馬の文献:橈骨骨折(Hilbert et al. 1980)
文献 - 2016年08月13日 (土)
「近位外側橈骨の剥離骨折に対して内固定が応用された馬の一症例」
Hilbert BJ, Jacobs K, Moir D. Internal fixation of an avulsion fracture off the lateral proximal radius in a horse. Aust Vet J. 1980; 56(5): 228-229.
この症例論文では、馬の近位外側橈骨(Lateral proximal radius)の剥離骨折(Avulsion fracture)に対する内固定法(Internal fixation)が応用された馬の一症例が報告されています。
患馬は、十八ヶ月齢のサラブレッドのオスの子馬(Thoroughbred colt)で、転倒の後、七日間にわたる左前肢の肘関節周囲の跛行および腫脹(Lameness/Swelling around elbow joint)の病歴で来院しました。レントゲン検査では、近位橈骨の外側結節(Lateral tuberosity of proximal radius)に骨折片が確認され、肘関節の外側側副靭帯(Lateral collateral ligament)の付着部における剥離骨折の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、骨折線が肘関節面に及んでいたことから、治療としては内固定法による外科的治療が選択されました。
治療では、右側横臥位(Right lateral recumbency)による全身麻酔下(Under general anesthesia)において、近位橈骨外側結節の腫脹箇所で、総指伸筋の起始部(Origin of common digital extensor muscle)と外側尺骨筋(Ulnaris lateralis muscle)のあいだに設けられた切開創を介してアプローチされました。そして、骨折片を持ち上げてから、関節腔内の血塊(Clot)および肉芽組織(Granulation tissue)を除去し、海綿骨螺子(Cancellous bone)と皮質骨螺子(Cortical bone)を一本ずつ用いて、骨折片の螺子固定術(Lag-screw fixation of fracture fragment)が実施されました。
患馬は、順調な麻酔覚醒(Uneventful anesthesia recovery)を見せ、手術から十日目の退院時には跛行は見られませんでした。そして、術後の七週間目における再検査では、患馬は無跛行で、レントゲン検査では、良好な骨折治癒(Adequate fracture healing)と正常なインプラントの残存(Intact implants)が認められました。このため、子馬の遠位外側橈骨の剥離骨折に対しては、螺子固定術を介しての外科的療法によって、十分な骨折治癒と良好な予後が期待できることが示唆されました。
この研究では、骨折片の整復は、遠位肢を外転(Distal limb abduction)させた状態でのみ可能であったことから、外側側副靭帯の過緊張力(Excessive tensile force)に起因する剥離骨折であるという病因論(Etiology)が裏付けられ、横臥位で患肢を持ち上げた状態(Extreme traction)において、骨折片の螺子固定術が実施されました。また、螺子挿入時には螺子頭(Screw head)が骨片内に埋没する危険があったため、二本の螺子の両方に対して、螺子頭にワッシャーが使用されました。一方、術後のインプラント除去(Implant removal)の必要性およびその時期については、この論文内では考察されていません。
この患馬の骨折片自体は、摘出可能なほどサイズが小さかったものの、関節面の連続性(Continuity of joint surface)および肘関節の安定性(Elbow joint stability)を維持するために骨片整復が選択され(=外側側副靭帯は肘関節の安定性に大きく関与しているため)、この結果、術後に変性関節疾患(Degenerative joint disease)の続発などの合併症(Complication)を予防することができた、という考察がなされています。また、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)では、ワッシャーが関節面のすぐ脇に位置していましたが、これは撮影角度によるもので、ワッシャー自体は関節腔から十分離れた箇所に設置されたことが報告されています。
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患馬は、十八ヶ月齢のサラブレッドのオスの子馬(Thoroughbred colt)で、転倒の後、七日間にわたる左前肢の肘関節周囲の跛行および腫脹(Lameness/Swelling around elbow joint)の病歴で来院しました。レントゲン検査では、近位橈骨の外側結節(Lateral tuberosity of proximal radius)に骨折片が確認され、肘関節の外側側副靭帯(Lateral collateral ligament)の付着部における剥離骨折の確定診断(Definitive diagnosis)が下され、骨折線が肘関節面に及んでいたことから、治療としては内固定法による外科的治療が選択されました。
治療では、右側横臥位(Right lateral recumbency)による全身麻酔下(Under general anesthesia)において、近位橈骨外側結節の腫脹箇所で、総指伸筋の起始部(Origin of common digital extensor muscle)と外側尺骨筋(Ulnaris lateralis muscle)のあいだに設けられた切開創を介してアプローチされました。そして、骨折片を持ち上げてから、関節腔内の血塊(Clot)および肉芽組織(Granulation tissue)を除去し、海綿骨螺子(Cancellous bone)と皮質骨螺子(Cortical bone)を一本ずつ用いて、骨折片の螺子固定術(Lag-screw fixation of fracture fragment)が実施されました。
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この患馬の骨折片自体は、摘出可能なほどサイズが小さかったものの、関節面の連続性(Continuity of joint surface)および肘関節の安定性(Elbow joint stability)を維持するために骨片整復が選択され(=外側側副靭帯は肘関節の安定性に大きく関与しているため)、この結果、術後に変性関節疾患(Degenerative joint disease)の続発などの合併症(Complication)を予防することができた、という考察がなされています。また、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)では、ワッシャーが関節面のすぐ脇に位置していましたが、これは撮影角度によるもので、ワッシャー自体は関節腔から十分離れた箇所に設置されたことが報告されています。
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