馬の文献:尺骨骨折(Swor et al. 2006)
文献 - 2020年04月24日 (金)
「20頭の馬のタイプ5肘頭骨折に対するプレート固定による治療成績」
Swor TM, Watkins JR, Bahr A, Epstein KL, Honnas CM. Results of plate fixation of type 5 olecranon fractures in 20 horses. Equine Vet J. 2006; 38(1): 30-34.
この症例論文では、タイプ5の肘頭骨折(Olecranon fracture)を呈した32頭の患馬における、プレート固定術(Plate fixation)を介しての外科的療法の治療成績が報告されています。この症例報告では、タイプ5骨折は尺骨遠位幹部骨折(Distal ulnar shaft fracture)と定義され、32頭の患馬のうち、プレート固定術が応用されたのは20頭、馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)が応用されたのは七頭で、残りの五頭は経済的な理由などから安楽死(Euthanasia)が選択されました。
結果としては、プレート固定が応用された20頭の患馬のうち、全頭が手術直後から罹患肢への体重負荷が可能になり、無事に退院を果たし(生存率:100%)、数週間目には14頭の患馬が常歩時に無跛行(Sound at walk)であったことが示されました。また、経過追跡(Follow-up)ができた15頭の患馬のうち、跛行再発(Lameness recurrence)を起こすことなく騎乗使役に用いられたのは13頭(治癒率:87%)で、これらの馬が騎乗復帰までに要した期間は平均3.6ヶ月、競走または競技への復帰までに要した期間は平均9.5ヶ月であったことが報告されています。一方、保存性療法が応用された七頭の患馬では、罹患肢への体重負荷までには平均45日間も掛かり、騎乗使役に用いられたのは三頭のみで(治癒率:43%)、これらの馬が騎乗復帰までに要した期間は平均5.8ヶ月、競走または競技への復帰までに要した期間は平均12ヶ月であったことが報告されています。このため、馬のタイプ5肘頭骨折に対する内固定術(Internal fixation)では、プレート固定によって十分な骨折治癒と良好な予後が達成され、騎乗使役への早期復帰を果たす馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。
この論文では、症例選択(Case selection)された1989~2003年のあいだに肘頭骨折の診断が下された97頭の来院馬うち、タイプ5骨折は33%(32/97頭)を占めていました。また、32頭のタイプ5肘頭骨折の罹患馬のうち、牝馬は47%、牡馬は53%と(去勢馬が34%、牡馬が19%)、性別間に顕著な差はなく、また、患馬の平均年齢は七歳(範囲:五ヶ月齢~二十一歳齢)、平均体重は340kg(範囲:205~545kg)であったことが報告されています。
この論文では、レントゲン検査において、骨折線が遠位半月状突起(Distal semilunar notch)を巻き込んでいたのは94%、破片骨折片(Comminuted fragment)を伴ったのは38%であったことが確認されました。しかし、この関節性骨折(Articular fracture)の有無は、予後には有意には影響しない傾向が認められました。この理由としては、タイプ5肘頭骨折が肘関節腔(Elbow joint space)を及ぶ際には、その骨折線は半月状突起の最も遠位側に達する場合が多く、この箇所には硝子軟骨(Hyaline cartilage)ではなく滑膜窩(Synovial fossa)が存在しているため、骨折による関節面(Articular surface)へのギャップが生じても、変性関節疾患(Degenerative joint disease)などの術後合併症(Post-operative complication)の続発につながりにくかったことが挙げられています。
一般的に、馬のタイプ5肘頭骨折に対しては、テンションバンドワイヤー固定術が応用され、80%の治療成功率が示されており(Martin et al. JAVMA. 1995;207:1085)、ピン&ワイヤー固定術ではプレート固定術に比べて、上腕三頭筋付着部(Insertion of triceps brachii muscle)への外科的侵襲(Surgical invasion)およびそれに伴う合併症が少ないという利点が挙げられています。この論文では、プレート固定術の応用によって、インプラント損失(Implant failure)を起こした馬は一頭もありませんでしたが、四頭の症例で皮膚切開創の合併症(Skin incisional complication)が見られたことが報告されています。また、テンションバンドワイヤー固定術は、体重の軽い馬(250kg未満)のみに応用するべきであることが提唱されています(この症例論文の患馬は平均体重340kg)。
この論文では、タイプ5肘頭骨折に対するプレート固定術において、注意を要する外科的手技としては、近位部における螺子が関節腔に突き抜けてしまわないこと(Screw penetration into joint cavity)、若齢馬の場合(一歳齢未満)には、螺子が尺骨から橈骨に達してしまうと、尺骨異形成(Ulnar dysplasia)を起こす危険があること、などのポイントが挙げられています。しかし、二つ目の点については、タイプ5骨折は成馬に多いことから、尺骨と橈骨の成長不同一性(Growth disparity)が問題になるケースは少ないと予測されます(この症例論文の患馬は平均七歳齢)。この症例報告では、一頭の五ヶ月齢の子馬症例において、術後の68日目にプレート除去が行われ、その後の尺骨異形成を予防できたことが報告されています。
この論文では、二頭の患馬において、細菌感染(Bacterial infection)によってプレート除去(Plate removal)が選択され、屈曲性肢変形症(Flexural limb deformity)の続発も見られました。しかし、タイプ5肘頭骨折に対するプレート固定術においては、感染が起きない限りは、プレートを除去しない治療指針が推奨されており、インプラントを残存させることで予後の悪化につながる、という成績は認められませんでした。
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結果としては、プレート固定が応用された20頭の患馬のうち、全頭が手術直後から罹患肢への体重負荷が可能になり、無事に退院を果たし(生存率:100%)、数週間目には14頭の患馬が常歩時に無跛行(Sound at walk)であったことが示されました。また、経過追跡(Follow-up)ができた15頭の患馬のうち、跛行再発(Lameness recurrence)を起こすことなく騎乗使役に用いられたのは13頭(治癒率:87%)で、これらの馬が騎乗復帰までに要した期間は平均3.6ヶ月、競走または競技への復帰までに要した期間は平均9.5ヶ月であったことが報告されています。一方、保存性療法が応用された七頭の患馬では、罹患肢への体重負荷までには平均45日間も掛かり、騎乗使役に用いられたのは三頭のみで(治癒率:43%)、これらの馬が騎乗復帰までに要した期間は平均5.8ヶ月、競走または競技への復帰までに要した期間は平均12ヶ月であったことが報告されています。このため、馬のタイプ5肘頭骨折に対する内固定術(Internal fixation)では、プレート固定によって十分な骨折治癒と良好な予後が達成され、騎乗使役への早期復帰を果たす馬の割合が、比較的に高いことが示唆されました。
この論文では、症例選択(Case selection)された1989~2003年のあいだに肘頭骨折の診断が下された97頭の来院馬うち、タイプ5骨折は33%(32/97頭)を占めていました。また、32頭のタイプ5肘頭骨折の罹患馬のうち、牝馬は47%、牡馬は53%と(去勢馬が34%、牡馬が19%)、性別間に顕著な差はなく、また、患馬の平均年齢は七歳(範囲:五ヶ月齢~二十一歳齢)、平均体重は340kg(範囲:205~545kg)であったことが報告されています。
この論文では、レントゲン検査において、骨折線が遠位半月状突起(Distal semilunar notch)を巻き込んでいたのは94%、破片骨折片(Comminuted fragment)を伴ったのは38%であったことが確認されました。しかし、この関節性骨折(Articular fracture)の有無は、予後には有意には影響しない傾向が認められました。この理由としては、タイプ5肘頭骨折が肘関節腔(Elbow joint space)を及ぶ際には、その骨折線は半月状突起の最も遠位側に達する場合が多く、この箇所には硝子軟骨(Hyaline cartilage)ではなく滑膜窩(Synovial fossa)が存在しているため、骨折による関節面(Articular surface)へのギャップが生じても、変性関節疾患(Degenerative joint disease)などの術後合併症(Post-operative complication)の続発につながりにくかったことが挙げられています。
一般的に、馬のタイプ5肘頭骨折に対しては、テンションバンドワイヤー固定術が応用され、80%の治療成功率が示されており(Martin et al. JAVMA. 1995;207:1085)、ピン&ワイヤー固定術ではプレート固定術に比べて、上腕三頭筋付着部(Insertion of triceps brachii muscle)への外科的侵襲(Surgical invasion)およびそれに伴う合併症が少ないという利点が挙げられています。この論文では、プレート固定術の応用によって、インプラント損失(Implant failure)を起こした馬は一頭もありませんでしたが、四頭の症例で皮膚切開創の合併症(Skin incisional complication)が見られたことが報告されています。また、テンションバンドワイヤー固定術は、体重の軽い馬(250kg未満)のみに応用するべきであることが提唱されています(この症例論文の患馬は平均体重340kg)。
この論文では、タイプ5肘頭骨折に対するプレート固定術において、注意を要する外科的手技としては、近位部における螺子が関節腔に突き抜けてしまわないこと(Screw penetration into joint cavity)、若齢馬の場合(一歳齢未満)には、螺子が尺骨から橈骨に達してしまうと、尺骨異形成(Ulnar dysplasia)を起こす危険があること、などのポイントが挙げられています。しかし、二つ目の点については、タイプ5骨折は成馬に多いことから、尺骨と橈骨の成長不同一性(Growth disparity)が問題になるケースは少ないと予測されます(この症例論文の患馬は平均七歳齢)。この症例報告では、一頭の五ヶ月齢の子馬症例において、術後の68日目にプレート除去が行われ、その後の尺骨異形成を予防できたことが報告されています。
この論文では、二頭の患馬において、細菌感染(Bacterial infection)によってプレート除去(Plate removal)が選択され、屈曲性肢変形症(Flexural limb deformity)の続発も見られました。しかし、タイプ5肘頭骨折に対するプレート固定術においては、感染が起きない限りは、プレートを除去しない治療指針が推奨されており、インプラントを残存させることで予後の悪化につながる、という成績は認められませんでした。
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