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馬の文献:尺骨骨折(Murray et al. 1996)

「フックプレートを応用した馬の尺骨骨折の治療」
Murray RC, Debowes RM, Gaughan EM, Bramlage LR. Application of a hook plate for management of equine ulnar fractures. Vet Surg. 1996; 25(3): 207-212.

この症例報告では、尺骨骨折(Olecranon fracture)に対して、フックプレート(Hook plate)を用いての内固定法(Internal fixation)が応用された十頭の子馬(七日齢~六ヶ月齢、91~228kg)の治療成績が報告されています。

この症例論文の術式では、深指屈筋(Deep digital flexor muscle)と外側尺骨筋(Ulnaris lateralis muscle)のあいだからアプローチし、三頭筋腱付着部(Insertion of the tendon of triceps muscle)に穿刺切開創(Stab incision)を設けて、フックプレートの鉤部分を肘頭に槌(Mallet)で打ち込み、この骨片に固定されたプレートを操作することで骨折箇所を適合させてから、遠位側のプレート孔に螺子挿入することで、骨折部の整復が行われました。また、四頭の患馬においては、十分な骨片間圧迫(Inter-fragmentary compression)を掛けるため、テンション作用装置(Tension device)も併用されました。

結果としては、十頭の患馬のうち七頭は無事に退院して、跛行再発(Lameness recurrence)を示すことなく騎乗に用いられたことが報告されています。また、安楽死(Euthanasia)となった三頭では、フックプレートの変形および損失(Plate deformation/failure)、テンション作用装置が設置された箇所での尺骨骨折、遠位螺子の脱落(Pull-out of distal screws)とその後の盲腸穿孔(Cecal perforation)、などが原因となっていました。このため、子馬の尺骨骨折に対する外科治療では、フックプレートを応用しての内固定法によって、十分な骨折治癒と良好な予後が達成され、騎乗使役に復帰できる場合が多いことが示唆されました。

この症例報告では、外科医の判断で各患馬へのフックプレート応用の是非が判断され、十頭の症例の選択基準(Inclusion criteria)は明確には定義されていません。一般的に、馬の尺骨骨折において、近位部骨折片(Proximal fracture fragment)のサイズが小さい場合(タイプ1a、タイプ1b、タイプ3など)には、この骨片内に螺子を挿入することなく、鉤部分の打ち込みだけが行われるため、骨折片が割れてしまう危険が少なく、より堅固な内固定が達成できると提唱されています。また、三頭筋付着部の外科的侵襲(Surgical invasion)を抑えることができる、という利点もあるかもしれません。しかし、AO/ASIF規格のフックプレートは、全長が123mmと短く、遠位部の骨折や成馬の尺骨に対しての応用は難しいと考えられます。

この症例論文では、尺骨骨折の病態として、タイプ1a骨折(非関節性骨端骨折:Non-articular physeal fracture)が二頭、タイプ1b骨折(関節性骨端骨折:Articular physeal fracture)が四頭、タイプ2骨折(関節性横骨折:Articular transverse fracture)が一頭、タイプ3骨折(非関節性骨折:Non-articular fracture)が一頭、タイプ4骨折(粉砕骨折:Comminuted fracture)が二頭などとなっていましたが。サンプル数が少ないため、骨折タイプ別に見る、フックプレート固定術の治療効果は評価されていません。

この症例論文では、五頭の症例において、螺子挿入されないプレート孔が残されましたが、このうち四頭で、フックプレートの変形、腐骨形成(Sequestrum formation)、再骨折(Refracture)などの術後合併症(Post-operative complication)を続発していました。このため、インプラント損傷を予防するため、全てのプレート孔に螺子を挿入するという、AO/ASIF内固定法の基本ルールを遵守することが重要であると提唱されています。また、腐骨形成を発症した一頭の症例では、二度目の手術でプレートの外科的除去(Surgical removal)と、腐骨の病巣清掃(Debridement)が行われ、良好な予後を示したことが報告されています。

この症例論文では、プレート変形(=鉤部分が延びてしまった)が起こった二頭の症例は、いずれもタイプ1b骨折で、補助なしの麻酔覚醒(Uncontrolled anesthesia recovery)が行われていました。このため、サルターハリスのタイプ2というやや不安定な骨折形状や、麻酔覚醒時にふらついて罹患肢に過剰な体重負荷が生じることなどが、プレート変形の発生に関与していると考察されています。さらに、フックプレートが、尺骨の正中軸(Sagittal axis)から僅かに内外に外れた位置に設置されていれば、プレートへと作用される肘関節を伸展させようとする負荷(=プレートの鉤部分を延ばそうとする負荷)を減退できた可能性もあると考えられました。

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