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馬の文献:副鼻腔炎(Perkins et al. 2009b)

「副鼻腔鏡手術による吻側上顎副鼻腔炎および腹側鼻道炎の治療が行われた60頭の馬の症例」
Perkins JD, Windley Z, Dixon PM, Smith M, Barakzai SZ. Sinoscopic treatment of rostral maxillary and ventral conchal sinusitis in 60 horses. Vet Surg. 2009; 38(5): 613-619.

この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に有用な外科的療法を検討するため、副鼻腔鏡手術(Sinuscopy)による吻側上顎副鼻腔炎(Rostral maxillary sinusitis)および腹側鼻道炎(Ventral conchal sinusitis)の治療が行われた60頭の患馬の、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

結果としては、腹側鼻道嚢(Ventral conchal bulla)の穿孔(Fenestration)を伴う前頭鼻道の円鋸術(Conchofrontal trephination)を介した副鼻腔鏡手術によって、吻側上顎副鼻腔や腹側鼻道(Rostral maxillary and ventral conchal sinus)の十分な視野が確認できた馬は88%に上りました。他の12%の症例においては、腹側鼻道嚢穿孔に起因する出血(Hemorrhage)によって、吻側上顎副鼻腔炎および腹側鼻道の観察が難しかった事が報告されています。また、副鼻腔鏡手術の使用が、術者にとって“診断に有用であった”(Diagnostically useful)と判断された馬の割合は、症例全体では67%でしたが、特に原発性副鼻腔炎(Primary sinusitis)では82%、副鼻腔嚢胞(Sinus cyst)では100%に達していました。このため、馬の副鼻腔疾患に対しては、前頭鼻道への円鋸孔を介した副鼻腔鏡手術を応用することで、罹患部位の十分な視覚的診断が可能になる症例が、比較的に多いことが示唆されました。

この研究では、術後に臨床症状の完治(Resolution of clinical signs)が達成された馬の割合は、原発性副鼻腔炎では77%、副鼻腔嚢胞では60%、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoid hematoma)では50%でした。他の文献では、円鋸術による副鼻腔洗浄(=腹側鼻道嚢は穿孔されていない)では、原発性副鼻腔炎の54%によって治療成功が達成されており(Tremaine and Dixon. EVJ.2001;33:283)、今回の研究のように、副鼻腔鏡を介して腹側鼻道嚢を穿孔させて、十分な排液路(Drainage tract)を形成させることで、治療効果の向上が示されたと考察されています。副鼻腔鏡手術を介した外科的療法では、骨フラップ術(Bone flap surgery)や複数の円鋸術を実施する場合に比べて、フラップ箇所の骨治癒遅延(Delayed bone healing)や皮膚切開創の離開(Skin incisional dehiscence)などの術後合併症(Post-operative complication)を避けられ、美容的概観(Cosmetic appearance)を損ねる危険性も低いという利点が指摘されています。

この研究では、術後に臨床症状が完治した馬の割合は、真菌性副鼻腔炎(Mycotic sinusitis)、歯科疾患に起因する二次性副鼻腔炎(Secondary sinusitis due to dental disease)、副鼻腔炎腫瘍(Paranasal neoplasia)、歯周病(Periodontal disease)などでは、いずれも0%に留まりました。このため、これらの疾患に対しては、副鼻腔鏡手術を介した外科的療法によって、治療効果が顕著に向上するというデータは示されておらず、骨フラップ術などの、よりアグレッシブな治療法を要する症例も多い可能性がある、という考察がなされています。

一般的に、馬の副鼻腔鏡検査では、前頭鼻道に空けた円鋸孔から内視鏡を挿入することで、吻側上顎副鼻腔および腹側鼻道の両方の領域における、良好な視野確保および外科的アプローチが可能になることが知られており、この手法によって、尾側上顎副鼻腔(Caudal maxillary sinus)の観察も容易であったという報告もあります(Freeman. Vet Clin North Am Equine Pract. 2003;19:209)。一方、吻側上顎副鼻腔に直接的に円鋸孔を空ける術式も試みられていますが(Ruggles et al. Vet Surg. 1993;22:508)、この場合には、腹側鼻道における視野は不十分で、上顎臼歯の予備歯冠(Reserve crowns of the maxillary cheek teeth)を損傷させる危険もあります(Barakzai et al. Vet Surg. 2008;37:278)。また、今回の筆者の他の論文では、前頭鼻道の円鋸術によるアプローチ後、腹側鼻道嚢を穿孔させることで、吻側上顎副鼻腔と腹側鼻道の両方の外科的視野が、容易に確保できたことが報告されています(Perkins et al. 2009;38:607)。

この研究では、歯科疾患に起因する二次性副鼻腔炎においては、副鼻腔鏡手術による診断が有用であったと判断された馬は20%に留まっており、この理由としては、粘膜の肥厚化(Thickened mucosa)と粘性浸出液の貯留(Accumulation of purulent material)によって、罹患箇所の適切な観察が難しかった事が上げられています。一方で、これらの症例においても、その他の副鼻腔疾患を除外診断(Rule out)する目的としては、副鼻腔鏡検査が十分に有効であった、という考察がなされています。

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