馬の文献:橈骨骨折(Martin et al. 1987)
文献 - 2016年08月18日 (木)

「保存性療法が応用された馬の橈骨最小変位性骨折の一症例」
Martin BB, Reef VB. Conservative treatment of a minimally displaced fracture of the radius of a horse. J Am Vet Med Assoc. 1987; 191(7): 847-848.
この症例論文では、橈骨の最小変位性骨折(Minimally displaced fracture of radius)を呈して、保存性療法(Conservative treatment)が応用された馬の一症例が報告されています。
患馬は、六歳齢のサラブレッドの去勢馬(Gelding)で、蹴傷による六日間の跛行(Lameness)の病歴で来院し(速歩時のみの跛行)、右前肢の遠位内側橈骨(Disto-medial radius)の硬化性疼痛性腫脹(Firm painful swelling)と、橈骨内踝(Medial malleolus)から近位側へ10cmの位置に創傷が認められました。レントゲン検査では、橈骨の骨幹部および骨幹端部(Diaphyseal to metaphyseal region)における垂直性骨折(Vertical fracture)が見られ、骨折片の尾側変位(Caudal displacement of fracture fragment)に伴う関節面の不連続性(Discontinuity of articular surface)、および開放性骨折(Open fracture)を呈していたことが確認されました。
治療としては、骨折部の内固定(Internal fixation)が推奨されましたが、経済的な理由から保存性療法が選択され、馬房休養(Stall rest)、全身性の抗生物質治療(Systemic anti-microbial therapy)、およびロバート・ジョーンズ・バンデージの装着が行われました。バンデージは五~六日おきに交換しながら45日間装着され、馬房休養は十六週間継続され、その後は、小さなパドックへの放牧が実施されました。レントゲン検査では、治療開始の四週間目には重度の骨膜増生(Marked periosteal proliferation)が見られ、十週間目までには良好な骨折治癒と骨再構築(Bone remodeling)が示され、二十八週間目には骨折治癒が完了したことが確認されました。
患馬は、治療開始の二十八週間目から運動に復帰し、骨折から三年目においても跛行の再発は見られず、また、上腕手根関節(Antebrachio-carpal joint)には、滑液膨満(Synovial effusion)や屈曲時疼痛(Pain on flexion)は認められませんでした。このため、成馬の橈骨における最小変位性骨折では、保存性療法によって十分な骨折治癒が見られ、良好な予後が期待できる場合もあることが示唆されました。
この症例において、保存性療法が奏功して要因としては、患馬が穏やかな性格で、馬房休養期間中にも大人しかったこと、および起立時と歩行時には無跛行で、罹患肢への正常な体重負荷が可能であったため、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)を続発しなかったこと、などが挙げられています。しかし、気質の荒い症例に対して保存性療法が応用される場合には、長期間にわたる沈静(Sedation)を要するケースもあり、罹患肢への体重負荷が困難な場合には、やはり内固定術による外科的療法が推奨される、という考察がなされています。
この症例では、開放骨折に伴う骨折部への細菌汚染(Bacterial contamination)が疑われたものの、全身性の抗生物質治療のみで細菌感染(Bacterial infection)は予防されました。しかし、初診時における創傷の深さの判定や、創傷部と関節腔が連絡していたか否かは、詳細には検査されていません。このため、開放骨折の重篤度によっては、抗生物質の局所灌流(Regional limb perfusion)や、術創内への抗生物質含有PMMAの充填などを要する症例もあると考えられます。
この症例では、初診時には骨折片変位に伴って関節面のギャップが生じていましたが、上腕手根関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)の続発は見られず、関節面の不連続性が回復したのか否かについても、詳細には評価されていません。一般的に、関節面のギャップを伴う関節内骨折(Intra-articular fracture)に対しては、骨折片の整復と関節鏡手術(Arthroscopy)を介して関節面の再構築(Reconstruction of articular surface)を実施することで、二次性の骨関節炎(Secondary osteoarthritis)の予防に努める治療指針が推奨されています。また、内固定の応用によって、過剰な仮骨形成(Excessive callus formation)を防げるなどの、外見的な利点(Cosmetic advantage)もあると考察されています。
Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.
関連記事:
馬の病気:橈骨骨折