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馬の文献:副鼻腔炎(Tremaine et al. 2001a)

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「副鼻腔疾患を呈した277頭の馬の長期調査。パート1:症例馬の詳細、病歴、臨床症状、補助的診断所見」
Tremaine WH, Dixon PM. A long-term study of 277 cases of equine sinonasal disease. Part 1: details of horses, historical, clinical and ancillary diagnostic findings. Equine Vet J. 2001; 33(3): 274-282.

この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)の病態把握のため、1984~1996年にかけて、副鼻腔疾患を呈した277頭の患馬における、症例馬の詳細(Details of horses)、病歴(History)、臨床症状(Clinical signs)、補助的診断所見(Ancillary diagnostic findings)などの解析が行われました。

この研究では、277頭の副鼻腔疾患の罹患馬における、原発疾患(Primary disorders)の内訳を見ると、一次性副鼻腔炎(Primary sinusitis)が24%と最も多く、次いで、歯科疾患に伴う副鼻腔炎(Dental sinusitis)が22%、副鼻腔嚢胞(Sinus cyst)が13%、鼻腔副鼻腔腫瘍(Sinonasal neoplasia)が8%、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoid hematoma)が8%、鼻腔副鼻腔損傷(Sinonasal trauma)が6%、鼻腔副鼻腔真菌症(Sinonasal mycosis)が5%、吻側上顎副鼻腔の臼歯感染(Rostral maxillary cheek tooth infection)が4%、鼻腔副鼻腔ポリープ(Sinonasal polyps)が3%、鼻腔上皮性封入嚢胞(Nasal epidermal inclusion cysts)が3%となっていました。

一般的に、馬の副鼻腔疾患では、今回の研究と同様に、一次性副鼻腔炎および歯科疾患に伴う二次性副鼻腔炎(Secondary sinusitis)が最も頻繁に見られるという知見が示されている反面(Gibbs et al. EVJ. 1987;19:474)、外傷等に起因する鼻腔副鼻腔損傷の占める割合が一番高いという症例報告もあります(Boulton et al. J Eq Vet Sci. 1985;5:268)。また、副鼻腔炎だけの原因を見ると、今回の研究では歯科疾患が半分以下でしたが、他の文献では、馬の副鼻腔炎の六割が歯科疾患から続発して発症した、という報告もなされています(Van der Velden et al. Tijdschr Dergeneesek. 1984;109:793)。

この研究では、副鼻腔疾患の臨床症状としては、鼻汁排出(Nasal discharge)を呈した馬が88%と最も多く、顔面腫脹(Facial swelling)を呈した馬は46%にとどまりました。また、副鼻腔嚢胞と鼻腔副鼻腔腫瘍の罹患馬では、他の種類の疾患に比べて、鼻腔および顔面骨の肉眼的変形(Gross distortion of the nasal passages and facial bones)が見られる割合が、有意に高かった事が示されました。一方、277頭の副鼻腔疾患の罹患馬における、病歴の長さは三日間~六年間まで様々でしたが、病歴の中央値(Median)は十二週間で、多くの症例が慢性経過(Chronic progression)を示していた事が報告されています。

この研究では、鼻出血(Epistaxis)を呈した馬の割合は、進行性篩骨血腫では95%、鼻腔副鼻腔損傷では65%に上っていたのに対して、一次性副鼻腔炎では10%、副鼻腔嚢胞では11%、鼻腔副鼻腔腫瘍では22%に留まりました。一方、膿性または粘液膿性の鼻汁排出(Purulent or mucopurulent nasal discharge)を呈した馬の割合は、歯科疾患に伴う副鼻腔炎では100%、一次性副鼻腔炎では97%、鼻腔副鼻腔真菌症では89%、副鼻腔嚢胞では75%、鼻腔副鼻腔腫瘍では72%に上っていたのに対して、進行性篩骨血腫では24%、鼻腔副鼻腔損傷では27%に留まりました。さらに、悪臭性の鼻汁排出(Malodorous nasal discharge)を呈した馬の割合は、歯科疾患に伴う副鼻腔炎では77%、鼻腔副鼻腔真菌症では67%に上っていたのに対して、一次性副鼻腔炎では44%、副鼻腔嚢胞では19%、鼻腔副鼻腔腫瘍では15%、進行性篩骨血腫では5%に留まりました。

この研究では、顔面排膿孔(Discharging facial tract)が見られた症例は稀でしたが、歯科疾患に伴う副鼻腔炎では、7%の馬がこの症状を示していました。また、鼻涙管の閉塞(Obstruction of nasolacrimal duct)を続発した場合に起こりうる、流涙症(Epiphora)が見られた症例の割合は、副鼻腔嚢胞では42%、歯科疾患に伴う副鼻腔炎では34%に上っていたのに対して、鼻腔副鼻腔腫瘍では24%、一次性副鼻腔炎では20%、進行性篩骨血腫では5%に留まりました。一方、下顎リンパ節腫脹(Submandibular lymph node swelling)を呈した馬の割合は、鼻腔副鼻腔腫瘍では78%、一次性副鼻腔炎では68%、歯科疾患に伴う副鼻腔炎では66%、鼻腔副鼻腔真菌症では50%に上っていたのに対して、副鼻腔嚢胞では23%、進行性篩骨血腫では22%に留まりました。

この研究では、副鼻腔疾患の診断法としては、内視鏡検査(Endoscopy)が実施された馬では、その91%において異常所見が見られたものの、正確な診断(Exact diagnosis)に寄与したのは20%の症例に留まりました。また、レントゲン検査(Radiography)が実施された馬では、その81%で異常所見が見られたものの、診断に“有用”(Useful)であったのは36%の症例に留まりました。このため、馬の副鼻腔疾患においては、内視鏡検査およびレントゲン検査によって確定診断(Definitive diagnosis)が可能な症例は、必ずしも多くない事が示唆されました。一方、副鼻腔鏡検査(Sinoscopy)が行われた61頭では、診断に有用であったのは70%の症例に上っており、信頼性の高い診断法(Reliable diagnostic modality)の一つであると見なせる、という考察がなされています。

この研究では、一次性副鼻腔炎の罹患馬のうち、三頭がクッシング病(Cushing’s disease)(下垂体中葉機能異常:Pituitary pars intermedia dysfunction)を呈しており、また、他の二頭は、長時間にわたる経鼻腔的なチューブ挿入が実施されていました。そして、これらが発症素因(Predisposing factors)として、感染症への抵抗力の低下や、鼻腔粘膜の損傷などを招いて、副鼻腔炎に至った可能性もあると推測されています。また、今回の研究における一次性副鼻腔炎の好発年齢は六歳で、他の文献において、四~七歳の馬に一次性副鼻腔炎が好発したという知見とも合致していました(Mason et al. JAVMA. 1975;167:727, Boulton et al. J Eq Vet Sci. 1985;5:268)。一方、一次性副鼻腔炎においては、鼻腔および顔面骨の変形は殆ど起こらないという知見がありますが(Coumbe et al. EVJ. 1987;19:559, Schumacher et al. Vet Surg. 1987;16:373)、今回の研究では、やや相反する結果(Slightly conflicting result)が示され、一次性副鼻腔炎の罹患馬のうち24%において、顔面腫脹が認められた事が報告されています。

この研究では、歯科疾患に伴う副鼻腔炎における、特徴的なレントゲン所見としては、歯根部の放射線透過性(Radiolucency of dental apices)、歯槽周囲の放射線透過性および硬化症(Radiolucency and peripheral sclerosis of the surrounding alveolar bone)、歯周組織の幅の広がり(Widening of the periodontal space)、歯槽硬線(Lamina dura denta)の不規則性および明瞭さの損失(Irregularity or loss of definition)、等が含まれました。そして、レントゲン検査を介して、歯科疾患に伴う副鼻腔炎の確定診断が下された馬は、57%に留まったのに対して、吻側上顎副鼻腔の臼歯感染の確定診断が下された馬は、91%に上っていました。

この研究では、歯科疾患に伴う副鼻腔炎の罹患馬のうち、第四臼歯(第一後臼歯)の異常が原因であった場合が約半数を占めており、これは他の文献の知見とも合致していました(Prichard et al. Vet Surg. 1992;21:145)。また、今回の研究では、歯科疾患に伴う副鼻腔炎の四割強において、レントゲン像上での異常所見が認められず、手術時に歯根部を視診することで、初めて歯科疾患の存在が確認された場合も多かった事が報告されています。

この研究では、副鼻腔嚢胞における特徴的なレントゲン所見としては、副鼻腔内の同種性軟部組織系密度の構造物(Homogenous soft tissue density structures)が挙げられ、前頭および上顎副鼻腔骨の菲薄化および脱石灰化(Thinning and demineralization of the overlying frontal and maxillary bones)に伴う変形が認められた症例もありました。そして、副鼻腔嚢胞のレントゲン検査では、97%の症例において骨性変化(Bony changes)が認められたものの、レントゲン検査を介して確定診断が下された馬は、35%に留まりました。

一般的に、馬の副鼻腔嚢胞では、一歳以下の若齢馬と九歳以上の中齢馬に好発するという知見がありますが(Lane et al. EVJ. 1987;19:534)、今回の研究では、このような好発年齢の傾向は認められませんでした。また、副鼻腔嚢胞の罹患馬に多く見られる顔面骨の変形は、嚢胞周囲の骨が薄くなる事と、嚢胞そのものが拡張する事に起因するという考察がなされている反面(Caron et al. Equine Medicine and Surgery, 4th ed. 1991:386)、嚢胞周囲の骨が肥厚化(Thickening)することで顔面腫脹に至るという知見も示されています(Lane et al. EVJ. 1987;19:534)。馬の副鼻腔嚢胞は、尾側上顎副鼻腔(Caudal maxillary sinus)に最も多く発生することが知られており、その病態は、膿瘍形成(Abscess formation)が進行して嚢胞に至るケースが多い、という潜在的病因論(Potential etiology)が指摘されています(Tremaine et al. EVJ. 1999;31:296)。

この研究では、鼻腔副鼻腔腫瘍における特徴的なレントゲン所見としては、前頭骨および上顎骨の拡張または変形(Expansion and of frontal and maxillary bones)が挙げられ、上顎臼歯および鼻中隔の変位(Displacement of the maxillary cheek teeth and of the nasal septum)が見られた症例もありました。そして、レントゲン像上での異常所見が見られた馬は82%に上っていましたが、病歴と症状にレントゲン所見を加味して確定診断が下された馬は、23%に留まりました。

この研究では、馬の鼻腔腫瘍における症状やレントゲン所見は、副鼻腔嚢胞と類似しており、信頼性のある術前診断が困難なケースも多い、という知見が示されています。一方、馬の進行性篩骨血腫では、内視鏡下で特徴的な血腫形成を視認することで、確定診断を下せる症例が殆どである事が知られており、今回の研究でも、篩骨血腫の診断は殆どが内視鏡所見に基づいて下されており、レントゲン像上での血腫の発見は、それほど信頼性が高くなかった事が報告されています。また、今回の研究における篩骨血腫の罹患馬のうち、過去の文献(Specht et al. JAVMA. 1990;197:613)で示されているような重度の呼吸困難(Severe dyspnoea)を呈した馬は二頭で、他の文献(Greet et al. EVJ. 1992;24:468)で示されている二次性の真菌感染(Secondary mycotic infections)を呈した馬は二頭であった事が報告されています。

この研究では、鼻腔副鼻腔損傷におけるレントゲン検査では、顔面骨の骨折(Facial bone fractures)が認められる症例もあったものの、軟部組織腫脹(Soft tissue swelling)や液体陰影(Fluid shadow)の存在によって、骨折線の確認(Confirmation of fracture lines)が困難な場合も多かった事が報告されています。そして、症例の全頭においてレントゲン像上での異常所見が見られ、病歴と症状にレントゲン所見を加味して確定診断が下された馬は、65%に上っていました。

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