプ6の第三手根骨骨折では、レントゲン検査における外背内掌側斜位撮影像で、厚みのある盤状骨折片が見られることを特徴とし、スカイライン像を介して、骨折線が橈側関節面と中間関節面の両方に及んでいることが確認されました。タイプ6骨折では、重度の跛行を呈することが殆どで、その45%において、粉砕骨折を併発していました。また、その71%では、骨片の変位が認められ、手根部の不安定性(Carpal instability)や亜脱臼(Subluxation)を併発している症例もありました。そして、タイプ5&6の第三手根骨骨折は、サラブレッドのほうが、スタンダードブレッドよりも、有意に高い発症率を示していました。
タイプ7の第三手根骨骨折は、最も発症率の低い病態で、第三手根骨の中間関節面に生じた骨折の病態は、69%が盤状骨折で、31%が破片骨折であったことが報告されています。
タイプ8の第三手根骨骨折は、橈側関節面の内側部に矢状性の亀裂を生じており、その44%において、他の手根骨の破片骨折(橈側手根骨や中間手根骨など)を併発していましたが、粉砕骨折の併発や骨折片変位が見られた症例はありませんでした。
この研究では、第三手根骨の骨折は、全般的に橈側関節面に好発する傾向が見られ、中間関節面のみに骨折が及んでいた病態は4%に過ぎませんでした。この要因としては、内側よりに位置している橈側関節面には、中間関節面よりも多くの負荷が掛かること、および、中間関節面は第三手根骨と第四手根骨に連絡するように外側へと伸展しているため圧迫負荷が分散され、骨折に至りにくいこと、などが挙げられています。
この研究では、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の重篤度の評価も試みられており、タイプ1、タイプ2、タイプ5の骨折では、変性関節疾患がより軽度である傾向が認められました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:手根骨盤状骨折


Schneider RK, Bramlage LR, Gabel AA, Barone LM, Kantrowitz BM. Incidence, location and classification of 371 third carpal bone fractures in 313 horses. Equine Vet J Suppl. 1988; (6): 33-42.
この症例論文では、馬の第三手根骨骨折(Third carpal bone fracture)の発症率(Incidence)の評価と病態把握のため、1979~1987年にかけて、第三手根骨の骨折を呈した313頭の患馬(371箇所の骨折)の、医療記録(Medical records)およびレントゲン像の解析が行われました。
この研究では、第三手根骨骨折を、タイプ1:橈側関節面の不完全骨折(Incomplete fractures of the radial facet)、タイプ2:サイズの大きい橈側関節面の近位破片骨折(Large proximal chip fractures of the radial facet)、タイプ3:サイズの小さい橈側関節面の近位破片骨折(Small proximal chip fractures of the radial facet)、タイプ4:内側角の骨折(Medial corner fractures)、タイプ5:橈側関節面の前面盤状骨折(Frontal plane slab fractures of the radial facet)、タイプ6:橈側関節面と中間関節面の両方にまたがるサイズの大きい前面盤状骨折(Large frontal plane slab fractures involving both the radial and intermediate facets)、タイプ7:中間関節面の骨折(Fractures of the intermediate facet)、タイプ8:矢状盤状骨折(Sagittal slab fractures)、という八種類に分類されました。
この研究では、313頭の第三手根骨骨折の罹患馬のうち、サラブレッドが42%、スタンダードブレッドが57%、クォーターホースが1%を占めていました。しかし、この品種比率は、この病院の来院症例全体に占める各品種の割合とは比較されていないため、スタンダードブレッドのほうがサラブレッドよりも第三手根骨骨折を起こしやすかったのか、もともとスタンダードブレッドの症例数が多い地域性であったのかは、正確には考察されていません。
この研究では、371箇所の第三手根骨骨折のうち、右前肢の骨折が60%、左前肢の骨折が40%を占めており、また、サラブレッドの症例を見ると、右前肢の骨折が68%、左前肢の骨折が27%というように(両側骨折が5%)、左右非対称性が有意に高かったことが示されました。この要因としては、逆時計回りに走行する競走馬においては、右前肢の内側部、および、左前肢の外側部に圧迫負荷(Compressive force)が掛かり易かったため、関節の内側部に位置している第三手根骨(特に橈側関節面)への衝撃が大きくなり易かったことが挙げられています。
この研究では、第三手根骨の骨折にも関わらず、中間手根関節の膨満(Mid-carpal joint effusion)が認められなかった症例は14%で、手根屈曲試験(Carpal flexion test)に陰性を示した馬(屈曲後に跛行悪化なし)も22%に達していました。そして、11%の症例におけるレントゲン検査(Radiography)では、屈曲位における遠位列スカイライン像(Distal-row skyline view)においてのみ骨折が見つかったことが報告されています。
タイプ1の第三手根骨骨折では、関節麻酔(Joint block)による疼痛箇所の限局化(Pain localization)を要した症例が、他の種類の第三手根骨骨折よりも、有意に多かったことが示され、また、このタイプの骨折の約六割では、スカイライン像のよってのみ骨折線が発見できたことが報告されています。さらに、タイプ1骨折では、他の種類とは異なり、左前肢(59%)のほうが右前肢(41%)よりも、高い発症率を示しており、この要因としては、タイプ1骨折は一回の衝撃ではなく、骨疲労の蓄積(Accumulation of bony fatigue)によって生じるという病因論(Etiology)が関与している、という考察がなされています。
タイプ2の第三手根骨骨折は、スタンダードブレッドでは最も多い(46%)タイプの第三手根骨骨折で、サラブレッドでも二番目に多い(27%)タイプの第三手根骨骨折であったことが示されました。タイプ2骨折では、その27%において、他の手根骨の破片骨折(橈側手根骨や中間手根骨など)を併発しており、また、その21%では、対側肢(Contralateral limb)の第三手根骨の骨折を併発していました。そして、タイプ1&2の第三手根骨骨折は、スタンダードブレッドのほうが、サラブレッドよりも、有意に高い発症率を示していました。
タイプ3の第三手根骨骨折では、その38%において、他の手根骨の破片骨折(橈側手根骨や中間手根骨など)を併発しており、また、その33%では、対側肢の第三手根骨の骨折を併発していました。そして、タイプ3骨折の半数以上(53%)では、骨片の変位(Fragment displacement)が認められました。
タイプ4の第三手根骨骨折は、第二手根骨と第三手根骨の境界部に骨折線が起始するかたちで、内側のコーナーに比較的に大きな骨折片を生じていました。そして、タイプ4骨折と矢状盤状骨折の鑑別のためには、スカイライン像の慎重な判読を要することが報告されています。
タイプ5の第三手根骨骨折は、サラブレッドでは最も多い(32%)タイプの第三手根骨骨折で、スタンダードブレッドでも二番目に多い(21%)タイプの第三手根骨骨折であったことが示されました。タイプ5骨折では、その15%において、粉砕骨折(Comminuted fracture)を併発しており、また、その33%では、骨片の変位が認められました。また、このタイプの骨折では、明らかな跛行(Obvious lameness)を呈する場合が殆どで、レントゲン検査では、内外側撮影像(Latero-medial view)または外背内掌側斜位撮影像(Dorsolateral-palmaromedial oblique view)によって骨折線が確認されることが多く、スカイライン像のみに骨折線が見られた症例は6%にとどまりました。
タイプ6の第三手根骨骨折では、レントゲン検査における外背内掌側斜位撮影像で、厚みのある盤状骨折片が見られることを特徴とし、スカイライン像を介して、骨折線が橈側関節面と中間関節面の両方に及んでいることが確認されました。タイプ6骨折では、重度の跛行を呈することが殆どで、その45%において、粉砕骨折を併発していました。また、その71%では、骨片の変位が認められ、手根部の不安定性(Carpal instability)や亜脱臼(Subluxation)を併発している症例もありました。そして、タイプ5&6の第三手根骨骨折は、サラブレッドのほうが、スタンダードブレッドよりも、有意に高い発症率を示していました。
タイプ7の第三手根骨骨折は、最も発症率の低い病態で、第三手根骨の中間関節面に生じた骨折の病態は、69%が盤状骨折で、31%が破片骨折であったことが報告されています。
タイプ8の第三手根骨骨折は、橈側関節面の内側部に矢状性の亀裂を生じており、その44%において、他の手根骨の破片骨折(橈側手根骨や中間手根骨など)を併発していましたが、粉砕骨折の併発や骨折片変位が見られた症例はありませんでした。
この研究では、第三手根骨の骨折は、全般的に橈側関節面に好発する傾向が見られ、中間関節面のみに骨折が及んでいた病態は4%に過ぎませんでした。この要因としては、内側よりに位置している橈側関節面には、中間関節面よりも多くの負荷が掛かること、および、中間関節面は第三手根骨と第四手根骨に連絡するように外側へと伸展しているため圧迫負荷が分散され、骨折に至りにくいこと、などが挙げられています。
この研究では、変性関節疾患(Degenerative joint disease)の重篤度の評価も試みられており、タイプ1、タイプ2、タイプ5の骨折では、変性関節疾患がより軽度である傾向が認められました。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:手根骨盤状骨折