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馬の文献:橈骨骨折(Zamos et al. 1994)

「橈骨遠位部骨折の整復が行われた馬の二症例」
Zamos DT, Hunt RJ, Allen D Jr. Repair of fractures of the distal aspect of the radius in two horses. Vet Surg. 1994; 23(3): 172-176.

この症例論文では、橈骨の遠位部骨折(Fractures of distal aspect of the radius)を呈した二頭の馬の症例における、螺子固定術(Lag screw fixation)を介しての外科的療法による治療成績が報告されています。

一頭目の患馬は、11歳齢のクォーターホース牝馬で、左前肢の急性発現性(Acute onset)の重度跛行(Severe lameness)(グレード4跛行)の病歴で来院し、前腕遠位内側部の腫脹(Swelling on disto-medial aspect of antebrachium)と、前腕手根関節(Antebrachio-carpal joint)の膨満(Effusion)が示されました。レントゲン検査では、骨端内側部(Medial aspect of epiphysis)の斜位完全骨折(Complete oblique fracture)が見られ、近位内側方向への骨折片変位(Proximo-medial displacement of fracture fragment)が認められました。治療では、二本の螺子挿入による骨片の内固定術(Internal fixation)が実施され、術後には左後肢の麻酔後筋症(Post-anesthetic myopathy)と、一時的な跛行悪化を呈したものの、手術から20日目に無事に退院しました。その後、患馬は良好な予後を示し、手術から32ヶ月目において、乗用馬として騎乗使役されていたことが報告されています。

二頭目の患馬は、15歳齢のサラブレッド去勢馬で、左前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)(グレード5跛行)と前腕部腫脹の病歴で来院し、レントゲン検査では、遠位橈骨の螺旋状粉砕骨折(Comminuted spiral fracture)と、骨折片の内側変位が認められました。治療では、骨折部の病巣清掃(Debridement)と、二本の海綿骨螺子(Cancellous bone screw)および四本の皮質骨螺子(Cortical bone screw)による内固定術が実施されました。しかし、患馬は術後の七日目に対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)を続発し、進行性の跛行の悪化(Progressive lameness exacerbation)を呈したことから、残念ながら術後の五週間目に安楽死(Euthanasia)が選択されました。

この報告の二頭目の症例において、予後不良となった要因としては、骨折片の整復後にも完全な関節面の再構築(Articular surface reconstruction)が達成されず、前腕手根関節面に1mmのギャップを生じていたことから、術後に罹患肢への十分な体重負荷が見られず、対側肢の合併症を起こしたと考察されています。一方、一頭目の症例では、骨折片の整復後に関節面の平坦化が達成され、手術直後から罹患肢への良好な体重負荷ができたため、十分な骨折治癒と、負重性蹄葉炎および変性関節疾患(Degenerative joint disease)の予防につながったと推測されています。

一般的に、馬の橈骨の遠位部における骨折は、成馬ではその殆どが皮膚創傷(Skin wound)を伴うことから、蹴傷などの外傷に起因すると考えられますが、子馬では転倒などに起因して、橈骨遠位部の骨端骨折(Distal radial physeal fracture)の病態を呈することが多いと提唱されています。また、成馬の橈骨骨折における保存性療法(Conservative treatment)は、非変位性の非関節性骨折(Non-displaced non-articular fracture)の場合にのみ奏功することが知られており、この報告の二症例においては、馬房休養(Stall rest)やギプス装着のみによる保存性療法では、十分な骨折治癒は期待できなかった、という考察がなされています。

この症例報告では、いずれの患馬に対しても、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)および手術後における全肢ギプス(Full-limb cast)の装着は行われておらず、この理由としては、ギプス上端が近位前腕部に位置することで、この箇所が支点(Fulcrum)となって、骨折整復箇所に異常な負荷が掛かると推測されたことが挙げられています。

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