馬の病気:球節破片骨折
馬の骨折 - 2013年07月26日 (金)

球節破片骨折(Fetlock chip fracture)について。
球節の破片骨折のうち、近位背側基節骨(Proximodorsal aspect of proximal phalanx)における骨軟骨破片骨折(Osteochondral chip fracture)は、サラブレッド競走馬に好発し、基節骨(=繋骨)の近位外側隆起(Proximolateral eminence)よりも近位内側隆起(Proximomedial eminence)に多く見られます。このタイプの骨折は、球節の過伸展(Hyperextension)に起因して発症し、また、変性関節疾患(Degenerative joint disease: DJD)による退行性組織の破片化(Fragmentation)も、病因の一つであると考えられています。症状としては、軽度~中程度の跛行(Mild to moderate lameness)、関節膨満(Joint effusion)、背側軟部組織の腫脹(Dorsal soft tissue swelling)、屈曲時の疼痛(Pain on flexion)などを呈しますが、無疼痛性に進行して偶発性に発見(Incidental finding)される事もあります。
球節の背側破片骨折の治療としては、保存性療法(Conservative therapy)による治癒も起こりうる事が報告されていますが(特に骨片のサイズが2mm以下の場合において)、休養期間の短縮とDJDの発症の危険を減少させるため、関節鏡手術(Arthroscopy)による骨折片の外科的除去(Surgical removal of fracture fragments)が推奨されています。術後には、七~八割の症例において競技および競走復帰が可能であることが示されていますが、球節のDJDを続発した場合には、有意に予後が悪いことが報告されています。
一方、近位掌側基節骨(Proximopalmar aspect of proximal phalanx)における骨軟骨破片骨折は、骨軟骨症(Osteochondrosis)による骨片形成との鑑別が難しく、その病因に関しては論議(Controversy)があります。症状としては、関節膨満(Joint effusion)や屈曲時の疼痛を呈しますが、跛行は一般に軽度で、高速での運動時のみに歩様異常を示す症例もあります。繋骨の近位掌側の破片骨折は、球関節掌側部において軸性裂離(Axial avulsion)を呈するタイプ1病態と、繋骨の掌側結節(Palmar tuberosity)において遠軸性裂離(Abaxial avulsion)を呈するタイプ2の病態に分類されます。
球節の掌側破片骨折の治療としては、タイプ1の病態では、レントゲン所見に加えて、球節の関節診断麻酔(Fetlock diagnostic anesthesia)によって疼痛原因であると特定された場合にのみ、関節鏡手術による骨片摘出が行われます。タイプ2の病態では、跛行の原因となることは稀であるため、外科的手術の対象となる症例はあまり多くありませんが、治療を要すると判断された場合には、関節鏡による骨片摘出、または螺子固定術(Lag screw fixation)による骨折片の整復が試みられます。
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