馬の文献:橈骨骨折(Janicek et al. 2009)
文献 - 2016年09月04日 (日)
「成馬橈骨の遠位骨幹骨切術部における頭側プレートと力学的骨端螺子プレートの併用および二枚のプレート固定術の生体力学的比較」
Janicek JC, Wilson DA, Carson WL, Kramer J. An in vitro biomechanical comparison of dynamic condylar screw plate combined with a dorsal plate and double plate fixation of distal diaphyseal radial osteotomies in adult horses. Vet Surg. 2009; 38(6): 719-731.
この研究論文では、馬の橈骨骨折(Radial fracture)の内固定術(Internal fixation)における有用な術式を評価するため、二十本(十組)の成馬の屍体前肢(Cadaveric forelimb)から採取した橈骨に、遠位骨幹部の骨切術(Distal diaphyseal osteotomy)を施し、頭側プレート(=ダイナミック・コンプレッション・プレート:Dynamic compression plate [DCP])と力学的骨端螺子プレートの併用(Dynamic condylar screw plate combined with a dorsal plate)もしくは二枚のDCPプレート固定術(Double plate fixation)によって整復し、生体力学的試験(In vitro biomechanical testing)によって、整復箇所の物理的強度が比較されました。
結果としては、圧迫試験(Compressive testing)、捻転試験(Torsional testing)、内外側屈曲試験(Medial-to-lateral bending)、外内側屈曲試験(Lateral-to-medial bending)、頭尾側屈曲試験(Cranial-to-caudal bending)、尾頭側屈曲試験(Caudal-to-cranial bending)の六種類の試験法における、硬度(Stiffness)、変位度(Displacement)、破壊負荷(Failure load)などを見ると、いずれも二種類の整復法のあいだに有意差を示していませんでした。また、プレート設置されていない側からの圧迫によって、プレート設置側の骨面の硬度は、骨切術が施されていない骨とほぼ同程度の測定値を示していました。このため、馬の橈骨骨折に対するプレート固定術では、DCPと力学的骨端螺子プレートを併用する術式、および、二枚のDCPを用いる術式において、同程度の整復強度が達成できることが示唆されました。
この研究では、骨切術部位における整復強度を評価するため、近位および遠位骨端(Proximal/Distal epiphysis)をセメント内に埋め込むことで圧迫&捻転&屈曲試験が実施されたため、骨端部の骨組織が破損する場合の強度および破損形式(Failure mode)は評価されていません。力学的骨端螺子プレートにおいては、骨端組織内に太い骨端螺子が挿入され、それがプレート端に堅固に保持される構造であるため、この骨端部位における整復強度を大きく向上できると推測できる反面、太い骨端螺子が挿入される際により多くの骨組織が取り除かれる事になるため、骨端部の破損を生じる危険は増す、という仮説が成り立つかもしれません。このため、この骨端箇所に対する影響については、更に詳細な生体力学的試験を要すると考察されています。
この研究では、使われた全てのプレートがDCP構造でした。しかし、もしDCPの変わりにロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate: LCP)が使用された場合には、LCP 固定術に使われる全ての骨螺子がプレート内に堅固に保持される構造であることから、頭側LCP+力学的骨端螺子プレートの併用による術式と、二枚のLCPを用いた術式のあいだに有意差は生じにくく、また、力学的骨端螺子プレートがDCP構造であった時には、二枚のLCPを用いた術式のほうが、骨幹中央部~骨幹遠位部における強度は、むしろ高くなる可能性があると考えられました。
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この研究論文では、馬の橈骨骨折(Radial fracture)の内固定術(Internal fixation)における有用な術式を評価するため、二十本(十組)の成馬の屍体前肢(Cadaveric forelimb)から採取した橈骨に、遠位骨幹部の骨切術(Distal diaphyseal osteotomy)を施し、頭側プレート(=ダイナミック・コンプレッション・プレート:Dynamic compression plate [DCP])と力学的骨端螺子プレートの併用(Dynamic condylar screw plate combined with a dorsal plate)もしくは二枚のDCPプレート固定術(Double plate fixation)によって整復し、生体力学的試験(In vitro biomechanical testing)によって、整復箇所の物理的強度が比較されました。
結果としては、圧迫試験(Compressive testing)、捻転試験(Torsional testing)、内外側屈曲試験(Medial-to-lateral bending)、外内側屈曲試験(Lateral-to-medial bending)、頭尾側屈曲試験(Cranial-to-caudal bending)、尾頭側屈曲試験(Caudal-to-cranial bending)の六種類の試験法における、硬度(Stiffness)、変位度(Displacement)、破壊負荷(Failure load)などを見ると、いずれも二種類の整復法のあいだに有意差を示していませんでした。また、プレート設置されていない側からの圧迫によって、プレート設置側の骨面の硬度は、骨切術が施されていない骨とほぼ同程度の測定値を示していました。このため、馬の橈骨骨折に対するプレート固定術では、DCPと力学的骨端螺子プレートを併用する術式、および、二枚のDCPを用いる術式において、同程度の整復強度が達成できることが示唆されました。
この研究では、骨切術部位における整復強度を評価するため、近位および遠位骨端(Proximal/Distal epiphysis)をセメント内に埋め込むことで圧迫&捻転&屈曲試験が実施されたため、骨端部の骨組織が破損する場合の強度および破損形式(Failure mode)は評価されていません。力学的骨端螺子プレートにおいては、骨端組織内に太い骨端螺子が挿入され、それがプレート端に堅固に保持される構造であるため、この骨端部位における整復強度を大きく向上できると推測できる反面、太い骨端螺子が挿入される際により多くの骨組織が取り除かれる事になるため、骨端部の破損を生じる危険は増す、という仮説が成り立つかもしれません。このため、この骨端箇所に対する影響については、更に詳細な生体力学的試験を要すると考察されています。
この研究では、使われた全てのプレートがDCP構造でした。しかし、もしDCPの変わりにロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate: LCP)が使用された場合には、LCP 固定術に使われる全ての骨螺子がプレート内に堅固に保持される構造であることから、頭側LCP+力学的骨端螺子プレートの併用による術式と、二枚のLCPを用いた術式のあいだに有意差は生じにくく、また、力学的骨端螺子プレートがDCP構造であった時には、二枚のLCPを用いた術式のほうが、骨幹中央部~骨幹遠位部における強度は、むしろ高くなる可能性があると考えられました。
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