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馬の文献:尺骨骨折(Jackson et al. 2011)

「ロッキングコンプレッションプレート固定による馬のタイプ2およびタイプ4肘頭骨折の治療:2002~2008年の前向き調査」
Jackson M, Kummer M, Auer J, Hagen R, Fuerst A. Treatment of type 2 and 4 olecranon fractures with locking compression plate osteosynthesis in horses: a prospective study (2002-2008). Vet Comp Orthop Traumatol. 2011; 24(1): 57-61.

この症例論文では、肘頭骨折(Olecranon fracture)に対する内固定法(Internal fixation)に有用な術式を評価するため、タイプ2(単純関節性骨折:Simple articular fracture)およびタイプ4(粉砕骨折:Comminuted fracture)の肘頭骨折を呈して、ロッキングコンプレッションプレート(Locking compression plate: LCP)を用いての骨折整復(Osteosynthesis)が応用された十六頭の患馬の(十八箇所の骨折)、医療記録(Medical records)の前向き調査(Prospective study)が行われました。

結果としては、十六頭の患馬のうち、十分な骨折治癒と跛行消失、および、意図した使役への復帰(Return to intended use)を果たしたのは十三頭で(治療成功率:81%)、他の三頭では、重度の細菌感染(Severe bacterial infection)または橈骨粉砕骨折(Comminuted radial fracture)によって安楽死(Euthanasia)となったことが報告されています。また、生存馬のうち五頭では、退院後に細菌感染(二頭)および跛行(三頭)が見られましたが、プレートの外科的除去(Surgical removal)によって、良好な予後を示しました。他の文献では、馬の尺骨骨折に対して、ダイナミックコンプレッションプレート(Dynamic compression plate: DCP)を用いての内固定法によって、この論文と同程度の治療成功率が示されています(Donecker et al. JAVMA. 1984;185:183, Denny et al. EVJ. 1987;19:319, Janicek et al. Can Vet J. 2006;47:241)。一般的に、馬の尺骨は体重支持機能(Weight-bearing function)ではなく、上腕三頭筋(Triceps brachii muscle)の牽引力を肘関節の伸展運動(Elbow joint extension)に変換する機能をになっており、その整復に際しては、強度の高いインプラントは必ずしも重要でないことが提唱されており、この論文でも、LCP固定法の応用によって、DCP固定法よりも有意に予後が改善するというデータは示されませんでした。しかし、粉砕骨折などの一部の病態においては、優れた強度を持つLCPを用いることで、早期かつ堅固な骨折治癒が誘導できるケースもありうると考えられる反面、開放骨折(Open fracture)に伴う細菌感染など、他の要因によって予後が大きく影響される場合も多いと推測されています。

一般的に、LCP固定法の利点としては(DCPに比べた場合)、(1)降伏強度(Yield strength)や硬度(Stiffness)が有意に優れていること、(2)骨折片の完全な解剖学的再構築(Exact anatomical reconstruction)を要しないこと、(3)プレートと骨表面が完璧に接触していなくても整復強度が低下しないこと、(4)螺子を締める際に骨折片がずれてしまう危険が無いこと、(5)骨膜(Periosteum)へのダメージが少ないこと、(6)プレート両端が先細りしているので、軟部組織損傷(Soft-tissue damage)が少ないこと、(7)自己タッピング螺子(Self-tapping screws)であるため、螺子挿入のための時間節約、および手技的ミスが予防できること、などが挙げられます。一方、LCP固定法の欠点としては、(1)LCP用螺子の挿入角度はプレートに対して常に直角であるため、骨折片間圧迫(Inter-fragmentary compression)を掛けたい部位では、通常の皮質骨螺子(Standard cortical screw)を要すること、(2)LCP用螺子の挿入角度は調整が出来ないので、複数のLCPを使う際には、螺子同士が接触する可能性があること、(3)LCPは値段が高額であること、などが挙げられています。

この論文では、十六頭の症例の十八箇所の骨折のうち、十五箇所に対しては一枚のLCP、他の三箇所に対しては二枚のLCPが用いられました。そして、二枚のLCPが用いられた一頭の症例において、プレート除去後の麻酔覚醒時に、尺骨の再骨折(Refracture)を起こして、二度目の内固定術を要しました。このため、複数のプレートが用いられた症例に対しては、複数回の手術を介して、プレートを一枚ずつ除去することで、再骨折を予防できる可能性もあると考察されています。一方で、そもそも、プレートの存在自体が持続性疼痛(Persistent pain)の原因になるかについては論議(Controversy)があり、感染が起きない限りはプレートを除去する必要はないという知見がある反面、螺子が尺骨と橈骨の両方にまたがっているような場合には、橈骨がしなる動きが妨げられて、慢性の違和感(Chronic discomfort)やプアパフォーマンスを生じるという仮説もなされています。

この論文では、殆どの症例に対してプールによる麻酔覚醒(Pool recovery)が応用され、体重の軽い子馬に対しても支持麻酔覚醒(Support anesthesia recovery)が行われました。しかし、プール覚醒が導入される以前の症例であった一頭の成馬では、支持麻酔覚醒が試みられましたが、覚醒中にインプラント破損(Implant failure)を生じたため、直ちに二度目の手術によって、骨折部の再整復を要したことが報告されています。このため、成馬の尺骨骨折の外科的療法においては、他の種類の骨折と同様に、十分に制御された麻酔覚醒(Adequately controlled recovery)を行うことの重要性が、改めて示されたと言えます。

この論文では、一頭の患馬において、術後の十一日目に、プレート遠位端部での橈骨骨折を続発しており、この場合には、プレートの設置場所が外側になり過ぎていました。このため、本来は尾側から頭側の橈骨皮質骨面(Caudal to cranial radial cortex)へと垂直に抜けるはずの螺子が、外側皮質骨面(Lateral radial cortex)に真横から侵入するかたちとなっており、これは、LCP用螺子がプレートに直角にしか挿入できないことが裏目に出た結果であったと考えられます。しかし、もし、慎重な術中レントゲン検査(Intra-operative radiography)や蛍光透視装置(Fluoroscopy)によって、このような螺子挿入の不備が確認できていれば、角度が調整できる通常の皮質骨螺子に交換したり、片側皮質骨のみに達する螺子設置(Uni-cortical screw placement)を行うことで、このような医原性骨折(Iatrogenic fracture)を防げた可能性もあると考察されています。

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