馬の文献:尺骨骨折(McGill et al. 1982)
文献 - 2016年12月03日 (土)

「馬の尺骨骨折の内固定術」
McGill CA, Hilbert BJ, Jacobs KV. Internal fixation of fractures of the ulna in the horse. Aust Vet J. 1982; 58(3): 101-114.
この症例報告では、尺骨骨折(Tuber olecranon fracture)に対して、プレート固定術(Plate fixation)やテンションバンド手法(Tension band method)などの内固定法(Internal fixation)を介しての、外科的療法が応用された七頭の患馬の治療成績が報告されています。
結果としては、プレート固定術が応用された六頭の患馬のうち、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)の際に呼吸器不全(Respiratory failure)またはインプラント破損(Implant failure)で安楽死(Euthanasia)となったのは二頭で、残りの四頭は術後の二~五ヶ月目までには“完治”したことが報告されています。このため、馬の尺骨骨折に対しては、プレート固定術による内固定法によって、十分な骨折治癒と比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。呼吸器不全で安楽死となった一頭は、粉砕骨折(Comminuted fracture)の病態を呈しており(残りの五頭は横骨折)、骨折整復(Fracture repair)に要した手術時間の長さや、罹患肢への体重負荷が難しく麻酔覚醒に長時間かかったことが、呼吸器不全の要因である可能性が考えられます、また、インプラント破損で安楽死となった一頭は、麻酔覚醒の遅延がインプラント破損の一因であったと推測され、いずれの症例においても骨折手術における麻酔覚醒支持(Support recovery)の重要性を、再確認させる治療成績が示されたと言えます。
この症例報告では、一頭の患馬(関節性尺骨骨折)に対して、ステインマンピンとテンションバンドワイヤーを介しての内固定術が応用されましたが、この症例は麻酔覚醒の際のインプラント破損で安楽死となったことが報告されています。他の文献では、子馬の尺骨骨折に対するテンションバンド手法によって、比較的に良好な骨折治癒が見られたという報告もありますが、安楽死となったこの患馬は二歳齢のサラブレッドで、テンションバンドのみでの内固定では、骨折整復部の強度が不十分であったと考えられました。また、ステインマンピンと皮質骨螺子(Cortical bone screw)を併用して骨片間圧迫(Inter-fragmentary compression)を実施した場合には、より堅固な内固定が達成できた可能性もあります。
この症例報告では、一頭の患馬に対して、馬房休養(Stall rest)のみによる保存性療法(Conservative treatment)が応用され、骨折から五ヶ月目までに“完治”したことが報告されています。この患馬は、八ヶ月齢のサラブレッドの子馬で、両側性の粉砕骨折(Bilateral comminuted fracture)を呈していましたが、近位骨折片(Proximal fragment)のサイズが小さかったため、内固定法なしでも十分な二次性骨折治癒(Secondary fracture healing)が達成されたものと推測されています。しかし、この患馬は関節性骨折(Intra-articular fracture)の病態を呈しており、長期経過(Long-term follow-up)において肘関節(Elbow joint)の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発したか否かは、詳細には報告されていません。
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