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馬の文献:橈骨骨折(Schneider et al. 1982)

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「馬の橈骨および脛骨へのギプス装着時または不装着時の力学的負荷における多方向性緊張の生体内解析」
Schneider RK, Milne DW, Gabel AA, Groom JJ, Bramlage LR. Multidirectional in vivo strain analysis of the equine radius and tibia during dynamic loading with and without a cast. Am J Vet Res. 1982; 43(9): 1541-1550.

この研究論文では、馬の橈骨骨折および脛骨骨折(Radius/Tibia fracture)に対する外固定法(External fixation)の治療効果を評価するため、二頭の実験馬を用いて、橈骨および脛骨に多方向性緊張測定センサー(Multidirectional strain gauge)を埋め込み、全肢ギプス装着または不装着状態(With and without full-limb cast)での歩行時における、骨緊張度の生体内解析(In vivo analysis)が行われました。

結果としては、歩行時の橈骨および脛骨における張力(Tensile force)は頭側および頭外側表面(Cranial/Cranio-lateral surface)に作用していましたが、全肢ギプス装着状態での歩行時には、この張力面(Tensile surface)が頭側&頭外側表面から尾側表面(Caudal surface)に移動していました。一般的に、馬の橈骨および脛骨の骨折に対する内固定法では、これらの骨の張力面である頭側および外側皮質骨面(Cranial/Lateral cortex)にプレートが設置されますが、術後に全肢ギプスが装着されると、歩行時には橈骨および脛骨の尾側皮質骨面(Caudal cortex)が張力面となってしまうため、プレート破損を引き起こす危険性が増すと推測されています。このため、プレート固定術が応用された馬の橈骨&脛骨骨折(特に遠位部骨折)では、敢えて全肢ギプスを装着しないことで、インプラント破損を予防する効果が期待できる、という考察がなされています。

この研究では、橈骨および脛骨の遠位部(Distal regions of radius/tibia)における最大負荷は、捻転力(Torsional force)として作用していることが示されました。一般的に、ギプス装着による外固定術では、屈曲性負荷(Bending load)はかなり有効に減退できるものの、捻転性負荷(Torsional loading)の減退作用は限られることが知られており、実際にこの実験では、遠位脛骨に掛かる捻転力は全肢ギプス装着の前後で有意には変化しなかったことが報告されています。このため、馬の橈骨および脛骨の遠位部骨折に対しては、ギプス装着による骨折部の不動化作用(Fracture immobilization)は限られており、また、後肢への全肢ギプスに起因して股関節脱臼(Hip joint luxation)や第三腓骨筋断裂(Peroneus tertius rupture)などの合併症(Complication)を続発する危険が高いことを考慮しても、全肢ギプス装着のみによる保存性療法(Conservative treatment)は推奨されない、という考察がなされています。

この研究において、全肢ギプス装着時の歩行によって張力面が移動した要因としては、手根関節(Carpal joint)または足根関節(Tarsal joint)が固定された状態で体重負荷されることで、ギプスより下部の肢に頭側から尾側への屈曲負荷が作用することが挙げられています。このため、ギプス装着と吊起帯(Sling)を併用することで、馬が全肢ギプスを装着した状態で馬房内を歩き回れないようにすることで、インプラントへと屈曲負荷が発生するのを防ぎつつ、外固定法による罹患肢の安定化作用を維持できると考えられます。また、この論文の発表時には考案されていませんでしたが、橈骨および脛骨の近位部に通したピンをギプス素材に埋め込み、経固定具ピンギプス(Transfixation-pin cast)の原理を用いて全肢ギプスを装着することで、捻転負荷をより効果的に減退できる可能性があるかもしれません。

この研究で示されたギプス装着による副作用は、主に馬が歩行する際に生じるものであるため、骨折手術後の麻酔覚醒時(Anesthesia recovery)には全肢ギプスでインプラントを保護して、馬が起立した後に速やかにギプスを除去する、という治療方針が有効である可能性もあると言えます。さらに、ロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate: LCP)を用いた内固定法では、プレートと皮質骨面は限定的にしか接触していないため、ダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)に比べて、プレートを張力皮質面に設置することの重要性はそれほど高くないため、ギプス装着を併用することによるマイナス作用はそれほど大きくはならない、という仮説も成り立つのではないでしょうか。

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