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馬の文献:副鼻腔炎(Bach et al. 2014)

「副鼻腔の手術後に細菌性髄膜炎を発症した馬の五症例」
Bach FS, Bodo G, Kuemmerle JM, Bienert-Zeit A, Hainisch EK, Simhofer H. Bacterial meningitis after sinus surgery in five adult horses. Vet Surg. 2014; 43(6): 697-703.

この症例論文では、2005~2010年にかけて、副鼻腔の手術(Sinus surgery)の後に、細菌性髄膜炎(Bacterial meningitis)を発症した馬の五症例が報告されています。

症例は、原発性副鼻腔(一頭)(Primary sinusitis)および二次性副鼻腔(四頭)(Secondary sinusitis)を呈して、円鋸術(Trephination)(二頭)および前鼻頭・上顎骨開窓術(Frontonasal or maxillary bone flaps)による治療が行われました。手術後の5~11日目から、急性発現性の進行性神経疾患(Acute progressive neurologic disease)が起こり、運動失調(Ataxia)、全身性協調障害(General coordination deficits)、固有感覚障害(proprioceptive deficit)などの症状が認められました。

この研究における上部気道の内視鏡検査(Upper respiratory tract endoscopy)では、上顎洞と前頭洞(Maxillary and frontal sinus)への重度の壊死組織蓄積(Large accumulation of necrotic tissue)が確認され、頭部と頚部のX線検査(Head and neck radiography)によって、骨性外傷(Bone trauma)は除外されました。また、血液検査では、重度の白血球増加症(Severe leukocytosis)が示され(4/5頭)、脳脊髄液検査(Cerebrospinal fluid analysis)では、混濁(Turbidity)と黄色調(Xanthochromia)が見られました(5/5頭)。

この研究における剖検(Necropsy)では、混濁および変色(Turbid and discolored)した脳脊髄液、および、大脳軟化(Malacia of cerebrum)が認められました。また、五頭中の四頭中では骨性異常が認められず、残りの一頭も、篩板(Cribriform plate)は表面が壊死性炎症(Necrotizing inflammation)を起こしているのみで、蝶形骨口蓋洞(Sphenopalatine sinus)の内壁の連続性も肉眼的には保たれていました。そして、組織学的検査(Histopathologic examination)では、脳内脈管壁(Intracranial vascular walls)の重度な好中球浸潤(massive neutrophilic infiltration)、および、周辺組織と脳内への細菌の存在(Adjacent tissues and intraluminal presence of bacteria)が認められ、細菌性髄膜炎の確定診断(Definitive diagnosis)が下されました。

この研究では、病理学的検査において、篩板および蝶形骨口蓋洞の明瞭な穿孔が認められた症例はなく、脳組織への直接的な細菌侵入を示す証拠はありませんでした。しかし、他の文献では、副鼻腔疾患によって篩板の病理学的骨折(Pathologic fractures of the cribriform plate)が起こりうることが報告されており(Toth et al. JAVMA. 2012;240:580, Freeman et al. Vet Clin Eq. 2003;19:209)、また、蝶形骨口蓋洞の壁は篩板に比べて薄いことから(McCann et al. EVJ. 2004;36:466)、これらの骨性隔壁の破綻は、副鼻腔から脳組織への細菌感染の経路として重要であると考察されています。

この研究では、副鼻腔から脳組織への感染経路として、血行性感染(Hematogenous Infection)の可能性が指摘されており、その要因として、脳内脈管は平滑筋層や弁を欠いているため(Lack a smooth muscle layer and valves)、血管収縮(Vasoconstriction)が起こらず、両方向への血流(Bidirectional blood flow)が生じることが挙げられています。このため、深顔面静脈(Deep facial vein)から眼脈管神経叢(Ophthalmic plexus)に及んだ細菌が、眼窩裂導出静脈(Orbital fissure emissary veins)を通じて、下垂体(Pituitary gland)を取り囲む海綿洞(Cavernous sinus)に達したケースもあり得ると考察されています。この研究では、少なくとも五頭中の一頭において、下垂体の化膿性・壊死性炎症(Purulent and necrotizing inflammation)が認められているため、血行性感染に起因してこの病変が生じたケースもありうるのかもしれません。

この研究では、副鼻腔から脳組織への感染経路として、脳神経(Cranial nerves)が関与していた可能性が指摘されており、その要因として、牛のリステリアにおいて三叉神経(Trigeminal nerve)を介して脳幹(Brainstem)に感染すること、および、神経ニューロンや軸索内に細菌が存在(Bacteria observed within neurons and axons)していること(Morin et al. Vet Clin Food Anim. 2004;20:243)が挙げられています。また、馬の上部気道感染においても、嗅神経や視神経(olfactory and optic nerve)の組織内を通って、脳組織に細菌が侵入することが示唆されています(Smith et al. JAVMA. 2004;224:739)。この研究では、少なくとも五頭中の一頭において、視覚の異常が認められましたが、これが神経性上行感染(Ascending nerve infection)を示すものなのか、単に顔面腫脹(Facial swelling)や慢性副鼻腔炎によって視神経が障害されたものなのかは、明確には結論付けられないという考察がなされています。

この研究では、副鼻腔の外科的処置が、細菌性髄膜炎の原因、もしくは発症の引き金になった可能性があると指摘されています。その要因としては、副鼻腔の手術は無菌ではないため、外科的侵襲によって遊離された蛋白分解酵素(Release of proteolytic enzymes)が周囲組織への感染拡大を助長したり、損傷部位から出た内毒素やペプチド加水分解酵素(Endotoxins and peptidases)によって、血管作動性ペプチド(Vasoactive peptides)および血液凝固性・線維素溶解性のカスケード(Clotting and fibrinolytic cascades)の活性化や、全身性抵抗力の変化(Alteration in systemic resistance)が生じたことが挙げられています。

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