馬の文献:尺骨骨折(Monin. 1978)
文献 - 2016年11月06日 (日)
「馬の肘頭骨折の外科的治療」
Monin T. Repair of physeal fractures of the tuber olecranon in the horse, using a tension band method. J Am Vet Med Assoc. 1978; 172(3): 287-290.
この症例報告では、肘頭隆起骨折(Tuber olecranon fracture)に対して、テンションバンド手法(Tension band method)を介しての外科的療法が応用された四頭の子馬の治療成績が報告されています。
患馬は90~425日齢の子馬で(体重68~273kg)、重度の跛行と肘脱落(Dropped elbow)の所見を示し、レントゲン検査によって、二頭では肘頭の骨端骨折(Physeal fracture)(=サルター・ハリスのタイプ1骨折:Salter-Harris Tyoe-1 fracture)、あとの二頭では骨端骨折と肘突起(Anconeal process)に達する肘頭長軸骨折(Longitudinal olecranon fracture)(=サルター・ハリスのタイプ2骨折)の発症が確認されました。
治療としては、皮質骨螺子(Cortical bone screw)とステインマンピンを骨端骨折片から遠位骨折片に挿入することで骨折部が整復され、ピンの背側を通したステンレスワイヤーを、尺骨掌側面(Cranial surface of ulna)に伸展させて、肘頭から遠位側へ10cmの位置に穿孔させたドリル孔へと八の字を描くように固定して、両骨片間にテンションバンド機能を作用させました。
四頭の患馬のうち一頭は、手術直後から罹患肢への充分な体重負荷(Sufficient weight bearing)を示し、残りの三頭も術後の三週間目までには罹患肢へ体重負荷ができるようになりました。そして、四頭の患馬のいずれも、十分な骨折治癒と良好な予後を示し、繁殖牝馬(Broodmare)または乗用馬として騎乗に使役されたことが報告されています。
一般的に、子馬の尺骨における骨端骨折では、骨のサイズが小さくプレート固定術(Plate fixation)の応用は困難で、また、保存性療法(Conservative treatment)では十分な骨折治癒が期待できないことが知られています。この症例報告では、螺子固定とテンションバンド手法を組み合わせた術式によって、良好な治療成績が示され、子馬の肘頭骨端骨折の外科的療法において、有用な術式であることが示唆されました。
この症例報告では、四頭の患馬はいずれも、骨折発症から速やかに外科的療法が応用されており、骨折片の変位(Fracture fragment displacement)は殆ど起きていませんでした。しかし、骨折の発生から手術までに五日以上経過した場合には、完全な骨折部の外科的整復は難しい場合が多く、予後不良を呈しやすいと考察されています。
この症例報告では、四頭の患馬のうち三頭において、術後の三週間にわたって跛行が継続しており、螺子+テンションバンドによる内固定では、骨折箇所の完全な不動化(Complete stabilization)は達成できなかった可能性もあると考えられました。しかし、馬の尺骨は直接的に体重を支える機能を担っていないため、骨折部の微細動揺(Micro-motion)が残った場合でも、十分な二次性骨治癒(Secondary bone healing)が起きたと推測されます。
一般的に、肘頭骨端骨折の内固定術において、成長板(Growth plate)を通過するように螺子挿入された場合には、早発性骨端軟骨閉鎖(Premature physeal closure)の術後合併症(Post-operative complication)を起こす危険性が考慮されます。この症例報告では、経過追跡(Follow-up)でのレントゲン再検査でも、骨端軟骨閉鎖は認められませんでしたが、全ての肘頭骨端骨折の症例に対して、経時的なレントゲン検査による慎重なモニタリングを行うことが重要である、という考察がなされています。
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この症例報告では、肘頭隆起骨折(Tuber olecranon fracture)に対して、テンションバンド手法(Tension band method)を介しての外科的療法が応用された四頭の子馬の治療成績が報告されています。
患馬は90~425日齢の子馬で(体重68~273kg)、重度の跛行と肘脱落(Dropped elbow)の所見を示し、レントゲン検査によって、二頭では肘頭の骨端骨折(Physeal fracture)(=サルター・ハリスのタイプ1骨折:Salter-Harris Tyoe-1 fracture)、あとの二頭では骨端骨折と肘突起(Anconeal process)に達する肘頭長軸骨折(Longitudinal olecranon fracture)(=サルター・ハリスのタイプ2骨折)の発症が確認されました。
治療としては、皮質骨螺子(Cortical bone screw)とステインマンピンを骨端骨折片から遠位骨折片に挿入することで骨折部が整復され、ピンの背側を通したステンレスワイヤーを、尺骨掌側面(Cranial surface of ulna)に伸展させて、肘頭から遠位側へ10cmの位置に穿孔させたドリル孔へと八の字を描くように固定して、両骨片間にテンションバンド機能を作用させました。
四頭の患馬のうち一頭は、手術直後から罹患肢への充分な体重負荷(Sufficient weight bearing)を示し、残りの三頭も術後の三週間目までには罹患肢へ体重負荷ができるようになりました。そして、四頭の患馬のいずれも、十分な骨折治癒と良好な予後を示し、繁殖牝馬(Broodmare)または乗用馬として騎乗に使役されたことが報告されています。
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この症例報告では、四頭の患馬はいずれも、骨折発症から速やかに外科的療法が応用されており、骨折片の変位(Fracture fragment displacement)は殆ど起きていませんでした。しかし、骨折の発生から手術までに五日以上経過した場合には、完全な骨折部の外科的整復は難しい場合が多く、予後不良を呈しやすいと考察されています。
この症例報告では、四頭の患馬のうち三頭において、術後の三週間にわたって跛行が継続しており、螺子+テンションバンドによる内固定では、骨折箇所の完全な不動化(Complete stabilization)は達成できなかった可能性もあると考えられました。しかし、馬の尺骨は直接的に体重を支える機能を担っていないため、骨折部の微細動揺(Micro-motion)が残った場合でも、十分な二次性骨治癒(Secondary bone healing)が起きたと推測されます。
一般的に、肘頭骨端骨折の内固定術において、成長板(Growth plate)を通過するように螺子挿入された場合には、早発性骨端軟骨閉鎖(Premature physeal closure)の術後合併症(Post-operative complication)を起こす危険性が考慮されます。この症例報告では、経過追跡(Follow-up)でのレントゲン再検査でも、骨端軟骨閉鎖は認められませんでしたが、全ての肘頭骨端骨折の症例に対して、経時的なレントゲン検査による慎重なモニタリングを行うことが重要である、という考察がなされています。
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