馬の文献:篩骨血腫(Greet. 1992)
文献 - 2020年05月22日 (金)

「進行性篩骨血腫を発症した23頭における治療成績」
Greet TR. Outcome of treatment in 23 horses with progressive ethmoidal haematoma. Equine Vet J. 1992; 24(6): 468-471.
この研究論文では、篩骨血腫(Ethmoid hematoma)を呈した23頭の患馬における、症状、診断法、および、治療成績が報告されています。
この研究では、23頭の症例のすべてが鼻出血(Epistaxis)の病歴で来院し、全頭に対して内視鏡検査(Endoscopy)が行われた結果、96%(22/23頭)において、篩骨領域の血腫病変の発見による確定診断(Definitive diagnosis)が下されました(残りの一頭は手術に血腫が確認された)。このため、頭部レントゲン検査(Head radiography)は、主に病巣の浸潤度合いを判断するために実施され、五頭において血腫が鼻腔(Nasal passage)および鼻咽頭部(Nasophalanx)まで拡大していることが確認されました。
治療としては、23頭の患馬のうち22頭に対して、外科的療法が選択され、全身麻酔下(Under general anesthesia)での、前頭および上顎副鼻腔(Frontal and maxillary sinuses)の骨フラップ術(Bone flap)によるアプローチを介して、血腫の摘出、病巣清掃術(Debridement)、および、副鼻腔内のガーゼ充填が実施されました。術後には、一頭が脳炎(Encephalitis)を続発して安楽死(Euthanasia)となり、その他にも、顔面切開創の離開(Facial wound dehiscence)、腐骨形成(Sequestration)、縫合線骨膜炎(Suture periostitis)などの術後合併症(Post-operative complications)が認められました。
治療成績としては、経過追跡(Follow-up)ができた21頭のうち、三頭において血腫の再発(Recurrence)が認められ(このうち一頭は反対側の篩骨への血腫発現)、治療成功率(一回の手術で病巣完治が達成された馬の割合)は86%(18/21頭)であった事が報告されています。そして、一年以上にわたる長期的な経過追跡ができた13頭では、血腫再発が疑われた馬は一頭もなく、このうち九頭は二年以上にわたって血腫を再発することなく、良好な予後を示していました(範囲:24~36ヶ月)。
一般的に、馬の篩骨血腫では、外科的な切除によって多量の術中出血(Profuse intra-operative hemorrhage)を起こす場合が多いことが知られており(Cook and Littlewort. EVJ. 1974;6:101, Bonfig. Pferdeheilkunde. 1989;5:71)、九割近い症例に対して輸血(Blood transfusion)を要したという知見もありますが(Specht et al. JAVMA. 1990;197:613)、今回の研究では、迅速に手術を終わらせたり、慎重な血圧モニタリングを行うことで、輸血が必要であると判断された症例は、一頭もありませんでした。また、今回の研究では、凍結手術(Cryosurgery)による止血は行われておらず、一時的な頚動脈結紮(Temporary carotid artery ligation)が併用された一頭においても、出血度合いはあまり変化しなかった事が報告されています。
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