馬を往診するときの新型コロナ対策
日常 - 2020年05月11日 (月)

馬を往診するときには、どのような新型コロナウイルスの感染予防をするべきなのでしょうか。全米馬臨床医協会(American Association of Equine Practitioners: AAEP)は、獣医師が馬を往診するために乗馬クラブや牧場を訪れるときに、どのような感染対策を実施するべきかの指針を示しています。
まず、往診前に実施できる事としては、畜主から電話で問診を取って、患馬が救急医療を必要とする病態なのかどうかを判断したり、その施設の従業員が最少人数になる時間帯を確認して、往診で訪問するタイミングを決めることが挙げられています。また、その施設に新型コロナの感染者や濃厚接触者がいたケースでは、そのような方が診察の場に立ち会わないことは勿論ですが、それに加えて、マスクや手袋などの個人保護具の使用、および、手指の消毒を厳重に行うこと等が推奨されています。更に、診察に立ち会う補助者は一名のみとし、可能な限り獣医師と6フィート(約1.8メートル)の距離を取ったり、馬を保定してもらうときには、獣医師と補助者が常に馬の反対側に立つようにすることも有効だそうです。
次に、往診先となる乗馬クラブや牧場の現場において実施できる事としては、ディスポのツナギを着用して、往診終了後に廃棄することや、診察荷物は最小限となるように工夫することが挙げられています。また、X線やエコー装置などのように、往診先で廃棄できない備品は、適切な薬剤を用いて消毒をすることや、シリンジや針などの廃棄するものに関しては、各々の往診先で別々のゴミ袋に入れるようにする、等の指針も推奨されています。そして、馬に装着する用具(無口、曳き手、調馬索など)は、自分のものを用意しておいて使うようにして、往診先の用具を使わなくても済むようにする方法も有用です。加えて、気性の難しい馬は適宜に鎮静することで、一名の補助者でも診察を行えるようにすることが提唱されています。
そして、往診が終わった後に実施できる事としては、往診用具や往診車を厳重に消毒して(聴診器、体温計、車のハンドルやキー等)、トイレは帰り道のコンビニ等に立ち寄るよりも往診先で済ませておくこと、ガソリンスタンドに寄ったときには手指やクレジットカードも消毒すること(米国のガソリンスタンドは殆ど全てセルフであるため)、などが挙げられています。また、往診が完了した後には、診療所から自宅に帰るまえにシャワーを浴びて、衣服も必ず交換することが推奨されています。その他にも、獣医の診療所への郵便物は置き宅配にしたり、その郵便物を開封するときにも表面を消毒すること(段ボールの表面でもウイルスは生存できるため)、などの基本的対策も併せて提唱されています。
以上は、感染者が100万人いる米国での指針ですので、かなり慎重な対策が示されているような印象を持ちました。しかし、新型コロナには不症候性の罹患者もたくさん存在すると言われていますので、万が一に備えて、ある程度は厳格な対応策を考えておくのがベストなのかもしれません。何よりも、往診している獣医師自身が感染症を拡散させてしまうことがないように(新型コロナだけでなく豚熱なども含めて)、最大限に努めることが大切だと言えるのではないでしょうか。
今回の新型コロナのパンデミックは、動物の感染症対策のプロであるべき獣医師のスキルや意識を、今まで以上に向上させていける貴重な機会なのかもしれません。
関連サイト:
Recommendations for Ambulatory Practitioners (COVID-19 and Animals). COVID-19 Resources for Veterinarians. American Association of Equine Practitioners.