馬の文献:橈骨骨折(Schneider et al. 1995)
文献 - 2016年09月01日 (木)
「抗生物質含浸PMMAを用いての馬の橈骨開放骨折の治療」
Schneider RK, Andrea R, Barnes HG. Use of antibiotic-impregnated polymethyl methacrylate for treatment of an open radial fracture in a horse. J Am Vet Med Assoc. 1995; 207(11): 1454-1457.
この症例論文では、橈骨開放骨折(Open radial fracture)を呈した一頭の馬の症例に対する、抗生物質含浸PMMA(Antibiotic-impregnated polymethyl methacrylate)を介しての外科的療法による治療成績が報告されています。
患馬は、15歳齢のモルガン牝馬で(体重500kg)、左前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)および遠位頭側橈骨の創傷(Wound on disto-cranial aspect of radius)の病歴で来院し、レントゲン検査では、遠位橈骨の粉砕性横骨折(Comminuted transverse fracture)と、近位骨折の尾外側変位(Caudo-lateral displacement of proximal fragment)が見られ、外側部への開放骨折を呈したことが確認されました。
治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での病巣清掃(Debridement)、抗生物質含浸の棒状PMMAの充填、海綿骨移植(Cancellous bone graft)、および、全肢ギプス(Full-limb cast)の装着が行われました。その後、抗生物質含浸PMMAの充填と、全肢ギプスの交換が続けられ、三ヵ月後の再手術において、四本の皮質骨螺子(Cortical bone screw)を用いての骨折部の外科的整復が実施されました。
術後、患馬は罹患肢への十分な体重負荷を示し、一ヵ月後と三ヵ月後のレントゲン再検査では、良好な骨折部の骨性癒合(Bony union)と仮骨形成(Callus formation)が認められました。治療開始から八ヶ月目には、患馬は初診時に妊娠中であった子馬を無事に出産し、その一ヵ月半後の再検査では、軽度の跛行を示すのみで、その後も繁殖牝馬としての使役に復帰できたことが報告されています。
一般的に、成馬の橈骨における開放完全骨折では、細菌感染(Bacterial infection)と骨髄炎(Osteomyelitis)を続発して、予後不良となる場合が殆どです。しかし、この症例では、初診時には敢えて内固定(Internal fixation)を行わず、局所性の抗生物質療法(Local anti-microbial therapy)によって、骨折箇所の感染を制御した後に、螺子固定(Lag screw fixation)による骨折整復を実施したため、比較的に良好な骨折治癒が達成されたと考えられました。また、全肢ギプスが装着されていたため、術創からの持続的な排液(Continuous drainage)は困難であったにも関わらず細菌感染を減退できたのも、局所性の抗生物質療法が奏功したためと考えられました。
この症例に応用された、抗生物質含浸PMMAを術創内に充填させる手法では、PMMAの溶解(Elution)によって、経静脈投与(Intravenous administration)の数百倍におよぶ高濃度の抗生物質を、局所的に作用させることができます。また、PMMAに含浸させる抗生物質として、馬の整形外科感染(Orthopedic infection)の原因菌に有効である場合が多いと予測される、アミカシンとセフチオファーを選択したことも、この治療法が奏功した要因の一つであると考察されています。この症例では、抗生物質含浸PMMAの充填および摘出を容易にするため、棒状に固められたPMMAが使用されましたが、PMMAの溶解速度はその表面積に比例するため、ビーズ状に固めたPMMAを縫合糸で数珠状に連結された状態で充填されるほうが、PMMAから遊離される抗生物質の量をより多くできる、という提唱もなされています。
この症例では、二度目の手術の際に、螺子固定術のみでの骨折整復が試みられましたが、これは、プレート固定術(Plate fixation)を行うと全身麻酔(General anesthesia)の時間が長くなり過ぎて、妊娠中の子馬に危険が及ぶためであったと報告されています。このため、患馬が妊娠牝馬でない場合には、十分に時間を掛けて強度の高いプレート固定を応用することで、より堅固な骨折部の不動化(Stabilization)と、早期の骨折治癒を促進できたと推測されます。しかし、その反面、患馬が妊娠中であったからこそ、予後不良になる危険性が高いと予測されていたにも関わらず、安楽死(Euthanasia)ではなく、敢えて高額な外科的療法が選択されたとも言えるかもしれません。
この症例では、充填された抗生物質含浸PMMAは外科的に除去されず、埋め込まれた状態でそのままにされましたが、退院後もインプラント残存に伴う顕著な合併症(Complication)は認められませんでした。一般的に、感染部位に埋め込まれたPMMAからの抗生物質の遊離は、数年以上も続くことが知られていますが、局所的な抗生物質の濃度は、数ヵ月後がピークであると予測されています。
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この症例論文では、橈骨開放骨折(Open radial fracture)を呈した一頭の馬の症例に対する、抗生物質含浸PMMA(Antibiotic-impregnated polymethyl methacrylate)を介しての外科的療法による治療成績が報告されています。
患馬は、15歳齢のモルガン牝馬で(体重500kg)、左前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)および遠位頭側橈骨の創傷(Wound on disto-cranial aspect of radius)の病歴で来院し、レントゲン検査では、遠位橈骨の粉砕性横骨折(Comminuted transverse fracture)と、近位骨折の尾外側変位(Caudo-lateral displacement of proximal fragment)が見られ、外側部への開放骨折を呈したことが確認されました。
治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での病巣清掃(Debridement)、抗生物質含浸の棒状PMMAの充填、海綿骨移植(Cancellous bone graft)、および、全肢ギプス(Full-limb cast)の装着が行われました。その後、抗生物質含浸PMMAの充填と、全肢ギプスの交換が続けられ、三ヵ月後の再手術において、四本の皮質骨螺子(Cortical bone screw)を用いての骨折部の外科的整復が実施されました。
術後、患馬は罹患肢への十分な体重負荷を示し、一ヵ月後と三ヵ月後のレントゲン再検査では、良好な骨折部の骨性癒合(Bony union)と仮骨形成(Callus formation)が認められました。治療開始から八ヶ月目には、患馬は初診時に妊娠中であった子馬を無事に出産し、その一ヵ月半後の再検査では、軽度の跛行を示すのみで、その後も繁殖牝馬としての使役に復帰できたことが報告されています。
一般的に、成馬の橈骨における開放完全骨折では、細菌感染(Bacterial infection)と骨髄炎(Osteomyelitis)を続発して、予後不良となる場合が殆どです。しかし、この症例では、初診時には敢えて内固定(Internal fixation)を行わず、局所性の抗生物質療法(Local anti-microbial therapy)によって、骨折箇所の感染を制御した後に、螺子固定(Lag screw fixation)による骨折整復を実施したため、比較的に良好な骨折治癒が達成されたと考えられました。また、全肢ギプスが装着されていたため、術創からの持続的な排液(Continuous drainage)は困難であったにも関わらず細菌感染を減退できたのも、局所性の抗生物質療法が奏功したためと考えられました。
この症例に応用された、抗生物質含浸PMMAを術創内に充填させる手法では、PMMAの溶解(Elution)によって、経静脈投与(Intravenous administration)の数百倍におよぶ高濃度の抗生物質を、局所的に作用させることができます。また、PMMAに含浸させる抗生物質として、馬の整形外科感染(Orthopedic infection)の原因菌に有効である場合が多いと予測される、アミカシンとセフチオファーを選択したことも、この治療法が奏功した要因の一つであると考察されています。この症例では、抗生物質含浸PMMAの充填および摘出を容易にするため、棒状に固められたPMMAが使用されましたが、PMMAの溶解速度はその表面積に比例するため、ビーズ状に固めたPMMAを縫合糸で数珠状に連結された状態で充填されるほうが、PMMAから遊離される抗生物質の量をより多くできる、という提唱もなされています。
この症例では、二度目の手術の際に、螺子固定術のみでの骨折整復が試みられましたが、これは、プレート固定術(Plate fixation)を行うと全身麻酔(General anesthesia)の時間が長くなり過ぎて、妊娠中の子馬に危険が及ぶためであったと報告されています。このため、患馬が妊娠牝馬でない場合には、十分に時間を掛けて強度の高いプレート固定を応用することで、より堅固な骨折部の不動化(Stabilization)と、早期の骨折治癒を促進できたと推測されます。しかし、その反面、患馬が妊娠中であったからこそ、予後不良になる危険性が高いと予測されていたにも関わらず、安楽死(Euthanasia)ではなく、敢えて高額な外科的療法が選択されたとも言えるかもしれません。
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