馬の文献:尺骨骨折(Clem et al. 1988)
文献 - 2016年12月04日 (日)
「若齢馬の橈骨と尺骨を連結させることによる影響」
Clem MF, DeBowes RM, Douglass JP, Leipold HW, Chalman JA. The effects of fixation of the ulna to the radius in young foals. Vet Surg. 1988; 17(6): 338-345.
この研究報告では、尺骨骨折(Olecranon fracture)に対するプレート固定術(Plate fixation)において、尺骨と橈骨が連結されることの影響を評価するため、一ヶ月齢、五ヶ月齢、七ヶ月齢の子馬に、それぞれ尺骨尾側面(Caudal ulnar cortex)へのプレート固定、尺骨から橈骨に達する螺子挿入、および、その16週間後のプレート除去を実施し、レントゲン検査(Radiography)によって、この期間中における尺骨異形成(Ulna dysplasia)と肘関節亜脱臼(Elbow joint subluxation)の評価が行われました。
この研究では、橈骨関節面(Radial articular surface)と滑車切痕(Trochlear notch)までの距離が、橈骨骨端の厚さ(Thickness of distal radial epiphysis)に占める割合で、橈骨と尺骨の成長不同一性(Growth disparity)の計測が行われました(下図)。そして、全ての実験馬において、滑車切痕および鉤状突起(Coronoid process)の遠位変位(Distal displacement)に伴う、橈骨と尺骨の関節面の不適合(Incongruity between the radial and ulnar articular surfaces)が示され、橈骨と尺骨の骨性癒合(Osseous union)が認められました。そして、プレート設置から16週間目とプレート除去から16週間目の成長不同一性を比較すると、一ヶ月齢馬郡では62%から82%へ、五ヶ月齢馬郡では37%から52%というように、いずれも悪化していました。このため、尺骨と橈骨が連結されることによって生じた、この二つの骨の成長不同一性は、四ヵ月後にプレート&螺子が除去されても、完全には回復できないことが示唆されました。
一般的に、馬の橈骨近位骨端(Proximal radial physis)は、生後の三ヶ月までにその50%の成長が完了し、残りの50%の成長は生後の18ヶ月まで続くことが知られています(Cambell et al. EVJ. 1981;13:247)。そして、この研究においても、螺子挿入によって橈骨と尺骨が連結されることによる副作用は、患馬の月齢に反比例して減少する傾向が認められました。このため、生後の七ヶ月齢未満の子馬に対しては、尺骨骨折の内固定(Internal fixation)に際して、尺骨から橈骨まで達する螺子の挿入を避けたり、どうしても必要な場合でも、出来るだけ早期に螺子を除去する指針が推奨されています。一方、七ヶ月齢以上の子馬においても、この骨端軟骨が閉鎖する18ヶ月齢までに橈骨と尺骨が連結されると、成長不同一性を生じる危険性はあるものの、尺骨異形成の重篤度は最小限に抑えられるのではないか、という考察がなされています。
この研究では、一ヶ月齢馬と五ヶ月齢馬では、プレート設置から八~十週間目から顕著な跛行(Lameness)を呈し、七ヶ月齢馬は無跛行でしたが、レントゲン像上での関節軟骨の変性(Degenerative changes on articular cartilage)が見られました。また、いずれの馬郡でも、病理学的検査(Pathological examination)において、軟骨糜爛(Cartilage erosion)や軟骨下骨硬化症(Subchondral bone sclerosis)、および肘頭部の短縮化(Olecranon shortening)が認められました。これは、尺骨異形成および肘関節亜脱臼によって、上腕骨が肘頭部に押し付けられるようにして、関節軟骨および軟骨下骨の損傷を生じたためと推測されています。
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この研究報告では、尺骨骨折(Olecranon fracture)に対するプレート固定術(Plate fixation)において、尺骨と橈骨が連結されることの影響を評価するため、一ヶ月齢、五ヶ月齢、七ヶ月齢の子馬に、それぞれ尺骨尾側面(Caudal ulnar cortex)へのプレート固定、尺骨から橈骨に達する螺子挿入、および、その16週間後のプレート除去を実施し、レントゲン検査(Radiography)によって、この期間中における尺骨異形成(Ulna dysplasia)と肘関節亜脱臼(Elbow joint subluxation)の評価が行われました。
この研究では、橈骨関節面(Radial articular surface)と滑車切痕(Trochlear notch)までの距離が、橈骨骨端の厚さ(Thickness of distal radial epiphysis)に占める割合で、橈骨と尺骨の成長不同一性(Growth disparity)の計測が行われました(下図)。そして、全ての実験馬において、滑車切痕および鉤状突起(Coronoid process)の遠位変位(Distal displacement)に伴う、橈骨と尺骨の関節面の不適合(Incongruity between the radial and ulnar articular surfaces)が示され、橈骨と尺骨の骨性癒合(Osseous union)が認められました。そして、プレート設置から16週間目とプレート除去から16週間目の成長不同一性を比較すると、一ヶ月齢馬郡では62%から82%へ、五ヶ月齢馬郡では37%から52%というように、いずれも悪化していました。このため、尺骨と橈骨が連結されることによって生じた、この二つの骨の成長不同一性は、四ヵ月後にプレート&螺子が除去されても、完全には回復できないことが示唆されました。
一般的に、馬の橈骨近位骨端(Proximal radial physis)は、生後の三ヶ月までにその50%の成長が完了し、残りの50%の成長は生後の18ヶ月まで続くことが知られています(Cambell et al. EVJ. 1981;13:247)。そして、この研究においても、螺子挿入によって橈骨と尺骨が連結されることによる副作用は、患馬の月齢に反比例して減少する傾向が認められました。このため、生後の七ヶ月齢未満の子馬に対しては、尺骨骨折の内固定(Internal fixation)に際して、尺骨から橈骨まで達する螺子の挿入を避けたり、どうしても必要な場合でも、出来るだけ早期に螺子を除去する指針が推奨されています。一方、七ヶ月齢以上の子馬においても、この骨端軟骨が閉鎖する18ヶ月齢までに橈骨と尺骨が連結されると、成長不同一性を生じる危険性はあるものの、尺骨異形成の重篤度は最小限に抑えられるのではないか、という考察がなされています。
この研究では、一ヶ月齢馬と五ヶ月齢馬では、プレート設置から八~十週間目から顕著な跛行(Lameness)を呈し、七ヶ月齢馬は無跛行でしたが、レントゲン像上での関節軟骨の変性(Degenerative changes on articular cartilage)が見られました。また、いずれの馬郡でも、病理学的検査(Pathological examination)において、軟骨糜爛(Cartilage erosion)や軟骨下骨硬化症(Subchondral bone sclerosis)、および肘頭部の短縮化(Olecranon shortening)が認められました。これは、尺骨異形成および肘関節亜脱臼によって、上腕骨が肘頭部に押し付けられるようにして、関節軟骨および軟骨下骨の損傷を生じたためと推測されています。
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