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馬の文献:副鼻腔炎(Tremaine et al. 2001b)

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「副鼻腔疾患を呈した277頭の馬の長期調査。パート2:治療法と治療成績」
Tremaine WH, Dixon PM. A long-term study of 277 cases of equine sinonasal disease. Part 2: treatments and results of treatments. Equine Vet J. 2001; 33(3): 283-289.

この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に対する診療法の検討のため、1984~1996年にかけて、副鼻腔疾患を呈した277頭の患馬における、治療法および治療成績(Treatments and results of treatments)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究では、一次性副鼻腔炎(Primary sinusitis)の罹患馬に対して、全身性の抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)による初期治療の後、円鋸術(Trephination)によって挿入した留置カテーテル(Indwelling catheter)を介した、前頭副鼻腔(Frontal sinus)または吻側上顎副鼻腔(Rostral maxillary sinus)の消毒剤洗浄(Sinus lavage with povidine-iodine or chlorhexidine)(一日二回)が行われ、慢性経過(Chronic progression)を示した症例には、骨フラップ術(Bone flap)による副鼻腔切開術(Sinusotomy)を介した、浸出物除去(Removal of exudate)、病巣清掃術(Debridement)、鼻腔域への排液路形成(Sinonasal fistulation)、等が実施されました。結果としては、一次性副鼻腔炎の罹患馬では、生存率は91%(41/45頭)で、治癒率(症状が完治した馬の割合)は84%(38/45頭)であった事が示されました。このうち、副鼻腔切開術を要した馬は32%に及び、これらの手術では、被包された膿瘍(Encapsulated abscess)や、ポリープ様の肥厚性粘膜(Polyp-like hyperplastic mucosa)が認められ、これらの病巣形態が、抗生物質療法および副鼻腔洗浄療法に対して、不応性(Refractory)を示した一つの要因であったと考えられました。

一般的に、馬の一次性副鼻腔炎では、二ヶ月以上の慢性経過を呈した症例では、抗生物質療法に難治性を示す場合が多いことが知られており(Formston et al. EVJ. 1987;19:276)、今回の研究でも、多くの症例が紹介獣医師(Referring veterinarians)の初期治療に不応性を示して、来院してきた事が報告されています。また、これらの慢性症例は、副鼻腔洗浄や副鼻腔切開術が応用された後にも、充分な治療効果が期待しにくい事が示されており、今回の研究においても、複数回の治療を要した馬は六割近くに達していました。この要因としては、上顎副鼻腔から鼻腔への排液路(Nosomaxillary drainage)の形成が達成できず、副鼻腔組織からの浸出液の排出が十分ではなかったり、肥厚した副鼻腔粘膜(時には厚さ15mmに達する)の除去が不十分であった時には、排液孔の閉鎖につながった可能性も指摘されています。一方で、適切な排液孔が設けられた症例においても、粘膜絨毛運動(Mucus ciliary action)によって粘液が逆方向に押し流される現象が見られて、治癒遅延に至る場合もある、という知見も示されています(Wagenmann et al. J Allergy Clin Immunol. 1992;90:419)。

この研究では、歯科疾患に伴う二次性副鼻腔炎(Dental sinusitis)の罹患馬に対して、原因となっている臼歯の抜歯(Tooth repulsion)、歯槽骨の掻爬(Alveolar bone currettage)、歯槽への歯科ワックスまたはアクリル製骨セメントの充填(Alveolus packing with dental wax or acrylic bone cement)、副鼻腔切開術を介した病巣清掃術と鼻腔域への排液路形成、等が実施されました。結果としては、歯科疾患に伴う二次性副鼻腔炎の罹患馬では、生存率は92%(46/50頭)で、治癒率は78%(39/50頭)であった事が示されました。また、二次性副鼻腔炎の罹患馬の70%においては、病巣清掃や抜歯のため、複数回の手術を要した事が報告されています。さらに、二次性副鼻腔炎の罹患馬のうち25%では、初診時には歯科疾患が診断できず、一次性副鼻腔炎として治療開始されており、その殆どが初期治療に不応性を示していた事から、原発病態である歯科疾患を早期発見することの重要性を、再確認するデータが示されたと言えます。

一般的に、馬の臼歯の抜歯術および摘出術では、長期間にわたって合併症を続発する危険性が高いことが知られており(Lane et al. Proc World Equine Veterinary Dental Congress. 1997:135)、他の文献では、臼歯が抜歯&除去された馬の三割が、再手術を要したという知見もあります(Prichard et al. Vet Surg. 1992;21:145)。そして、今回の研究でも、歯科疾患に伴う二次性副鼻腔炎のうち、四割以上が再手術を要しており、そのうち、更に三割が複数回の副鼻腔洗浄および抗生物質療法を要した事が報告されています。このような合併症への対処法としては、円鋸術や骨フラップを介することなく口腔側から抜歯したり、歯槽を充填する処置を施すことで、合併症の発生率を抑えられるという提唱がなされています(Tremaine et al. Proc World Equine Veterinary Dental Congress. 1997:139, Dixon et al. Proc World Equine Veterinary Dental Congress. 1997:147)。

この研究では、副鼻腔嚢胞(Sinus cyst)の罹患馬に対して、骨フラップ術による副鼻腔切開術を介した、嚢胞の外科的切除(Surgical removal)、病巣清掃術、鼻腔域への排液路形成、等が実施されました。結果としては、生存率は96%(27/28頭)で、治癒率は82%(23/28頭)であった事が示されました。そして、術後合併症(Post-operative complications)としては、三頭が皮膚切開創からの排液(Incisional drainage)、一頭が自損性の同側鼻腔外傷(Self-inflicted ipsilateral nasal trauma)を示しましたが、嚢胞の再発(Recurrence)を呈した馬は一頭もありませんでした。

一般的に、馬の副鼻腔嚢胞では、単に嚢胞を穿刺(Cyst puncture)して中身を排液するだけで、充分な治療効果が期待できるという報告がなされている反面(Cannon et al. JAVMA. 1976;169:610, Dixon et al. Equine Pract. 1985;7:25)、病巣の完治のためには、副鼻腔切開術を介しての嚢胞組織の除去、および鼻腔排液路の形成を推奨する文献もあります(O’Connor et al. Dollar’s Veterinary Surgery, 2nd eds. 1930:222)。一方、他の文献では、内視鏡手術を介して、嚢胞の内容物の吸引や病巣清掃を施す術式も試みられていますが(Ruggles et al. Vet Surg. 1993;22:508)、今回の研究のように、骨フラップによる副鼻腔切開術を応用することで、最大限の領域の視認および外科的アプローチが可能となり、より良好な病巣除去が達成できる、という考察がなされています。

この研究では、鼻腔副鼻腔腫瘍(Sinonasal neoplasia)の罹患馬に対して、骨フラップ術による副鼻腔切開術を介した、腫瘍病変の外科的切除、病巣清掃術、鼻腔域への排液路形成、等が治療の選択肢(Choices of treatments)とされました。しかし、九頭の腫瘍では、そのサイズおよび拡散度合いから、切除不可能と判断され安楽死(Euthanasia)が選択され、七頭の癌腫(Carcinoma)の罹患馬では、全頭が腫瘍の再発を示して安楽死となりました。一方、六頭の良性腫瘍(Benign tumor)の罹患馬では、全頭が生存したものの、病巣が完治したのは一頭のみで、他の五頭では(リンパ腫、腺腫、線維腫、骨腫瘍、黒色腫)、腫瘍の再発が見られ、再治療を要したことが報告されています。そして、全症例の結果としては、生存率は23%(5/22頭)で、治癒率は18%(4/22頭)であった事が示されました。過去の文献においても、馬の鼻腔副鼻腔内における腫瘍は、その侵襲性(Invasiveness)の高さや辺縁切除の難しさ(Limitations on the margin of excision)から、効果的な治療が困難で、安楽死となるケースが非常に多いことが報告されています(Hance et al. Vet Clin N Am Eq Pract. 1993;9:213, Head et al. Vet J. 1999;157:261)。

この研究では、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoid hematoma)の罹患馬に対して、骨フラップ術による副鼻腔切開術を介した、血腫の外科的切除、病巣清掃術、鼻腔域への排液路形成、等が実施され、サイズの小さい血腫(直径が10cm未満)では、ホルマリンの病巣内注射(Intra-lesional formalin injection)が応用された症例もありました。結果としては、生存率は72%(13/18頭)で、治癒率は33%(6/18頭)であった事が示され、篩骨血腫の再発率の高さを物語るデータが示されました。他の文献では、ネオジウム・ヤグ・レーザー焼烙(Nd-YAG laser ablation)を応用することで、篩骨血腫の再発率を一割以下に抑える事ができるという知見もあります(Tulleners et al. EVJ. 1999;31:296, Schmacher et al. Vet Surg. 1998;27:175)。

この研究では、鼻腔副鼻腔損傷(Sinonasal trauma)の罹患馬に対して、骨折片変位(Fracture fragment displacement)が認められない場合には馬房休養(Stall rest)による保存性療法(Conservative treatment)、骨折片が変位していた場合には陥没骨片の挙上(Elevation of depressed fragments)とワイヤー固定術(Wire fixation)、または副鼻腔切開術を介した骨片除去、等が実施され、症例によっては、眼球摘出(Enucleation)、抜歯(Dental extraction)、副鼻腔洗浄(Sinus lavage)などが併用されました。結果としては、生存率は92%(11/12頭)で、治癒率は75%(9/12頭)であった事が示されました。他の文献では、持続性鼻出血(Prolonged epistaxis)(時には発症から四週間以上に及ぶケースもある)を示すような鼻腔副鼻腔損傷の罹患馬では、初診の獣医師が篩骨血腫であるという誤診を下してしまう危険性も指摘されており、また、骨折箇所によっては、縫合線骨膜炎(Suture periostitis)を併発する症例もある事が報告されています(Dixon et al. Equine Respiratory Endoscopy. 1993:14, Tietje et al. Vet Surg. 1996;28:98)。

この研究では、鼻腔副鼻腔真菌症(Sinonasal mycosis)の罹患馬に対して、内視鏡を介した真菌プラークの除去(Transendoscopic removal of mycotic plaques)、抗真菌剤(Antifungal agents)による副鼻腔洗浄、等が実施されました。結果としては、生存率は100%(12/12頭)で、治癒率は92%(11/12頭)であった事が示されました。今回の研究では、局所使用(Local administration)された抗真菌剤としては、Natamycinが選択されており、他の文献においても、Natamycinパウダーの塗布によって、馬の鼻腔アスペルギウス症(Nasal aspergillosis)への良好な治療効果が立証されています(Greet et al. Vet Rec. 1981;109:487)。また、アスペルギウス属真菌に対するNatamycinの効能は、体外実験(In vitro experiments)および人間への臨床応用によって立証されています(Coad et al. AJVR. 1985;46:676, Hellquist et al. Pathology of the Nose and Paranasal Sinuses, 1st eds. 1990:33)。

この研究では、吻側上顎副鼻腔の臼歯感染(Rostral maxillary cheek tooth infection)の罹患馬に対して、原因となっている臼歯の抜歯、歯槽骨の掻爬、歯槽への歯科ワックスまたはアクリル製骨セメントの充填、等が実施されました。結果としては、生存率は90%(9/10頭)で、治癒率は70%(7/10頭)であった事が示されました。

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