馬の文献:尺骨骨折(Hanson et al. 1997)
文献 - 2016年12月07日 (水)

「三種類の馬の尺骨固定法の比較」
Hanson PD, Hartwig H, Markel MD. Comparison of three methods of ulnar fixation in horses. Vet Surg. 1997; 26(3): 165-171.
この研究論文では、尺骨骨折(Olecranon fracture)に対する内固定法(Internal fixation)に有用な術式を評価するため、15組の屍体前肢(Cadaveric forelimb)の尺骨に施した骨切術(Osteotomy)の尾側皮質骨面(Caudal cortex)を、ダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate: DCP)、ピンとテンション・バンド・ワイヤー(Tension band wire)、プロトタイプのグリッププレート(Protootype of grip plate)、などの術式で整復し、上腕三頭筋(Triceps brachii muscle)の牽引力を再現する肘頭緊張試験(Olecranon process tensile examination)によって、この三種類の整復法における物理的強度の生物力学的比較(Biomechanical testing)が行われました。
結果としては、単一回負荷試験(Single cycle loading test)において、DCP固定法とピン&ワイヤー固定法は、グリッププレート固定法に比べて、有意に低い軸性変位(Axial displacement)を示しました。また、周期性負荷試験(Cyclic loading test)において、DCP固定法は、ピン&ワイヤー固定法およびグリッププレート固定法に比べて、有意に高い疲労耐性(Fatigue resistance)(=インプラントが破損するまでの負荷回数)を示していました。このため、馬の尺骨骨折に対する外科的療法では、DCPを用いての内固定法によって、他の手法よりも堅固な骨折整復が達成できることが示唆されました。また、三種類の整復法が耐えうる負荷は、DCP固定法が約2700ニュートン、ピン&ワイヤー固定法では約1800ニュートン、グリッププレート固定法では約900ニュートンであったことが報告されています。
一般的に、馬の肘頭突起(Olecranon process)が上腕三頭筋から負荷される緊張力は(体重450kgの馬の場合)、約1100ニュートンの静的負荷(Static loading)、約2200ニュートンの動的負荷(Dynamic loading)であると推定されています。このため、このレベルの緊張力に耐性を持たせるには、DCP固定(=2700ニュートンに耐える)による尺骨骨折部の整復が必要であると考えられます。一方、他の文献では(Martin et al. JAVMA. 1995;207:1085)、体重250kg未満の子馬~若齢馬に対しては、ピン&ワイヤー固定法でも十分な強度の内固定が達成できることが提唱されています。体重250kgの馬の場合には、肘頭突起に掛かる緊張力は、約600ニュートンの静的負荷、および約1200ニュートンの動的負荷であると推定され、この研究では、ピン&ワイヤー固定法(=1800ニュートンに耐える)による尺骨骨折部の整復でも十分な強度の内固定が実施できる、という裏付けとなるデータが示されました。
この研究では、ピン&ワイヤー固定法におけるワイヤーの止め方として、捻り結び法(Twist-knot technique)が実施されましたが、インプラント破損は、この結び目の下部でのワイヤー破損のかたちで生じており、ワイヤーを捻ることでその周辺部に金属疲労(Metal fatigue)を起こした可能性が示唆されました。他の文献では、捻り結び法はワイヤー強度に影響しないという知見や(Oh et al. Clin Orthop 1985;192:228)、二重ループ法(Double-loop technique)のほうが捻り結び法よりも高い強度を得られるという報告(Blass et al. Vet Surg. 1986;15:181)、捻り結び法のほうが二重ループ法よりも強度が高いという報告(Wilson et al. JAVMA. 1985;187:389)など、様々な相反する結果(Conflicting results)が示されています。一方、この論文の発表時には一般的でなかった、ワイヤーの末端同士を捻ることなくクランプなどを用いて保持させる手法によって、より強度の高い内固定法が実施できる可能性があるかもしれません。
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