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馬の文献:尺骨骨折(Donecker et al. 1984)

「肘頭骨折を呈した29頭の馬の回顧的解析」
Donecker JM, Bramlage LR, Gabel AA. Retrospective analysis of 29 fractures of the olecranon process of the equine ulna. J Am Vet Med Assoc. 1984; 185(2): 183-189.

この症例報告では、肘頭骨折(Olecranon process fracture)に対して、プレート固定術(Plate fixation)を介しての外科的療法、または、馬房休養(Stall rest)と副木バンテージ(Splint bandage)の装着を介しての保存性療法(Conservative treatment)が応用された、29頭の患馬の治療成績が報告されています。この症例報告では、肘頭骨折の病態を、タイプ1a:非関節性の骨端骨折(Non-articular physeal fracture)、タイプ1b:関節性の骨端骨折(Articular physeal fracture)、タイプ2:単純関節性骨折(Simple articular fracture)、タイプ3:非関節性骨折(Non-articular fracture)、タイプ4:粉砕骨折(Comminuted fracture)、という五種類に分類されました。

結果としては、29頭の肘頭骨折の患馬のうち、プレート固定術が応用された19頭では、生存率は74%(14/19頭)、騎乗復帰率は58%(11/19頭)に及んだのに対して、保存性療法が応用された10頭では、生存率は60%(6/10頭)、騎乗復帰率は20%(2/10頭)にとどまったことが報告されています。このため、馬の肘頭骨折に対しては、プレート固定術を介しての外科的療法によって、骨折治癒および予後の改善が期待でき、騎乗復帰する確率を向上できる可能性が示唆されました。そして、馬の肘頭骨折における保存性療法は、非関節性かつ非変位性の骨折(Non-articular and non-displaced fracture)に対してのみ選択されるべきであると提唱されています。しかし、各療法の治療効果は、以下のように、骨折タイプによって異なる傾向を示していました。

タイプ1aの肘頭骨折(=サルター・ハリスのタイプ1骨折:Salter-Harris Tyoe-1 fracture)を呈した四頭の患馬では、一頭に対してプレート固定術、もう一頭に対して副木バンテージの装着による馬房休養が応用され、いずれも跛行再発(Lameness recurrence)を示すことなく騎乗使役に復帰しました。しかし、馬房休養のみが応用されたあとの二頭はいずれも安楽死(Euthanasia)となり、この二頭は骨折片の変位(Fragment displacement)を呈していました。

タイプ1bの肘頭骨折(=サルター・ハリスのタイプ2骨折)を呈した六頭の患馬では、四頭に対してプレート固定術が応用され、このうち二頭は、跛行再発を示すことなく騎乗使役に復帰しましたが、一頭は慢性跛行による放牧時での正常歩様(Pasture soundness)のみ、残りの一頭は近位骨折片の再骨折(Re-fracture of proximal fragment)のため安楽死となりました。一方、保存性療法が応用された二頭では、一頭は慢性跛行による放牧時での正常跛行、あとの一頭は安楽死となりました。

このため、馬におけるタイプ1の肘頭骨折では、プレート固定術によって予後の改善が期待できるものの、特に関節性骨折や変位性骨折(Displaced fracture)では、骨折の治癒遅延(Delayed-union)や変性関越疾患(Degenerative joint disease)などの術後合併症(Post-operative complication)を続発して、慢性跛行が残ったり、予後不良となる場合もあることが示唆されました。

タイプ2の肘頭骨折を呈した十二頭の患馬では、九頭に対してプレート固定術が応用され、このうち七頭は、跛行再発を示すことなく騎乗使役に復帰しましたが、あとの二頭は慢性跛行による放牧時での正常歩様のみを示しました。一方、保存性療法が応用された三頭では、二頭は慢性跛行による放牧時での正常跛行、あとの一頭は安楽死となりました。

このため、タイプ2は馬の肘頭骨折の中でも最も発症頻度の高い病態であることが示され、プレート固定術によって、十分な骨折治癒と運動復帰が達成される症例が多いことが示唆されましたが、保存性療法によっても、中程度の生存率が期待できると考えられました。

タイプ3の肘頭骨折を呈した二頭の患馬では、一頭に対してプレート固定術が応用されましたが、手術の一週間後に骨折とは直接的に関係ないと見られる合併症(細菌性肺炎:Bacterial pneumonia)で安楽死となりました。一方、保存性療法が応用された一頭では、跛行再発を示すことなく騎乗使役に復帰しました。

この症例報告では、タイプ3骨折の症例数は少なく、その治療成績を正確に評価するのは難しかったものの、骨折線が関節腔(Joint space)に達していないことを考慮すると、骨折片が重度の変位を起こしている場合を除き、保存性療法によっても比較的に正常な骨折治癒が起こり、良好な予後を示す場合もありうると考えられました。

タイプ4の肘頭骨折を呈した五頭の患馬では、四頭に対してプレート固定術が応用されましたが、跛行再発を示すことなく騎乗使役に復帰したのは一頭のみで、あとの三頭では、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)、再骨折、細菌感染などによって安楽死となりました。一方、保存性療法が応用された一頭では、生存はしたものの、慢性跛行のため騎乗復帰はもとより放牧時での正常歩様も達成されませんでした。

このため、馬におけるタイプ4の肘頭骨折では、騎乗復帰を目指すのであれば、プレート固定による骨折部整復(Fracture repair)を要すると考えられますが、いずれの治療法においても、骨折の癒合不全(Nonunion)や偽関節(Pseudoarthrosis)、および対側肢の合併症を続発して、予後不良となる危険性が高いことが示唆されました。

この症例報告では、プレート固定が応用された患馬のうち、骨折発症から手術までの期間が一週間未満であった場合には、治療成功率は50%であったのに対して、骨折発症から手術までの期間が一週間以上であった場合には、治療成功率は100%であったことが報告されています。これは、重篤な骨折病態と重度跛行を呈した馬は、緊急搬送されて直ちに手術が行われるケースが多かった(=予後も悪かった)ことを反映していると考えられ、例え骨折病態や跛行が軽度であった場合でも、いたずらに手術を遅らせることで予後改善につながるわけではない、という考察がなされています。

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