馬の病気:副管骨骨折
馬の骨折 - 2013年07月27日 (土)

副管骨骨折(Small metacarpal/metatarsal bone fracture)について。
外側副管骨(=第四中手骨または第四中足骨:Fourth metacarpal/metatarsal bone)および内側副管骨(=第二中手骨または第二中足骨:Second metacarpal/metatarsal bone)は、遠位端が退化しているため、管骨のような体重負荷機能(Weight-bearing function)は少ないですが、近位部において手根関節(Carpal joints)および足根関節(Tarsal joints)の支持機能や固定機能(Supporting/Stabilizing functions)を担っています。
副管骨(“Splint bone”)の遠位部骨折(Distal fracture)は、5~7歳齢の競走馬に好発し、後肢よりも前肢に、サラブレッドよりもスタンダードブレッドに多く見られます。病因としては、蹴傷や交突などの外傷性要因(External trauma)と、球節過剰伸展(Fetlock hyperextension)に起因する牽引力(副管骨遠位端と繋靭帯脚は筋膜で結合しているため)、もしくは、炎症によって肥大した脚部繋靭帯(Suspensory ligament branch)による衝突(Impingement)などに起因する内傷性要因(Internal trauma)が挙げられています。症状としては、軽度の跛行(Mild lameness)や骨折部の骨性膨隆(Bony enlargement)が見られます。レントゲン検査によって診断が下されますが、初期病態では無疼痛性の場合もあるため、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)によって疼痛原因であることを確認することが推奨されています。
遠位部副管骨骨折の治療としては、馬房休養(Stall rest)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与を介しての保存性療法(Conservative treatment)による治癒も報告されていますが、過増殖性仮骨形成(Exuberant callus formation)によって、二次的に脚部繋靭帯炎(Suspensory branch desmitis)を続発する場合も多いため、遠位骨折片の外科的切除(Surgical removal)が推奨されています。しかし、初診時にすでに繋靭帯炎を発症していたり、炎症による繋靭帯肥大が骨折の原因である症例においては、病態治癒の度合いに関わらず有意に予後が悪いことが示唆されているため、術前の超音波検査(Ultrasonography)によって脚部繋靭帯炎の診断を行うことが重要です。また、第二中手骨においては、遠位部50%以上の骨摘出によって手根関節の不安定性(Carpal instability)を引き起こす危険があるため、切除よりも内固定法(Internal fixation)を行うことが推奨されています。
副管骨の近位部骨折(Proximal fracture)は、蹴傷などの外傷性に発症する場合が多いため、外側副管骨(第四中手骨または第四中足骨)に好発することが知られています。近位部副管骨の骨折症例では、遠位部副管骨の骨折とは異なり、中程度~重度の跛行(Moderate to severe lameness)を呈することが一般的で、レントゲン検査によって骨折の重篤度の判定と、超音波検査による繋靭帯炎の検査が行われます。
近位部副管骨骨折の治療としては、骨折部が手根関節および足根関節から4cm以内である場合や、触診によって骨間靭帯損傷(Intra-osseous ligament damage)による近位骨片の不安定性(Proximal fragment instability)が確認された場合には、近位副管骨片の内固定が必要となります。この際には、螺子固定術(Lag screw fixation)では整復不全の危険が高いため、プレート固定による内固定法が推奨されています。施術に際しては、プレート固定のための骨螺子は副管骨片のみに挿入して、管骨皮質へと穿孔させないこと(運動生理学的に正常な関節動態を妨げないようにするため)、そして、関節面の連続性を保つため骨折片間圧迫(Intra-fragmentary compression)は行わないことが大切です。また、第四中足骨は、他の副管骨(第四中手骨、第二中手骨、第二中足骨)と異なり、近位部における関節形成(Proximal articulation)への解剖学的関与が小さいため、第四中足骨の近位部骨折を起こした症例では、副管骨の完全切除(Complete removal)を行っても競技および競走能力にはあまり影響が出ないことが提唱されています。この際には、足根中足関節(Tarso-metatarsal joint)の底側関節包(Planter pouch)を傷付けない事と、死腔(Dead space)が生じるため術後に充分な圧迫包帯(Pressure bandage)を施すことが重要です。
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