馬の文献:副鼻腔炎(Freeman et al. 1990)
文献 - 2020年05月03日 (日)
「馬の副鼻腔手術のためのサイズの大きな前頭副鼻腔の骨フラップ術」
Freeman DE, Orsini PG, Ross MW, Madison JB. A large frontonasal bone flap for sinus surgery in the horse. Vet Surg. 1990; 19(2): 122-130.
この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に対する有用な外科的療法を検討するため、レントゲン検査(Radiography)および内視鏡検査(Endoscopy)によって、副鼻腔炎(Paranasal sinusitis)、副鼻腔嚢包(Paranasal cyst)、篩骨血腫(Ethmoid hematoma)等の推定診断(Presumptive diagnosis)が下され、サイズの大きな前頭副鼻腔の骨フラップ術(Large frontonasal bone flap)による治療が応用された14頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究の術式では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、コの字型に前頭副鼻腔の骨フラップが形成されました。この際、コの字の尾側縁(Caudal margin)は、眼窩上孔(Supraorbital foramen)と内側眼角(Medial canthus)の中間点に設けられ、コの字の外側縁(Lateral margin)は、内側眼角から内側へ2.0~2.5cmの位置から始め、眼窩下孔(Infraorbital foramen)と内側眼角のあいだの距離の三分の二の箇所まで進められました。そして、鼻涙管(Nasolacrimal duct)を損傷しないよう外側縁を正中線に向かって曲げながら、出来るだけフラップの幅を広くするようにして、コの字の吻側縁(Rostral margin)は、この外側縁の最下点から背側正中線へと直角を成す位置に設けられました(最終的には幅が約8cmで長さが約10cmのフラップ)。そして、振動骨鋸(Oscillating bone saw)および骨蚤(Osteotome)を用いて、コの字型に前頭骨を切除してから、この骨フラップを正中側に折り曲げることで副鼻腔へのアプローチ、および病巣清掃(Debridement)が行われました。その後、病巣の拡大度合いに応じて、前頭副鼻腔の床部分(Floor of frontonasal sinus)および背側鼻道(Dorsal conchal sinus)への隔壁を穿孔することで、充分な外科的アプローチまたは排液路(Drainage tract)が確保されました。そして、副鼻腔内にガーゼを詰めてから、コの字型の骨板の角にドリル孔を開けて、骨フラップをワイヤー固定した後、皮膚切開創(Skin incision)が縫合閉鎖されました。
結果としては、14頭の患馬のうち、胸膜肺炎(Pleural pneumonia)もしくは一次性疾患(Primary disorders)が原因で安楽死(Euthanasia)となった馬は四頭で、残りの十頭では、術部の外観的損失(Cosmetic blemish)を伴うことなく、原因病の再発(Recurrence)もなく良好な予後を示し、意図した用途への使役に復帰(Returned to intended use)したことが報告されています。このため、馬の副鼻腔疾患に対しては、前頭副鼻腔の骨フラップを介して、充分な罹患部位の治癒が達成され、運動および競技への復帰を果たす馬の割合が、比較的に高い(意図した用途への復帰率:71%)ことが示唆されました。
この研究で応用されたコの字型の骨フラップ術は、円鋸術(Trephination)や三角形の骨フラップ(Triangulated bone flap)と異なり、非常に広い範囲の術野(Extensive surgical field)を得られるだけでなく、外転させたフラップをほぼ正確に元通りの箇所に整復できるため、術後に前頭骨の変形などの美容的外観を損なう可能性が低い、という利点が挙げられています。また、他の文献の術式と異なり、皮下組織と骨組織のあいだの剥離はされておらず、術後に皮膚と骨表面のあいだに死腔(Dead space)を生じないようにして、血腫(Hematoma)や蜂窩織炎(Cellulitis)を続発する危険を最小限に抑える工夫がなされています。さらに、このように皮下組織と骨組織の連結が維持されている事で、術後にはワイヤー整復された骨フラップ部の安定化(Stabilization)につながり、術部の迅速な骨治癒(Rapid bone healing)を促すという効能も指摘されています。
この研究では、術後合併症(Post-operative complications)としては、皮膚縫合部の膿瘍(Abscess)および離開(Dehiscence)が最も多く見られた事が報告されています(4/14頭)。この合併症を予防するためには、前頭骨の切開線と皮膚の切開線が重ならないよう、骨組織のコの字切開よりも皮膚のコの字切開をやや広めに施すことで、副鼻腔内の感染が皮下組織(Subcutaneous tissue)や皮膚切開部に波及しないよう努めることが重要である、という提唱がなされています。一方、腹側鼻道から鼻腔内への排液経路を作成する際には、術中合併症(Intra-operative complication)として重度の出血(Profuse hemorrhage)を生じて、術野の視認を妨げる危険性が高いため、このステップは必ず最後に行うことが推奨されています。
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この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に対する有用な外科的療法を検討するため、レントゲン検査(Radiography)および内視鏡検査(Endoscopy)によって、副鼻腔炎(Paranasal sinusitis)、副鼻腔嚢包(Paranasal cyst)、篩骨血腫(Ethmoid hematoma)等の推定診断(Presumptive diagnosis)が下され、サイズの大きな前頭副鼻腔の骨フラップ術(Large frontonasal bone flap)による治療が応用された14頭の患馬における、医療記録(Medical records)の解析が行われました。
この研究の術式では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、コの字型に前頭副鼻腔の骨フラップが形成されました。この際、コの字の尾側縁(Caudal margin)は、眼窩上孔(Supraorbital foramen)と内側眼角(Medial canthus)の中間点に設けられ、コの字の外側縁(Lateral margin)は、内側眼角から内側へ2.0~2.5cmの位置から始め、眼窩下孔(Infraorbital foramen)と内側眼角のあいだの距離の三分の二の箇所まで進められました。そして、鼻涙管(Nasolacrimal duct)を損傷しないよう外側縁を正中線に向かって曲げながら、出来るだけフラップの幅を広くするようにして、コの字の吻側縁(Rostral margin)は、この外側縁の最下点から背側正中線へと直角を成す位置に設けられました(最終的には幅が約8cmで長さが約10cmのフラップ)。そして、振動骨鋸(Oscillating bone saw)および骨蚤(Osteotome)を用いて、コの字型に前頭骨を切除してから、この骨フラップを正中側に折り曲げることで副鼻腔へのアプローチ、および病巣清掃(Debridement)が行われました。その後、病巣の拡大度合いに応じて、前頭副鼻腔の床部分(Floor of frontonasal sinus)および背側鼻道(Dorsal conchal sinus)への隔壁を穿孔することで、充分な外科的アプローチまたは排液路(Drainage tract)が確保されました。そして、副鼻腔内にガーゼを詰めてから、コの字型の骨板の角にドリル孔を開けて、骨フラップをワイヤー固定した後、皮膚切開創(Skin incision)が縫合閉鎖されました。
結果としては、14頭の患馬のうち、胸膜肺炎(Pleural pneumonia)もしくは一次性疾患(Primary disorders)が原因で安楽死(Euthanasia)となった馬は四頭で、残りの十頭では、術部の外観的損失(Cosmetic blemish)を伴うことなく、原因病の再発(Recurrence)もなく良好な予後を示し、意図した用途への使役に復帰(Returned to intended use)したことが報告されています。このため、馬の副鼻腔疾患に対しては、前頭副鼻腔の骨フラップを介して、充分な罹患部位の治癒が達成され、運動および競技への復帰を果たす馬の割合が、比較的に高い(意図した用途への復帰率:71%)ことが示唆されました。
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