馬の文献:手根骨盤状骨折(Rutherford et al. 2007)
文献 - 2016年07月30日 (土)

「馬の第三手根骨の橈側関節面における不完全前面骨折に対する螺子固定術の治療成績」
Rutherford DJ, Bladon B, Rogers CW. Outcome of lag-screw treatment of incomplete fractures of the frontal plane of the radial facet of the third carpal bone in horses. N Z Vet J. 2007; 55(2): 94-99.
この症例論文では、第三手根骨(second carpal bone)の橈側関節面(Radial facet)における不完全前面盤状骨折(Incomplete frontal slab fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1999~2005年にかけて、第三手根骨の橈側関節面前面骨折を呈して、螺子固定術(Lag-screw fixation)による治療が応用された13頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、13頭の罹患馬のうち、レース復帰を果たしたのは85%に及び、手術からレース復帰までの平均休養期間は約五ヶ月(292日)であったことが示されました。また、骨折前と治療後の両方において出走していた馬では、その60%が骨折前よりもレベルの高いレースへの出走を果たしていました。このため、馬の第三手根骨の橈側関節面における不完全前面盤状骨折に対しては、螺子固定を介しての外科的療法によって、十分な骨折治癒と良好な予後が期待され、レース復帰および競走能力の維持を果たす馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。
この研究では、13頭の各症例に対して、品種、年齢、性別などの合致する対照馬(Control horse)が選択され、この対照郡と症例郡のデータの比較が行われましたが、両郡のあいだに、出走数および競走成績スコアの有意差は認められず、骨折したことによって競走能力に影響がでる統計的な可能性は殆どゼロに近かった(オッズ比:0.99)ことが示されました。一方、13頭の症例のうち四頭では、中間手根関節(Mid-carpal joint)に起因する跛行によって、対照郡よりも引退時期が早くなった傾向が認められたことから、第三手根骨の橈側関節面における不完全前面盤状骨折に対しては、螺子固定を介しての外科的療法による治療成功率は69%と見なされる、という考察がなされています。
一般的に、馬の第三手根骨の橈側関節面における不完全前面骨折では、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)や(Zekas et al. EVJ. 1999;31:309)、骨片除去(Fragment removal)および病巣清掃(Debridement)による治療法も試みられており(Moore et al. JAVMA. 1995;206:1741)、それぞれ中程度~良好な予後が報告されています。今回の症例報告では、不完全骨折から完全骨折(Complete fracture)への病態悪化(Fracture exacerbation)を防いだり、骨折箇所の一次性治癒(Primary healing)を促進したり、また、骨片除去よりも関節軟骨損失(Articular cartilage loss)を抑える、などの目的で螺子固定術が選択されました。当然ながら、これらの症例郡に対しては、前向き臨床試験(Prospective clinical trial)のように、治療方法を無作為に選択(Random selection)することは難しいため、それぞれの外科的療法の治療効果を直接的に比較するのは難しい、という考察がなされています。
この研究では、術後の二~四ヶ月目におけるレントゲン検査では、骨折治癒が確認された症例は69%にとどまりましたが、この時点で骨折治癒していた馬のレース復帰率は88%であったのに対して、この時点で骨折治癒が完了していなかった馬のレース復帰率も75%に達していました。そして、術後の半年~一年目におけるレントゲン検査では、全症例において骨折治癒が認められたことから、術後の二~四ヶ月目における骨折治癒完了の有無は、その後の競走復帰には有意には相関しなかったことが示されました。
この研究では、骨折部における関節損傷を定量的評価(Quantitative analysis)するため、グレード1:僅かな関節軟骨の細繊維化および骨折縁から5mm以内の破片化、グレード2:骨折縁から5mm以上および関節面の30%以下の関節軟骨変性、グレード3:関節面の50%に達する関節軟骨変性、グレード4:骨折による重度の骨損失、という四段階の病変点数化システムが応用されました(McIlwraith et al. JAVMA. 1987;191:531.)。そして、今回の研究に含まれた13頭の患馬における関節損傷は、すべてグレード1にとどまったことが報告されており、このように骨折に起因する軟骨損傷の重篤度が低かったため、術後に変性関節疾患(Degenerative joint disease)などの合併症(Complication)を続発する危険性が低く抑えられ、良好な予後を呈する馬が比較的に多くなった、と推測されています。
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