馬の文献:橈骨骨折(Auer et al. 1987)
文献 - 2016年08月21日 (日)
「成馬における橈骨骨折の治療:15臨床症例の評価」
Auer JA, Watkins JP. Treatment of radial fractures in adult horses: an analysis of 15 clinical cases. Equine Vet J. 1987; 19(2): 103-110.
この症例論文では、橈骨完全骨折(Complete radial fracture)を呈した成馬(体重300kg以上)の15症例における治療成績が報告されています。このうち、四頭は経済的な理由および予後不良(Poor prognosis)が予測されるという理由から安楽死(Euthanasia)が選択され、残りの十一頭のうち二頭はギプス装着による保存性療法(Conservative treatment)、九頭はプレート固定術(Plate fixation)による外科的療法が選択されました。
結果としては、治療が試みられた十一頭の患馬のうち、保存性療法が選択された二頭は、細菌感染(Bacterial infection)に伴う骨髄炎(Osteomyelitis)から安楽死となりました。そして、内固定術(Internal fixation)が応用された九頭のうち、生存したのは二頭のみで、六頭は骨折整復部の崩壊(Breakdown of fixation)、残りの一頭は対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)によって安楽死となりました。このため、成馬における橈骨の完全骨折では、保存性療法による骨折治癒は困難で(生存率:0%)、外科的療法によっても予後不良となる場合が多い(生存率:22%)ことが示唆されました。
この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち、海綿骨移植(Cancellous bone graft)が行われなかったのは二頭、プレートが橈骨全長よりも短かったのは三頭で、これらの馬はいずれも生存していませんでした。また、術後にギプスまたは副木固定(Cast/Splint fixation)が併用された二頭(残りの七頭はバンテージのみ)も、いずれも生存していませんでした。このため、成馬の橈骨完全骨折における外科的療法においては、橈骨全長にわたるプレートを用いること、橈骨の幅全体に達する5.5mm螺子を用いること、海綿骨移植を併用すること、などが推奨されています。また、術後の外固定術の併用は、必ずしも治療効果の有意な改善にはつながらないと考えられるものの、力学的骨端螺子プレート(Dynamic condylar screw plate)を用いての整復強度の向上によって、より良好な骨折治癒が期待できるケースもある、と考察されています。
この研究では、15頭のうち五頭が開放骨折(Open fracture)でしたが、このうち一頭は、内固定術によって良好な骨折治癒を見せ、生存および騎乗使役への復帰が達成されました(上写真)。この患馬は、骨折発症から僅か四時間後に来院しており、また、輸送時の応急処置によって、骨折部位の病態悪化が予防されたことが報告されており、これらの迅速かつ適切な初期治療が奏功したと推測されます。また、この論文の発表時には一般的でなかった、抗生物質の局所灌流(Regional limb perfusion)、抗生物質含有PMMAの充填、および、最小侵襲性のプレート固定術(Minimally-invasive plate fixation)などによって、細菌感染の治療および予防が期待できる症例もあると考えられました。
この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち、三枚もしくは四枚のプレートが使用された二頭(残りの七頭は二枚のプレート)においても、骨折整復箇所の崩壊が起きており(上写真)、プレートを二枚以上に増やすことで、骨折治癒を改善できるというデータは示されていません。このため、成馬の橈骨完全骨折における内固定術では、一枚目のプレートをテンションバンドとして作用できる橈骨の頭側皮質骨面(Cranial cortex)に設置し、二枚目のプレートは出来る限り橈骨の外側皮質骨面(Lateral cortex)に設置する(=プレートを筋層で覆うことが出来るため)、という術式が推奨されています。一方、この論文の報告時には一般的でなかった、ロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate)を用いた術式によって、ダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate)を用いた術式に比べて、有意に良好な治療成績が示されると推測されます。
この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち二頭は、麻酔覚醒時(Anesthesia recovery)に再骨折(re-fracture)または整復部崩壊を起こして、安楽死となっていました。このため、馬の骨折整復術において、適切な麻酔覚醒補助を用いることの重要性を再確認するデータが示されたと言えます。
この研究では、生存した二頭の患馬では、一頭は二枚のプレートのうち一枚(頭側プレート)だけが術後の八ヶ月目に除去され、あとの一頭ではプレート除去は行われませんでした。しかし、いずれの患馬も、残存したプレートに起因すると思われる疼痛や跛行は認められなかったことから、成馬の橈骨完全骨折に対する内固定術においては、プレート除去は必ずしも要しない、という考察がなされています。
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結果としては、治療が試みられた十一頭の患馬のうち、保存性療法が選択された二頭は、細菌感染(Bacterial infection)に伴う骨髄炎(Osteomyelitis)から安楽死となりました。そして、内固定術(Internal fixation)が応用された九頭のうち、生存したのは二頭のみで、六頭は骨折整復部の崩壊(Breakdown of fixation)、残りの一頭は対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)によって安楽死となりました。このため、成馬における橈骨の完全骨折では、保存性療法による骨折治癒は困難で(生存率:0%)、外科的療法によっても予後不良となる場合が多い(生存率:22%)ことが示唆されました。
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この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち、三枚もしくは四枚のプレートが使用された二頭(残りの七頭は二枚のプレート)においても、骨折整復箇所の崩壊が起きており(上写真)、プレートを二枚以上に増やすことで、骨折治癒を改善できるというデータは示されていません。このため、成馬の橈骨完全骨折における内固定術では、一枚目のプレートをテンションバンドとして作用できる橈骨の頭側皮質骨面(Cranial cortex)に設置し、二枚目のプレートは出来る限り橈骨の外側皮質骨面(Lateral cortex)に設置する(=プレートを筋層で覆うことが出来るため)、という術式が推奨されています。一方、この論文の報告時には一般的でなかった、ロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate)を用いた術式によって、ダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate)を用いた術式に比べて、有意に良好な治療成績が示されると推測されます。
この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち二頭は、麻酔覚醒時(Anesthesia recovery)に再骨折(re-fracture)または整復部崩壊を起こして、安楽死となっていました。このため、馬の骨折整復術において、適切な麻酔覚醒補助を用いることの重要性を再確認するデータが示されたと言えます。
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