馬の文献:篩骨血腫(Cook et al. 1974)
文献 - 2020年05月20日 (水)
「馬の篩骨領域の進行性血腫」
Cook WR, Littlewort MC. Progressive haematoma of the ethmoid region in the horse. Equine Vet J. 1974; 6(3): 101-108.
この研究論文では、篩骨血腫(Ethmoid hematoma)(“篩骨領域の進行性血腫”:Progressive hematoma of the ethmoid region)を呈した十六頭の患馬における、症状、診断法、および、治療成績が報告されています。
この研究では、篩骨血腫の患馬の症状として、“僅かな”鼻出血(Slight epistaxis)が最も頻繁に見られ(病歴は一ヶ月~七年まで様々)、その他としては、運動中の呼吸器雑音(Respiratory noise at exercise)、咳嗽(Coughing)、喉詰まり(Choking)、過剰流涎(Excess salivation)、顔面骨の僅かな隆起(Slight bulging of the facial bone)、化膿性鼻汁排出(Purulent nasal discharge)、呼気の悪臭(Malodorous breath)、ヘッドシェイキング等が認められました。
この研究では、篩骨血腫の罹患馬の診断において、15頭に対して内視鏡検査(Endoscopy)が応用され、初期には鼻腔副鼻腔管(Nasomaxillary duct)から断片的な血液が排出されている所見のみが認められましたが、病態の進行に伴って緑色~黄色に変色して肥大した篩骨甲介骨(Enlarged ethmoturbinate bone with greenish-yellow discoloration)が視認されました。そして、病変部が悪化していくに連れて、鼻腔内を閉塞するように腫瘤が膨満していき、後鼻孔を閉鎖(Blocking the choana)したり、鋤骨腹側縁の下部まで突出(Bulging below the ventral edge of the vomer)している症例もありました。また、頭部のレントゲン検査(Head radiography)が応用された13頭では、副鼻腔内の腫瘤が異常な放射線不透過性(Abnormal radiopacity of the paranasal sinuses)として示されました。
この研究では、篩骨血腫の罹患馬に対する治療としては、前頭および上顎副鼻腔の骨フラップ(Bone flaps over frontal and maxillary sinuses)を介した血腫の切除、病巣清掃術(Debridement)、および、副鼻腔内へのガーゼ充填が実施され、術中の出血の多さから、少なくとも8リットルの輸血(Blood transfusion)を準備しておく必要があると提唱されています。このうち経過追跡(Follow-up)ができた馬を見ると、短期生存率(Short-term survival rate)は92%(12/13頭)でしたが、42%(5/12頭)の症例が血腫の再発(Recurrence)を起こし、このうち二頭は安楽死(Euthanasia)となり、あとの三頭には再手術が実施されました。
この研究では、摘出された血腫組織の病理学的検査(Pathologic examination)において、その包膜は呼吸器上皮と線維組織(Respiratory epithelium and fibrous tissue)から成り、内部は、血液、繊維組織、マクロファージ、ヘモジデリンなどから構成されていました。しかし、篩骨血腫の病態の本質が、単純な後天性疾患(Acquired disorder)としての血腫なのか、先天性疾患(Congenital disorder)としての血管腫(Hemangioma)なのかは、この論文の考察内では明確には結論付けられていませんでした。
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Cook WR, Littlewort MC. Progressive haematoma of the ethmoid region in the horse. Equine Vet J. 1974; 6(3): 101-108.
この研究論文では、篩骨血腫(Ethmoid hematoma)(“篩骨領域の進行性血腫”:Progressive hematoma of the ethmoid region)を呈した十六頭の患馬における、症状、診断法、および、治療成績が報告されています。
この研究では、篩骨血腫の患馬の症状として、“僅かな”鼻出血(Slight epistaxis)が最も頻繁に見られ(病歴は一ヶ月~七年まで様々)、その他としては、運動中の呼吸器雑音(Respiratory noise at exercise)、咳嗽(Coughing)、喉詰まり(Choking)、過剰流涎(Excess salivation)、顔面骨の僅かな隆起(Slight bulging of the facial bone)、化膿性鼻汁排出(Purulent nasal discharge)、呼気の悪臭(Malodorous breath)、ヘッドシェイキング等が認められました。
この研究では、篩骨血腫の罹患馬の診断において、15頭に対して内視鏡検査(Endoscopy)が応用され、初期には鼻腔副鼻腔管(Nasomaxillary duct)から断片的な血液が排出されている所見のみが認められましたが、病態の進行に伴って緑色~黄色に変色して肥大した篩骨甲介骨(Enlarged ethmoturbinate bone with greenish-yellow discoloration)が視認されました。そして、病変部が悪化していくに連れて、鼻腔内を閉塞するように腫瘤が膨満していき、後鼻孔を閉鎖(Blocking the choana)したり、鋤骨腹側縁の下部まで突出(Bulging below the ventral edge of the vomer)している症例もありました。また、頭部のレントゲン検査(Head radiography)が応用された13頭では、副鼻腔内の腫瘤が異常な放射線不透過性(Abnormal radiopacity of the paranasal sinuses)として示されました。
この研究では、篩骨血腫の罹患馬に対する治療としては、前頭および上顎副鼻腔の骨フラップ(Bone flaps over frontal and maxillary sinuses)を介した血腫の切除、病巣清掃術(Debridement)、および、副鼻腔内へのガーゼ充填が実施され、術中の出血の多さから、少なくとも8リットルの輸血(Blood transfusion)を準備しておく必要があると提唱されています。このうち経過追跡(Follow-up)ができた馬を見ると、短期生存率(Short-term survival rate)は92%(12/13頭)でしたが、42%(5/12頭)の症例が血腫の再発(Recurrence)を起こし、このうち二頭は安楽死(Euthanasia)となり、あとの三頭には再手術が実施されました。
この研究では、摘出された血腫組織の病理学的検査(Pathologic examination)において、その包膜は呼吸器上皮と線維組織(Respiratory epithelium and fibrous tissue)から成り、内部は、血液、繊維組織、マクロファージ、ヘモジデリンなどから構成されていました。しかし、篩骨血腫の病態の本質が、単純な後天性疾患(Acquired disorder)としての血腫なのか、先天性疾患(Congenital disorder)としての血管腫(Hemangioma)なのかは、この論文の考察内では明確には結論付けられていませんでした。
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