馬の文献:篩骨血腫(Colbourne et al. 1997)
文献 - 2020年05月25日 (月)
「子馬の進行性篩骨血腫に対するCT検査を介した外科的治療」
Colbourne CM, Rosenstein DS, Steficek BA, Yovich JV, Stick JA. Surgical treatment of progressive ethmoidal hematoma aided by computed tomography in a foal. J Am Vet Med Assoc. 1997; 211(3): 335-338.
この研究論文では、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoidal haematoma)を発症して、CT検査(Computed tomography)を介した外科的治療(Surgical treatment)が応用された子馬の一症例が報告されています。
患馬は、四週間齢のベルジアンのメスの子馬で、副鼻腔域の顔面肥大(Facial enlargement over paranasal sinus)、呼吸器喘鳴(Respiratory stridor)、および、鼻出血(Epistaxis)の病歴で来院しました。内視鏡検査(Endoscopy)では、鼻孔(Nostril)から4cmの位置で、滑らかな出血性腫瘤(Smooth hemorrhagic mass)が鼻腔域を完全に閉鎖(Complete obstruction)している所見が確認され、鼻中隔変位(Deviation of nasal septum)によって反対側の鼻腔管の狭窄(Narrowing of contralateral nasal meatus)も併発していました。また、レントゲン検査(Radiography)では、上顎副鼻腔(Maxillary sinus)と鼻腔域における軟部組織混濁の増加(Increased soft tissue opacity)が示され、周囲骨構造の変形(Distortion of surrounding bony structure)、上顎前臼歯根の変形(Distortion of maxillary premolar teeth roots)、および鼻中隔変位が確認されました。
治療に際しては、まず全身麻酔下(Under general anesthesia)でのCT検査が実施され、篩骨鼻甲介(Ethmoturbinates)から生じた軟部組織腫瘤が、上顎副鼻腔の全域および鼻腔内を占有している所見が認められ、鼻中隔の対側変位、鼻骨と上顎骨の背外側変位と骨溶解(Osteolysis and dorsolateral displacement of nasal and maxillary bones)、前臼歯と後臼歯の腹側変位(Ventral displacement of premolars and molars)も見られました。その後、幅6cmで長さ10cmの前頭副鼻腔骨フラップ術(Frontonasal bone flap)を介した外科的アプローチによって、直径8cm大の血腫の摘出、および、尾側上顎副鼻腔の肥厚性粘膜内張組織(Thickened mucosal lining tissue of caudal maxillary sinus)の切除が行われました。そして、副鼻腔洗浄(Sinus lavage)とガーゼ充填が施された後、骨フラップ箇所をワイヤー固定してから、皮膚切開創が縫合閉鎖されました。術後一ヵ月目の内視鏡検査では、血腫の再発は認められず、十二ヵ月後までには顔面変形のほぼ完全な回復が見られた事が報告されています。
一般的に、馬の進行性篩骨血腫では、内視鏡検査での特徴的な病変所見から推定診断(Presumptive diagnosis)が可能な場合が殆どですが、今回の研究では、CT検査画像によって、血腫の拡大範囲を正確に判定することができ、病巣へのアプローチに必要なだけのサイズの骨フラップを、通常の術式よりも軸側部に開けることで、適切な血腫の摘出が実施できたことが報告されています。他の文献においても、レントゲン像のように骨組織と病巣との重複(Superimposition)を起こすことなく画像診断できるCT検査の長所を利用して、馬の進行性篩骨血腫の診断が可能であったという知見が示されています(Bonfig. Pferdheilkunde. 1989;5:71, Tietje et al. EVJ. 1996;28:98)。また、篩骨血腫の摘出時には、多量の術中出血(Profuse intra-operative hemorrhage)が見られる場合が多いことから、CTやレントゲン画像を介して適切なサイズおよび位置に骨フラップを開けることで、手術時間の短縮と迅速なガーゼ充填が可能となり、深刻な失血や合併症の危険を抑えることが重要である、という提唱がなされています。
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この研究論文では、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoidal haematoma)を発症して、CT検査(Computed tomography)を介した外科的治療(Surgical treatment)が応用された子馬の一症例が報告されています。
患馬は、四週間齢のベルジアンのメスの子馬で、副鼻腔域の顔面肥大(Facial enlargement over paranasal sinus)、呼吸器喘鳴(Respiratory stridor)、および、鼻出血(Epistaxis)の病歴で来院しました。内視鏡検査(Endoscopy)では、鼻孔(Nostril)から4cmの位置で、滑らかな出血性腫瘤(Smooth hemorrhagic mass)が鼻腔域を完全に閉鎖(Complete obstruction)している所見が確認され、鼻中隔変位(Deviation of nasal septum)によって反対側の鼻腔管の狭窄(Narrowing of contralateral nasal meatus)も併発していました。また、レントゲン検査(Radiography)では、上顎副鼻腔(Maxillary sinus)と鼻腔域における軟部組織混濁の増加(Increased soft tissue opacity)が示され、周囲骨構造の変形(Distortion of surrounding bony structure)、上顎前臼歯根の変形(Distortion of maxillary premolar teeth roots)、および鼻中隔変位が確認されました。
治療に際しては、まず全身麻酔下(Under general anesthesia)でのCT検査が実施され、篩骨鼻甲介(Ethmoturbinates)から生じた軟部組織腫瘤が、上顎副鼻腔の全域および鼻腔内を占有している所見が認められ、鼻中隔の対側変位、鼻骨と上顎骨の背外側変位と骨溶解(Osteolysis and dorsolateral displacement of nasal and maxillary bones)、前臼歯と後臼歯の腹側変位(Ventral displacement of premolars and molars)も見られました。その後、幅6cmで長さ10cmの前頭副鼻腔骨フラップ術(Frontonasal bone flap)を介した外科的アプローチによって、直径8cm大の血腫の摘出、および、尾側上顎副鼻腔の肥厚性粘膜内張組織(Thickened mucosal lining tissue of caudal maxillary sinus)の切除が行われました。そして、副鼻腔洗浄(Sinus lavage)とガーゼ充填が施された後、骨フラップ箇所をワイヤー固定してから、皮膚切開創が縫合閉鎖されました。術後一ヵ月目の内視鏡検査では、血腫の再発は認められず、十二ヵ月後までには顔面変形のほぼ完全な回復が見られた事が報告されています。
一般的に、馬の進行性篩骨血腫では、内視鏡検査での特徴的な病変所見から推定診断(Presumptive diagnosis)が可能な場合が殆どですが、今回の研究では、CT検査画像によって、血腫の拡大範囲を正確に判定することができ、病巣へのアプローチに必要なだけのサイズの骨フラップを、通常の術式よりも軸側部に開けることで、適切な血腫の摘出が実施できたことが報告されています。他の文献においても、レントゲン像のように骨組織と病巣との重複(Superimposition)を起こすことなく画像診断できるCT検査の長所を利用して、馬の進行性篩骨血腫の診断が可能であったという知見が示されています(Bonfig. Pferdheilkunde. 1989;5:71, Tietje et al. EVJ. 1996;28:98)。また、篩骨血腫の摘出時には、多量の術中出血(Profuse intra-operative hemorrhage)が見られる場合が多いことから、CTやレントゲン画像を介して適切なサイズおよび位置に骨フラップを開けることで、手術時間の短縮と迅速なガーゼ充填が可能となり、深刻な失血や合併症の危険を抑えることが重要である、という提唱がなされています。
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