馬の文献:副鼻腔炎(Barakzai et al. 2006)
文献 - 2020年05月09日 (土)
「核医学検査による馬の副鼻腔疾患の診断」
Barakzai S, Tremaine H, Dixon P. Use of scintigraphy for diagnosis of equine paranasal sinus disorders. Vet Surg. 2006; 35(1): 94-101.
この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に有用な診断法を検討するため、48頭の副鼻腔疾患の罹患馬、および、30頭の跛行(Lameness)の症例(対照馬)における、核医学検査(Nuclear scintigraphy)の頭部画像の比較が行われました。
結果としては、一次性副鼻腔炎(Primary sinusitis)の六割において、中程度~重度の限局性の放射性核種取り込みの増加(Moderate or marked increased radionuclide uptake)と、罹患側の副鼻腔における拡散性の放射性核種取り込みの増加(Diffuse increased radionuclide uptake)が認められました。また、罹患側の副鼻腔では、正常側の副鼻腔に比べて、対象領域(Regions of interest)におけるピクセル数が有意に多かった事が示されました。このため、副鼻腔疾患の罹患馬に対しては、核医学検査による診断、および、罹患側の推定が可能であることが示唆されました。
この研究では、核医学検査における副鼻腔疾患の診断では、79%の感度(Sensitivity)、92%の特異度(Specificity)が示され、測定一致度の指標であるカッパ係数(Kappa statistics)が0.66であった事が報告されています。一方、レントゲン検査における副鼻腔疾患の診断では、85%の感度、79%の特異度が示され、カッパ係数が0.62であった事が報告されています。このため、副鼻腔疾患が疑われる馬に対する核医学検査では、レントゲン検査に比べて、副鼻腔疾患を見落としてしまう確率はやや高い(偽陰性:21%)ものの、副鼻腔疾患であると誤診されてしまう確率はかなり低く抑えられる(偽陽性:8%)ことが示唆されました。
この研究の限界点(Limitation)としては、臨床症状に基づいて下された診断を、“最も基準になる診断法”(ゴールド・スタンダード:Gold standard)と見なしている事が挙げられ、つまり、症状のみからは発見が困難な軽度の病態、または、不症候性(Asymptomatic)の副鼻腔疾患において、核医学検査によるスクリーニングが可能であるのか否かを、直接的に検討する研究デザインにはなっていませんでした。このため、今後の研究では、頭部のCT検査などの信頼性の極めて高い画像診断法をゴールド・スタンダードにすることで、核医学検査およびレントゲン検査の診断能を、より正確に比較する必要があると考えられました。
この研究では、四頭の副鼻腔嚢胞(Sinus cyst)の罹患馬のうち三頭において、嚢胞組織の辺縁(Margins of cystic tissue)における放射性核種取り込みの増加が認められましたが、これらの症例のうち、レントゲン検査によって副鼻腔嚢胞の推定診断が下されたのは二頭のみでした。また、三頭の骨折&腐骨(Bone sequestra and fracture)の罹患馬のうち全頭において、重度の限局性放射性核種取り込みの増加が認められましたが、これらの症例のうち、レントゲン検査によって骨折&腐骨が診断できた馬は一頭もありませんでした。このため、馬の頭部への核医学検査は、副鼻腔嚢胞や骨折&腐骨の診断にも有用である可能性が示唆されましたが、今回の研究では、レントゲン検査による推定診断が困難であった場合に核医学検査に回されることが多かったという、診断法の選択に関する偏向(Bias)が生じたことは否定できないため、これらの疾患に対する核医学検査の診断能を確証的に検討することは出来ませんでした。
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馬の病気:副鼻腔炎


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この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に有用な診断法を検討するため、48頭の副鼻腔疾患の罹患馬、および、30頭の跛行(Lameness)の症例(対照馬)における、核医学検査(Nuclear scintigraphy)の頭部画像の比較が行われました。
結果としては、一次性副鼻腔炎(Primary sinusitis)の六割において、中程度~重度の限局性の放射性核種取り込みの増加(Moderate or marked increased radionuclide uptake)と、罹患側の副鼻腔における拡散性の放射性核種取り込みの増加(Diffuse increased radionuclide uptake)が認められました。また、罹患側の副鼻腔では、正常側の副鼻腔に比べて、対象領域(Regions of interest)におけるピクセル数が有意に多かった事が示されました。このため、副鼻腔疾患の罹患馬に対しては、核医学検査による診断、および、罹患側の推定が可能であることが示唆されました。
この研究では、核医学検査における副鼻腔疾患の診断では、79%の感度(Sensitivity)、92%の特異度(Specificity)が示され、測定一致度の指標であるカッパ係数(Kappa statistics)が0.66であった事が報告されています。一方、レントゲン検査における副鼻腔疾患の診断では、85%の感度、79%の特異度が示され、カッパ係数が0.62であった事が報告されています。このため、副鼻腔疾患が疑われる馬に対する核医学検査では、レントゲン検査に比べて、副鼻腔疾患を見落としてしまう確率はやや高い(偽陰性:21%)ものの、副鼻腔疾患であると誤診されてしまう確率はかなり低く抑えられる(偽陽性:8%)ことが示唆されました。
この研究の限界点(Limitation)としては、臨床症状に基づいて下された診断を、“最も基準になる診断法”(ゴールド・スタンダード:Gold standard)と見なしている事が挙げられ、つまり、症状のみからは発見が困難な軽度の病態、または、不症候性(Asymptomatic)の副鼻腔疾患において、核医学検査によるスクリーニングが可能であるのか否かを、直接的に検討する研究デザインにはなっていませんでした。このため、今後の研究では、頭部のCT検査などの信頼性の極めて高い画像診断法をゴールド・スタンダードにすることで、核医学検査およびレントゲン検査の診断能を、より正確に比較する必要があると考えられました。
この研究では、四頭の副鼻腔嚢胞(Sinus cyst)の罹患馬のうち三頭において、嚢胞組織の辺縁(Margins of cystic tissue)における放射性核種取り込みの増加が認められましたが、これらの症例のうち、レントゲン検査によって副鼻腔嚢胞の推定診断が下されたのは二頭のみでした。また、三頭の骨折&腐骨(Bone sequestra and fracture)の罹患馬のうち全頭において、重度の限局性放射性核種取り込みの増加が認められましたが、これらの症例のうち、レントゲン検査によって骨折&腐骨が診断できた馬は一頭もありませんでした。このため、馬の頭部への核医学検査は、副鼻腔嚢胞や骨折&腐骨の診断にも有用である可能性が示唆されましたが、今回の研究では、レントゲン検査による推定診断が困難であった場合に核医学検査に回されることが多かったという、診断法の選択に関する偏向(Bias)が生じたことは否定できないため、これらの疾患に対する核医学検査の診断能を確証的に検討することは出来ませんでした。
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