馬の文献:尺骨骨折(Swor et al. 2003)
文献 - 2016年12月07日 (水)
「24頭の馬のタイプ1b肘頭骨折に対するプレート固定による治療成績」
Swor TM, Watkins JP, Bahr A, Honnas CM. Results of plate fixation of type 1b olecranon fractures in 24 horses. Equine Vet J. 2003; 35(7): 670-675.
この症例論文では、タイプ1bの肘頭骨折(Olecranon fracture)を呈した24頭の患馬における、プレート固定術(Plate fixation)を介しての外科的療法の治療成績が報告されています。この症例報告では、24頭の患馬のうち、プレート固定術が応用されたのは20頭、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が応用されたのは二頭で、残りの二頭は経済的な理由などから安楽死(Euthanasia)が選択されました。
結果としては、プレート固定が応用された20頭の患馬のうち、退院したのは19頭(生存率:95%)で、手術から一年目に無跛行であったのは16頭(治癒率:80%)であったことが示されました。また、二年目以降の経過追跡(Follow-up)ができた馬のうち、その時点で二歳齢以上に達していた12頭を見ると、無跛行で騎乗使役に用いられたのは九頭(騎乗復帰率:75%)、繁殖使役に用いられたのは三頭であったことが報告されています。さらに、術後のレントゲン再検査で、インプラント破損(Implant failure)、近位骨片の分割化(Splitting of proximal fragment)、骨端軟骨の早期閉鎖(Premature closure of epiphysis)などの術後合併症(Post-operative complication)を呈した症例は、一頭もありませんでした。一方、保存性療法が応用された二頭では、治癒率は50%(1/2頭)であったことが報告されています。このため、子馬のタイプ1b肘頭骨折に対する内固定術(Internal fixation)では、プレート固定によって十分な骨折治癒と良好な予後が達成され、正常歩様への回復と騎乗使役への復帰を果たす馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。
この論文では、子馬の肘頭における骨端骨折(Physeal fracture)(=タイプ1骨折)のうち、非関節性で骨端板のみを含む場合(Non-articular fracture involving only the physeal plate)をタイプ1a骨折、関節性または非関節性で骨端板と近位半月状切痕を含む場合(Articular or nonarticular fracture involving the physeal plate and the proximal semilunar notch)をタイプ1b骨折と定義されました。そして、症例選択(Case selection)された1989~2001年のあいだに肘頭骨折の診断が下された77頭の来院馬うち、タイプ1b骨折は31%(24/77頭)を占めていました。
この論文では、レントゲン検査において、関節性骨折(Articular fracture)を起こしたのは79%、破片骨折片(Comminuted fragment)を伴ったのは50%、非変位性もしくは最小変位性骨折(Non/Minimally-displaced fracture)を起こしたのは48%であったことが確認されました。そして、重篤な骨折片変位(Severe fragment displacement)を呈していた症例では、慢性跛行(Chronic lameness)によって騎乗復帰できない危険性が高いという治療成績が示された反面、肘突起(Anconeal process)が外科的除去(Surgical removal)された場合や、骨折線が関節腔(Joint cavity)に達していた場合でも、骨折治癒や予後には有意な悪影響(Adverse effect)が出なかった、という考察がなされています。人間の整形外科の文献では、肘頭部の50~80%が除去されても、肘関節の安定性(Elbow joint stability)には影響が出ない、という知見もあります(Horne and Tanzer. J Trauma. 1981;21:469)。
一般的に、馬の肘頭骨折では、骨端部に達する関節性の骨端骨折(Articular physeal fracture)において、これをタイプ1bとする分類法と(Donecker et al. JAVMA. 1984;2:183)、タイプ2とする分類法がありますが(Easley et al. Eq Vet Sci. 1983;3:5)、この論文では、関節性か非関節性かに関わらず、骨端部に達する骨端骨折をタイプ1bとする独自の分類法が応用されました。また、タイプ1b骨折を、サルター・ハリスのタイプ2骨折(Salter-Harris Type-2 fracture)と定義される場合がある反面(Denny et al. EVJ. 1987;19:319)、馬の肘頭は“Epiphysis”ではなく、厳密には“Apophysis”であることから、サルター・ハリスの分類法を応用するのは適当ではない、という提唱もなされています(Watkins. Equine Surgery. 1999. pp831)。
一般的に、馬のタイプ1bの肘頭骨折においては、サイズの小さい近位骨折片に螺子挿入することになるプレート固定では、骨片が割れてしまうなどの問題が生じ易いため、ピンとテンションバンドワイヤーを用いた手法が有用である、という知見も示されています(Martin et al. JAVMA. 1995;207:1085)。しかし、この症例報告では、慎重な施術によって、プレート設置に起因する合併症や上腕三頭筋付着部(Triceps brachii muscle insertion)に対する外科的侵襲(Surgical invasion)も最小限に防がれたことが報告されています(切開創の合併症を起こしたのは三頭のみ)。また、プレート設置に際しては、螺子先端が関節面に突き抜けたり(=骨関節炎を引き起こす)、橈骨皮質骨面(Caudal cortex of radius)に達していないかを(=肘関節異形成を引き起こす)、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)で確認することが重要である、と提唱されています。
この論文では、外科的療法が応用された20頭のうち、開放骨折(Open fracture)を呈してプレート固定が応用された一頭では、細菌感染(Bacterial infection)を起こすことなく、良好な予後が示されました。一方、閉鎖骨折(Closed fracture)を呈して、プレート固定後に術創への細菌感染を起こした二頭では、速やかなプレート除去が行われましたが、いずれも肘関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発して、繁殖用使役への復帰にとどまったことが報告されています。また、この論文では、感染が起きない限りは、プレートを除去しない方針が取られ、インプラントを残存させることが予後に悪影響をもたらす、という成績は認められませんでした。そして、術後の14ヶ月目に、骨折とは無関係の原因で安楽死となった一頭の剖検(Necropsy)では、骨折側と正常側の肘頭は見分けが付かず、プレートは骨組織内に埋没されていたことが報告されています。
この論文では、22頭のタイプ1b肘頭骨折の罹患馬のうち、牝馬は54%、牡馬は46%と、性別間に有意差はなく、また、患馬の平均週齢は26週齢(範囲:6~52週齢)、平均体重は250kg(範囲:159~391kg)であったことが報告されています。
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この症例論文では、タイプ1bの肘頭骨折(Olecranon fracture)を呈した24頭の患馬における、プレート固定術(Plate fixation)を介しての外科的療法の治療成績が報告されています。この症例報告では、24頭の患馬のうち、プレート固定術が応用されたのは20頭、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が応用されたのは二頭で、残りの二頭は経済的な理由などから安楽死(Euthanasia)が選択されました。
結果としては、プレート固定が応用された20頭の患馬のうち、退院したのは19頭(生存率:95%)で、手術から一年目に無跛行であったのは16頭(治癒率:80%)であったことが示されました。また、二年目以降の経過追跡(Follow-up)ができた馬のうち、その時点で二歳齢以上に達していた12頭を見ると、無跛行で騎乗使役に用いられたのは九頭(騎乗復帰率:75%)、繁殖使役に用いられたのは三頭であったことが報告されています。さらに、術後のレントゲン再検査で、インプラント破損(Implant failure)、近位骨片の分割化(Splitting of proximal fragment)、骨端軟骨の早期閉鎖(Premature closure of epiphysis)などの術後合併症(Post-operative complication)を呈した症例は、一頭もありませんでした。一方、保存性療法が応用された二頭では、治癒率は50%(1/2頭)であったことが報告されています。このため、子馬のタイプ1b肘頭骨折に対する内固定術(Internal fixation)では、プレート固定によって十分な骨折治癒と良好な予後が達成され、正常歩様への回復と騎乗使役への復帰を果たす馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。
この論文では、子馬の肘頭における骨端骨折(Physeal fracture)(=タイプ1骨折)のうち、非関節性で骨端板のみを含む場合(Non-articular fracture involving only the physeal plate)をタイプ1a骨折、関節性または非関節性で骨端板と近位半月状切痕を含む場合(Articular or nonarticular fracture involving the physeal plate and the proximal semilunar notch)をタイプ1b骨折と定義されました。そして、症例選択(Case selection)された1989~2001年のあいだに肘頭骨折の診断が下された77頭の来院馬うち、タイプ1b骨折は31%(24/77頭)を占めていました。
この論文では、レントゲン検査において、関節性骨折(Articular fracture)を起こしたのは79%、破片骨折片(Comminuted fragment)を伴ったのは50%、非変位性もしくは最小変位性骨折(Non/Minimally-displaced fracture)を起こしたのは48%であったことが確認されました。そして、重篤な骨折片変位(Severe fragment displacement)を呈していた症例では、慢性跛行(Chronic lameness)によって騎乗復帰できない危険性が高いという治療成績が示された反面、肘突起(Anconeal process)が外科的除去(Surgical removal)された場合や、骨折線が関節腔(Joint cavity)に達していた場合でも、骨折治癒や予後には有意な悪影響(Adverse effect)が出なかった、という考察がなされています。人間の整形外科の文献では、肘頭部の50~80%が除去されても、肘関節の安定性(Elbow joint stability)には影響が出ない、という知見もあります(Horne and Tanzer. J Trauma. 1981;21:469)。
一般的に、馬の肘頭骨折では、骨端部に達する関節性の骨端骨折(Articular physeal fracture)において、これをタイプ1bとする分類法と(Donecker et al. JAVMA. 1984;2:183)、タイプ2とする分類法がありますが(Easley et al. Eq Vet Sci. 1983;3:5)、この論文では、関節性か非関節性かに関わらず、骨端部に達する骨端骨折をタイプ1bとする独自の分類法が応用されました。また、タイプ1b骨折を、サルター・ハリスのタイプ2骨折(Salter-Harris Type-2 fracture)と定義される場合がある反面(Denny et al. EVJ. 1987;19:319)、馬の肘頭は“Epiphysis”ではなく、厳密には“Apophysis”であることから、サルター・ハリスの分類法を応用するのは適当ではない、という提唱もなされています(Watkins. Equine Surgery. 1999. pp831)。
一般的に、馬のタイプ1bの肘頭骨折においては、サイズの小さい近位骨折片に螺子挿入することになるプレート固定では、骨片が割れてしまうなどの問題が生じ易いため、ピンとテンションバンドワイヤーを用いた手法が有用である、という知見も示されています(Martin et al. JAVMA. 1995;207:1085)。しかし、この症例報告では、慎重な施術によって、プレート設置に起因する合併症や上腕三頭筋付着部(Triceps brachii muscle insertion)に対する外科的侵襲(Surgical invasion)も最小限に防がれたことが報告されています(切開創の合併症を起こしたのは三頭のみ)。また、プレート設置に際しては、螺子先端が関節面に突き抜けたり(=骨関節炎を引き起こす)、橈骨皮質骨面(Caudal cortex of radius)に達していないかを(=肘関節異形成を引き起こす)、術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)で確認することが重要である、と提唱されています。
この論文では、外科的療法が応用された20頭のうち、開放骨折(Open fracture)を呈してプレート固定が応用された一頭では、細菌感染(Bacterial infection)を起こすことなく、良好な予後が示されました。一方、閉鎖骨折(Closed fracture)を呈して、プレート固定後に術創への細菌感染を起こした二頭では、速やかなプレート除去が行われましたが、いずれも肘関節の変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発して、繁殖用使役への復帰にとどまったことが報告されています。また、この論文では、感染が起きない限りは、プレートを除去しない方針が取られ、インプラントを残存させることが予後に悪影響をもたらす、という成績は認められませんでした。そして、術後の14ヶ月目に、骨折とは無関係の原因で安楽死となった一頭の剖検(Necropsy)では、骨折側と正常側の肘頭は見分けが付かず、プレートは骨組織内に埋没されていたことが報告されています。
この論文では、22頭のタイプ1b肘頭骨折の罹患馬のうち、牝馬は54%、牡馬は46%と、性別間に有意差はなく、また、患馬の平均週齢は26週齢(範囲:6~52週齢)、平均体重は250kg(範囲:159~391kg)であったことが報告されています。
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