馬の病気:基節骨骨折
馬の骨折 - 2013年07月26日 (金)

基節骨骨折(Proximal phalanx fracture)について。
粉砕骨折(Comminuted fracture)を除く基節骨(=繋骨)の骨幹部の骨折は、タイプ1:正軸矢状骨折(Midsagittal fracture)、タイプ2:背側骨折(Dorsal fracture)、タイプ3:遠位関節骨折(Distal joint fracture)、タイプ4:掌側隆起骨折(Palmar eminence fracture)、タイプ5:骨端骨折(Physeal fracture)、タイプ6:斜位または横行骨幹骨折(Oblique/Transverse diaphyseal fracture)、タイプ7:背側裂離骨折(Dorsal avulsion fracture)、などに分類されていますが、複数のタイプを含む病態もあるなど、正確な分類が困難な症例も見られます。
繋骨の掌側隆起骨折(タイプ4)は、遠位種子骨靭帯(Distal sesamoidean ligament)の過剰張力(Excessive tensile force)に起因すると考えられ、同様に球節の内側側副靭帯(Medial collateral ligament)の過剰張力による裂離骨折(Avulsion fracture)が生じる場合もあります。いずれの症例においても、関節鏡手術もしくは関節切開術を介して、骨折片の螺子固定術(Lag screw fixation)が行われます。
繋骨の縦骨折は、矢状面(Sagittal plane:タイプ1)もしくは前面(Frontal plane:タイプ2)に発症し、骨折面の捻転を伴う場合もあります。不完全骨折(Incomplete fracture)の症例において、骨折線の長さが1~2cmの場合では、完全骨折(Complete fracture)を引き起こす危険は少ないため、馬房休養(Stall rest)による保存的療法(Conservative treatment)での治癒が期待できますが、骨折部を圧迫して骨治癒を促進し、骨折線の伸展を予防するため、螺子固定術が適応される場合もあります。骨折線の長さが2cm以上に達する症例では、保存的療法により不完全骨折から完全骨折へと病態が悪化する危険を考慮して、螺子固定術による不動化(Immobilization)が実施されます。完全骨折の症例において、骨折片の変位(Fragment displacement)が見られる場合は、骨折片間の肉芽組織清掃(Granulation tissue debridement)と骨幹の再構築(Reconstruction)を施し、関節鏡による関節面平坦化(Joint surface realignment)を確認しながら、骨折片の螺子固定を行うことが大切です。
繋骨の粉砕骨折では、最低でも一つの支柱骨節片(Intact strut)が球関節(Fetlock joint)と冠関節(Pastern joint)を連絡している場合にのみ、螺子固定術による再構築が試みられます。この際には、術中レントゲン撮影(Intra-operative radiography)もしくは蛍光透視装置(Fluoroscopy)を用いて、多数の螺子同士を接触させないよう慎重に挿入し、関節鏡検査によって二つの関節面が平坦化しているかを確認することが重要です。また、CTスキャン撮影によって、より正確に骨折線の走行を確認できることが報告されています。関節面の不連続性が起こったり、細かい破片同士を適切に再構築できないと判断された場合には、冠関節固定術(Pastern arthrodesis)が併用されることもあります。支柱骨節片が残っていない重篤な粉砕骨折や、骨折片表面の80%以上が平坦化できないと判断された場合には、内固定による外科的整復は推奨されず、外固定療法での治療が選択されます。この際には、幾つかの外固定器具(External fixation devices: Transfixation-pin, Nunamaker external fixator, etc)の応用によって、二次性骨治癒(Secondary bone healing)による骨癒合を促進する手法が用いられる場合もあります。
繋骨の骨端骨折(タイプ5)は主に幼馬に見られ、多くの症例においてSalter-Harrisタイプ2の病態を呈します。無変位骨折(Nondisplaced fracture)では、馬房休養と外固定による治療が試みられ、冠関節の亜脱臼(Subluxation)を示した場合には、冠関節固定術が必要となる場合もあります。
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