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馬の文献:尺骨骨折(Denny. 1976)

「馬の肘頭骨折の外科的治療」
Denny HR. The surgical treatment of fractures of the olecranon in the horse. Equine Vet J. 1976; 8(1): 20-25.

この症例報告では、肘頭骨折(Olecranon fracture)に対してプレート固定術(Plate fixation)を介しての外科的療法が応用された四頭の馬の治療成績が報告されています。

一頭目の患馬は、二歳齢のアラビアンで、蹴傷の病歴で来院し、レントゲン検査によって、右前肢の肘頭の単純斜位骨折(Simple oblique fracture)(骨片変位なし)の発症が確認されました。治療としては、全身麻酔下(Under general anesthesia)でのプレート固定による骨折整復(Fracture repair)が行われ、手術の翌日から罹患肢への体重負荷が可能になり、術後十週間目のレントゲン再検査で完全な骨癒合(Bony union)が認められ、術後22ヶ月目においても跛行再発(Lameness recurrence)を示さず、良好な予後が達成されたことが報告されています。

二頭目の患馬は、四ヶ月齢のハンター牡馬で、重度跛行の病歴で来院し(原因は不明)、レントゲン検査によって、右前肢の肘頭における非変位性の単純斜位骨折の発症が確認されました。治療としては、全身麻酔下でのプレート固定による骨折整復が行われ、術後の十日目において皮膚切開創傷の離開および螺子損傷が認められましたが、八週間目のレントゲン再検査で十分な骨折治癒が認められたことから、プレート除去が行われ、術後18ヶ月目においても跛行再発を示さず、良好な予後が達成されたことが報告されています。

三頭目の患馬は、十歳齢のポニー去勢馬で、交通事故(Car accident)の病歴で来院し、レントゲン検査によって、右前肢の肘頭の斜位骨折、橈骨の外側部骨折(Fracture of lateral aspect radius)、肘関節の亜脱臼(Elbow joint subluxation)の発症が確認されました。治療としては、全身麻酔下でのプレート固定による肘頭骨折の整復、螺子固定術(Lag screw fixation)による橈骨骨折の整復が行われ、術後四週間目から罹患肢への体重負荷が可能になり、この時点でのレントゲン再検査では、肘頭骨折は治癒していましたが、橈骨骨折片の変位が見られました。しかし、術後九週間目のレントゲン再検査では、橈骨骨折も十分に治癒したことが確認され、七ヶ月目にプレート除去された後は、跛行再発を示さず、良好な予後が達成されたことが報告されています。

四頭目の患馬は、二歳齢のウェルシュポニー牝馬で、蹴傷の病歴で来院し、レントゲン検査によって、右前肢の肘頭の斜位骨折および肘突起(Anconeal process)の骨折の発症が確認されました。治療としては、全身麻酔下でのプレート固定による肘頭骨折の整復と、肘突起骨折片の摘出が行われ、術後七週間目のレントゲン再検査では、十分な骨折治癒が示されましたが、肘突起摘出部における過剰な仮骨形成(Excessive callus formation)が見られたため、この仮骨およびプレートの除去が行われ、患馬はその後、術後17ヶ月目においても跛行再発を示さず、良好な予後が達成されたことが報告されています。

一般的に、馬の尺骨骨折は、馬に見られる長骨骨折(Long-bone fracture)の中でも、外科的療法によって良好な予後が期待できる病態である事が知られており、この最大の要因としては、尺骨が体重負荷機能(Weight-bearing function)ではなく、筋肉や腱の牽引力を肘関節の伸展へと変換する機能を有しているため、それほど強度の高いインプラントを要しないことが挙げられています。この症例報告は、内固定の術式や整形外科感染(Orthopedic infection)の治療法がそれほど発達していなかった時代の論文であるにも関わらず、四頭の症例の全頭が良好な予後を示しており(生存率:100%)、また、四頭のいずれの患馬においても骨折整復後の比較的に早い時期に体重負荷が可能となっており、尺骨骨折が非常に良い予後を示すこと、尺骨が体重負荷機能を有しない長骨であることが良好骨折治癒に寄与していること、などが裏付けられると考えられます。

この症例報告では、四頭とも骨折片変位の少ない斜位骨折の病態であったため、内固定の手技的難易度がそれほど高くなく、良好な骨折治癒を誘導しやすかったと推測されます。このため、変位性骨折(Displaced fracture)やより複雑な骨折病態に対する外科的療法の術式に関しては、更なる検討を要する場合もあると考えられました。

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