馬の文献:副鼻腔炎(Hart et al. 2011)
文献 - 2020年05月15日 (金)
「馬の副鼻腔疾患に対する術後新治療法の評価:1996~2007年」
Hart SK, Sullins KE. Evaluation of a novel post operative treatment for sinonasal disease in the horse (1996-2007). Equine Vet J. 2011; 43(1): 24-29.
この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に有用な外科的療法を検討するため、1996~2007年にかけて、副鼻腔嚢胞(Sinus cyst)、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoid hematoma)、歯科疾患に伴う二次性副鼻腔炎(Dental secondary sinusitis)、副鼻腔腫瘍(Sinus neoplasia)、原発性副鼻腔炎(Primary sinusitis)、副鼻腔ポリープ(Sinus polyps)の診断が下され、骨フラップ術(Bone flap)による迅速な一次病巣摘出(Rapid removal of primary lesions)と副鼻腔充填(Sinus packing)による治療が応用された91頭の患馬の、医療記録の解析が行われました。
この研究の新治療(Novel treatment)では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、前頭副鼻腔骨フラップ(Frontonasal bone flap)を介した病巣摘出、および、背側鼻道の腹内側壁の切除(Removal of ventromedial wall of the dorsal conchal sinus)による腹方排液路作成(Creation of ventral drainage)が実施され、副鼻腔内にガーゼを充填してから麻酔覚醒(Anesthesia recovery)されました。そして、手術の三日後に、起立位において皮膚切開創および骨フラップを再び開けて、副鼻腔鏡検査(Sinuscopy)によって残存している病変を確認し、病巣清掃術(Debridement)を行ってから、必要に応じて副鼻腔がガーゼで再充填され、この過程を一~二日おきに繰り返されました。
結果としては、91頭の患馬のうち、術後三日目の起立位処置の際に、新たな治療が行われた馬は43%で、症例郡の短期生存率(Short-term survival rate)(=退院した馬の割合)は97%に上っていました。術後合併症(Post-operative complication)としては、皮膚切開創の感染(Skin incisional infection)が29%の患馬に見られましたが、輸血(Blood transfusion)を要した症例は一頭もありませんでした。このため、副鼻腔疾患の罹患馬に対しては、全身麻酔下で骨フラップ術を実施した後に、起立位手術によって二度目の病巣清掃を行う手法によって、充分な罹患部位の治癒と、良好な予後が達成できることが示唆されました。また、一次性疾患の再発率(Recurrence rate)を見ると、副鼻腔嚢胞では5%、進行性篩骨血腫では12%、副鼻腔腫瘍では50%等となっており、過去の文献と比較しても、遜色のない治療成績が達成された、という考察がなされています。
この研究における、馬の副鼻腔疾患に対する新治療法では、最初の骨フラップ術の際に多量の出血(Profuse hemorrhage)を起こした場合には、迅速な病巣除去および副鼻腔充填のみを行い、三日間待って術部が安定した環境(Controlled environment)になった段階で、より慎重な副鼻腔内の観察と病巣清掃を行うという治療方針が提唱されています。この手法では、出血によって術野が妨げられて、罹患部位の適切な処置が出来ないという事態が避けられる、という長所があり、また、手術時間を短縮(Reduced surgical time)したり、全身麻酔時間が過度に長くなる危険を避けられ(Avoid the risks associated with prolonged general anesthesia)、術中出血(Intra-operative hemorrhage)を減退できるという利点も指摘されています。
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この研究論文では、馬の副鼻腔疾患(Paranasal disease)に有用な外科的療法を検討するため、1996~2007年にかけて、副鼻腔嚢胞(Sinus cyst)、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoid hematoma)、歯科疾患に伴う二次性副鼻腔炎(Dental secondary sinusitis)、副鼻腔腫瘍(Sinus neoplasia)、原発性副鼻腔炎(Primary sinusitis)、副鼻腔ポリープ(Sinus polyps)の診断が下され、骨フラップ術(Bone flap)による迅速な一次病巣摘出(Rapid removal of primary lesions)と副鼻腔充填(Sinus packing)による治療が応用された91頭の患馬の、医療記録の解析が行われました。
この研究の新治療(Novel treatment)では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、前頭副鼻腔骨フラップ(Frontonasal bone flap)を介した病巣摘出、および、背側鼻道の腹内側壁の切除(Removal of ventromedial wall of the dorsal conchal sinus)による腹方排液路作成(Creation of ventral drainage)が実施され、副鼻腔内にガーゼを充填してから麻酔覚醒(Anesthesia recovery)されました。そして、手術の三日後に、起立位において皮膚切開創および骨フラップを再び開けて、副鼻腔鏡検査(Sinuscopy)によって残存している病変を確認し、病巣清掃術(Debridement)を行ってから、必要に応じて副鼻腔がガーゼで再充填され、この過程を一~二日おきに繰り返されました。
結果としては、91頭の患馬のうち、術後三日目の起立位処置の際に、新たな治療が行われた馬は43%で、症例郡の短期生存率(Short-term survival rate)(=退院した馬の割合)は97%に上っていました。術後合併症(Post-operative complication)としては、皮膚切開創の感染(Skin incisional infection)が29%の患馬に見られましたが、輸血(Blood transfusion)を要した症例は一頭もありませんでした。このため、副鼻腔疾患の罹患馬に対しては、全身麻酔下で骨フラップ術を実施した後に、起立位手術によって二度目の病巣清掃を行う手法によって、充分な罹患部位の治癒と、良好な予後が達成できることが示唆されました。また、一次性疾患の再発率(Recurrence rate)を見ると、副鼻腔嚢胞では5%、進行性篩骨血腫では12%、副鼻腔腫瘍では50%等となっており、過去の文献と比較しても、遜色のない治療成績が達成された、という考察がなされています。
この研究における、馬の副鼻腔疾患に対する新治療法では、最初の骨フラップ術の際に多量の出血(Profuse hemorrhage)を起こした場合には、迅速な病巣除去および副鼻腔充填のみを行い、三日間待って術部が安定した環境(Controlled environment)になった段階で、より慎重な副鼻腔内の観察と病巣清掃を行うという治療方針が提唱されています。この手法では、出血によって術野が妨げられて、罹患部位の適切な処置が出来ないという事態が避けられる、という長所があり、また、手術時間を短縮(Reduced surgical time)したり、全身麻酔時間が過度に長くなる危険を避けられ(Avoid the risks associated with prolonged general anesthesia)、術中出血(Intra-operative hemorrhage)を減退できるという利点も指摘されています。
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