馬の文献:手根骨盤状骨折(Bueno et al. 2003)
文献 - 2016年07月29日 (金)
「馬の第三手根骨の模擬的盤状骨折における無頭漸減不定ピッチ螺子とAO皮質骨螺子の生体力学的比較」
Bueno AC, Galuppo LD, Taylor KT, Jensen DG, Stover SM. A biomechanical comparison of headless tapered variable pitch and AO cortical bone screws for fixation of a simulated slab fracture in equine third carpal bones. Vet Surg. 2003; 32(2): 167-177.
この研究論文では、馬の手根骨盤状骨折(Carpal slab fracture)に対する有用な外科的療法の術式を検討するため、八本の屍体前肢(Cadaver forelimbs)から採取した第三手根骨(Third carpal bone)に盤状骨切術(Slab osteotomy)を施し、それを無頭漸減不定ピッチ螺子(ACUTRAK® Headless tapered variable pitch screw:AT螺子)、または、AO規格の皮質骨螺子(AO cortical bone screw:AO螺子)を用いての螺子固定術(Lag screw fixation)によって整復し、剪断負荷試験(Shear loading test)を介しての物理的強度の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、降伏荷重(Yield load)、降伏変位度(Yield displacement)、降伏エネルギー(Yield energy)、硬度(Stiffness)、破損荷重(Failure load)、破損変位度(Failure displacement)、破損エネルギー(Failure energy)などの測定値においては、AT螺子とAO螺子のあいだに有意差は認められませんでしたが、初期降伏点(Initial yield point)における硬度は、AO螺子よりもAT螺子のほうが有意に高かったことが示されました。AT螺子は、螺子挿入箇所における軟部組織損傷(Soft-tissue irritation)が少なく、無頭のため皮質骨表面の傾斜を気にすることなく骨折面に垂直方向(Perpendicular to the fracture plane)へと螺子を挿入できる、などの利点があります。このため、馬の手根骨盤状骨折においても、AT螺子による内固定法(Internal fixation)を用いることで、通常のAO螺子と同程度の物理的強度(Physical strength)を維持しながら、関節周囲軟部組織への刺激や損傷(Peri-articular soft-tissue irritation/damage)を抑える効果が期待されると考えられました。
一般的に、骨折の整復後にAO螺子の螺子頭(Screw head)が折れてしまうと、骨折片間圧迫(Inter-fragmental compression)が失われてしまうため、無頭のAT螺子を用いる内固定法によって、この危険を回避できるという利点が挙げられています。しかし、直径6.5mmのAT螺子によって作用させられる圧迫力は、直径4.5mmのAO螺子の三分の二以下に過ぎず、また、圧迫力が作用される骨片面積は、AO螺子では54%であるのに対して、AT螺子では42%にとどまったことが報告されています。つまり、螺子頭が折れなかった場合には、AT螺子よりもAO螺子のほうが、より高い骨折片間圧迫を、より広い範囲に掛けられることが示唆されています。
この研究では、AO螺子に比べてAT螺子のほうが、ドリル穿孔および螺子挿入の際の最大捻転力(Maximum torque)や最大捻転負荷(Maximum torsional force)が、有意に高かったことが示されました。この違いは、AO螺子が深部側の骨折片のみにタップを刻んでいるのに対して、AT螺子は浅部側および深部側の両方の骨折片にタップを刻んでいること、そして、タップを刻む際にも骨折片間圧迫が生じていること、などに起因すると推測されており、このため、少なくとも螺子設置直後においては、AT螺子のほうがより堅固な骨片不動化(Fragment immobilization)を達成できる可能性があると考察されています。一方、ドリル穿孔および螺子挿入に要した合計時間は、AO螺子では約二分半であったのに対して、AT螺子では約五分半と有意に長く、このため、AT螺子では非常にゆっくりとドリル穿孔が螺子挿入されていることから、AT螺子挿入時の大きな捻転力によって生じた、螺子と骨組織のあいだの摩擦熱(Bone-to-screw frictional heat)によって、熱性骨壊死(Thermal bone necrosis)が起こる危険性は低いと考えられました。
一般的に、AO螺子では螺子頭のみが圧迫力の作用点であるため、AO螺子での内固定における硬度は、骨折片の表面積(Fragment surface area)と正の相関(Positive correlation)を示しますが、その一方で、AT螺子を用いた内固定法では、骨折片の表面積に関わらず、十分な骨折片間圧迫が加えられることが報告されています。このため、馬の手根骨盤状骨折においても、AT螺子を用いての骨折整復では、骨片のサイズに影響されることなく、常に良好な骨折部安定化(Fracture stabilization)が達成できると考えられました。
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この研究論文では、馬の手根骨盤状骨折(Carpal slab fracture)に対する有用な外科的療法の術式を検討するため、八本の屍体前肢(Cadaver forelimbs)から採取した第三手根骨(Third carpal bone)に盤状骨切術(Slab osteotomy)を施し、それを無頭漸減不定ピッチ螺子(ACUTRAK® Headless tapered variable pitch screw:AT螺子)、または、AO規格の皮質骨螺子(AO cortical bone screw:AO螺子)を用いての螺子固定術(Lag screw fixation)によって整復し、剪断負荷試験(Shear loading test)を介しての物理的強度の生体力学的比較(Biomechanical comparison)が行われました。
結果としては、降伏荷重(Yield load)、降伏変位度(Yield displacement)、降伏エネルギー(Yield energy)、硬度(Stiffness)、破損荷重(Failure load)、破損変位度(Failure displacement)、破損エネルギー(Failure energy)などの測定値においては、AT螺子とAO螺子のあいだに有意差は認められませんでしたが、初期降伏点(Initial yield point)における硬度は、AO螺子よりもAT螺子のほうが有意に高かったことが示されました。AT螺子は、螺子挿入箇所における軟部組織損傷(Soft-tissue irritation)が少なく、無頭のため皮質骨表面の傾斜を気にすることなく骨折面に垂直方向(Perpendicular to the fracture plane)へと螺子を挿入できる、などの利点があります。このため、馬の手根骨盤状骨折においても、AT螺子による内固定法(Internal fixation)を用いることで、通常のAO螺子と同程度の物理的強度(Physical strength)を維持しながら、関節周囲軟部組織への刺激や損傷(Peri-articular soft-tissue irritation/damage)を抑える効果が期待されると考えられました。
一般的に、骨折の整復後にAO螺子の螺子頭(Screw head)が折れてしまうと、骨折片間圧迫(Inter-fragmental compression)が失われてしまうため、無頭のAT螺子を用いる内固定法によって、この危険を回避できるという利点が挙げられています。しかし、直径6.5mmのAT螺子によって作用させられる圧迫力は、直径4.5mmのAO螺子の三分の二以下に過ぎず、また、圧迫力が作用される骨片面積は、AO螺子では54%であるのに対して、AT螺子では42%にとどまったことが報告されています。つまり、螺子頭が折れなかった場合には、AT螺子よりもAO螺子のほうが、より高い骨折片間圧迫を、より広い範囲に掛けられることが示唆されています。
この研究では、AO螺子に比べてAT螺子のほうが、ドリル穿孔および螺子挿入の際の最大捻転力(Maximum torque)や最大捻転負荷(Maximum torsional force)が、有意に高かったことが示されました。この違いは、AO螺子が深部側の骨折片のみにタップを刻んでいるのに対して、AT螺子は浅部側および深部側の両方の骨折片にタップを刻んでいること、そして、タップを刻む際にも骨折片間圧迫が生じていること、などに起因すると推測されており、このため、少なくとも螺子設置直後においては、AT螺子のほうがより堅固な骨片不動化(Fragment immobilization)を達成できる可能性があると考察されています。一方、ドリル穿孔および螺子挿入に要した合計時間は、AO螺子では約二分半であったのに対して、AT螺子では約五分半と有意に長く、このため、AT螺子では非常にゆっくりとドリル穿孔が螺子挿入されていることから、AT螺子挿入時の大きな捻転力によって生じた、螺子と骨組織のあいだの摩擦熱(Bone-to-screw frictional heat)によって、熱性骨壊死(Thermal bone necrosis)が起こる危険性は低いと考えられました。
一般的に、AO螺子では螺子頭のみが圧迫力の作用点であるため、AO螺子での内固定における硬度は、骨折片の表面積(Fragment surface area)と正の相関(Positive correlation)を示しますが、その一方で、AT螺子を用いた内固定法では、骨折片の表面積に関わらず、十分な骨折片間圧迫が加えられることが報告されています。このため、馬の手根骨盤状骨折においても、AT螺子を用いての骨折整復では、骨片のサイズに影響されることなく、常に良好な骨折部安定化(Fracture stabilization)が達成できると考えられました。
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