馬の文献:副鼻腔炎(Woodford et al. 2006)
文献 - 2020年05月07日 (木)
「副鼻腔嚢胞を呈した52頭の患馬の長期的回顧的調査」
Woodford NS, Lane JG. Long-term retrospective study of 52 horses with sinunasal cysts. Equine Vet J. 2006; 38(3): 198-202.
この研究論文では、馬の副鼻腔嚢胞(Sinunasal cysts)の病態把握、および、有用な外科的療法を検討するため、1982~2005年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)およびレントゲン検査(Radiography)によって副鼻腔嚢胞の診断が下され、骨フラップ術(Bone flapsurgery)を介しての嚢胞切除(Cyst removal)および病巣清掃(Debridement)による治療が応用された52頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。
結果としては、骨フラップによる嚢胞切除術が応用された48頭の患馬のうち、症状の完治(Complete resolution)が見られた馬は94%(45/48頭)で、経過追跡(Follow-up)のできた45頭の患馬のうち、良好または満足できる美容的外観(Cosmetic appearance)の維持が達成された馬は、87%(39/45頭)であった事が報告されています。このため、副鼻腔嚢胞の罹患馬に対しては、骨フラップ術を介した嚢胞切除および病巣清掃によって、充分な罹患部治癒が達成され、良好~素晴らしい予後(Good to excellent prognosis)が期待できることが示唆されました。また、過去の文献では、副鼻腔嚢胞の罹患馬において、外科的療法が奏功した馬の割合は、67%もしくは82%であったと報告されており(Lane et al. EVJ. 1987;19:537, Tremaine and Dixon. EVJ. 2001;33:283)、今回の研究の術式によって、明らかな治療効果の向上(Improved efficacy)が示された、という考察がなされています。
この研究では、副鼻腔嚢胞の臨床症状(Clinical signs)としては、顔面腫脹(Facial swelling)を呈した馬が83%、粘液膿性鼻汁排出(Mucopurulent nasal discharge)を呈した馬が67%、鼻腔気流閉塞(Nasal airflow obstruction)を呈した馬が50%、異常呼吸器雑音(Abnormal respiratory noise)を呈した馬が50%、目ヤニ(Ocular discharge)を呈した馬が38%、等となっていました。しかし、これらの症状は、原発性の副鼻腔蓄膿症(Primary sinus empyema)、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoid hematoma)、鼻腔副鼻腔腫瘍(Sinonasal neoplasia)においても見られ、副鼻腔嚢胞に特異的なものではないと考察されています。
この研究では、内視鏡検査では、鼻腔内に嚢胞そのものが視認できた馬は25%で(上写真では、Aが鼻中隔、Bが背側鼻道、Cが嚢胞、Dが腹側鼻道)、この以外にも、鼻腔管狭窄(Narrowed nasal meati)が認められた馬も37%でしたが、内視鏡下では特に異常が認められなかった馬も37%に上っていました。一方、円鋸孔(Trephination hole)からカメラを挿入しての、直接的な副鼻腔鏡検査(Direct sinus endoscopy)が実施された九頭の患馬では、その全頭において嚢胞そのものが発見できた事が報告されており、副鼻腔嚢胞が疑われる症例に対して、診断法の一つの選択肢(Choice of diagnostic modality)になりうると考えられました。
この研究では、レントゲン検査所見としては、副鼻腔領域での不明瞭腫瘤(Discrete mass in the sinunasal region)を呈した馬が79%、液体線(Fluid line)を呈した馬が21%、鼻中隔変位(Nasal septal deviation)を呈した馬が19%、等となっており、また、副鼻腔内の拡散性混濁上昇(Diffuse increase in opacity)、腹側鼻道の拡張(Expansion of the ventral conchal sinus)、歯根の歪み(Distortion of dental apices)、等が認められました症例もありました。このため、副鼻腔嚢胞が疑われる症例においては、レントゲン検査による推定診断(Presumptive diagnosis)が可能な場合も多いと推測されていますが、病変のサイズや拡散度合いを確かめたり、正確な外科的アプローチ法を術前判断するためには、CT検査やMRI検査の有用性が評価される必要もあると推測されます。
一般的に、馬の副鼻腔嚢胞では、歯根異常(Tooth root abnormalities)がその発症に関与しているという知見も示されています(Leyland and Baker. Br Vet J. 1975;131:339. Boulton. J Eq Vet Sci. 1985;5:268)。しかし、今回の研究で認められた歯根の歪みは、肥大してきた嚢胞からの圧迫(Pressure by enlarged cyst)によって生じたと推測されており、つまり、歯根部に生じた異常が嚢胞を引き起こしたのではなく、嚢胞形成(Cyst formation)が先に起こり、その結果として歯根部の異常が誘導された、という相反する病因論(Conflicting pathoetiology)が提唱されています。
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結果としては、骨フラップによる嚢胞切除術が応用された48頭の患馬のうち、症状の完治(Complete resolution)が見られた馬は94%(45/48頭)で、経過追跡(Follow-up)のできた45頭の患馬のうち、良好または満足できる美容的外観(Cosmetic appearance)の維持が達成された馬は、87%(39/45頭)であった事が報告されています。このため、副鼻腔嚢胞の罹患馬に対しては、骨フラップ術を介した嚢胞切除および病巣清掃によって、充分な罹患部治癒が達成され、良好~素晴らしい予後(Good to excellent prognosis)が期待できることが示唆されました。また、過去の文献では、副鼻腔嚢胞の罹患馬において、外科的療法が奏功した馬の割合は、67%もしくは82%であったと報告されており(Lane et al. EVJ. 1987;19:537, Tremaine and Dixon. EVJ. 2001;33:283)、今回の研究の術式によって、明らかな治療効果の向上(Improved efficacy)が示された、という考察がなされています。
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この研究では、内視鏡検査では、鼻腔内に嚢胞そのものが視認できた馬は25%で(上写真では、Aが鼻中隔、Bが背側鼻道、Cが嚢胞、Dが腹側鼻道)、この以外にも、鼻腔管狭窄(Narrowed nasal meati)が認められた馬も37%でしたが、内視鏡下では特に異常が認められなかった馬も37%に上っていました。一方、円鋸孔(Trephination hole)からカメラを挿入しての、直接的な副鼻腔鏡検査(Direct sinus endoscopy)が実施された九頭の患馬では、その全頭において嚢胞そのものが発見できた事が報告されており、副鼻腔嚢胞が疑われる症例に対して、診断法の一つの選択肢(Choice of diagnostic modality)になりうると考えられました。
この研究では、レントゲン検査所見としては、副鼻腔領域での不明瞭腫瘤(Discrete mass in the sinunasal region)を呈した馬が79%、液体線(Fluid line)を呈した馬が21%、鼻中隔変位(Nasal septal deviation)を呈した馬が19%、等となっており、また、副鼻腔内の拡散性混濁上昇(Diffuse increase in opacity)、腹側鼻道の拡張(Expansion of the ventral conchal sinus)、歯根の歪み(Distortion of dental apices)、等が認められました症例もありました。このため、副鼻腔嚢胞が疑われる症例においては、レントゲン検査による推定診断(Presumptive diagnosis)が可能な場合も多いと推測されていますが、病変のサイズや拡散度合いを確かめたり、正確な外科的アプローチ法を術前判断するためには、CT検査やMRI検査の有用性が評価される必要もあると推測されます。
一般的に、馬の副鼻腔嚢胞では、歯根異常(Tooth root abnormalities)がその発症に関与しているという知見も示されています(Leyland and Baker. Br Vet J. 1975;131:339. Boulton. J Eq Vet Sci. 1985;5:268)。しかし、今回の研究で認められた歯根の歪みは、肥大してきた嚢胞からの圧迫(Pressure by enlarged cyst)によって生じたと推測されており、つまり、歯根部に生じた異常が嚢胞を引き起こしたのではなく、嚢胞形成(Cyst formation)が先に起こり、その結果として歯根部の異常が誘導された、という相反する病因論(Conflicting pathoetiology)が提唱されています。
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