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馬の文献:篩骨血腫(Schumacher et al. 1998)

「馬の進行性篩骨血腫に対する起立位手術での内視鏡を介した化学焼烙術」
Schumacher J, Yarbrough T, Pascoe J, Woods P, Meagher D, Honnas C. Transendoscopic chemical ablation of progressive ethmoidal hematomas in standing horses. Vet Surg. 1998; 27(3): 175-181.

この研究論文では、馬の進行性篩骨血腫(Progressive ethmoidal hematoma)に有用な治療法を検討するため、1993~1997年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)およびレントゲン検査(Radiography)によって進行性篩骨血腫の診断が下され、内視鏡を介した化学焼烙術(Trans-endoscopic chemical ablation)による治療が行われた21頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。この研究の術式では、起立位手術(Standing surgery)での鎮静(Sedation)および保定(Restraint)の後、内視鏡の生検チャンネルを介して、尖端に針(23-gauge)を着けたチューブを罹患部位に伸展させて、血腫の中心部を穿刺しました。そして、4%ホルマリン溶液が、膨満した血腫から溶液が漏れてくるまで病巣内注入(Intra-lesional injection)されました(範囲:1~100mL)。

結果としては、21頭の罹患馬に見られた27箇所の病巣の全てにおいて、平均して七回(範囲:1~18回)のホルマリン注入によって、血腫のサイズが小さくなり、臨床症状の改善(Remission of clinical signs)が認められました。このうち、63%(17/27血腫)の病巣部では、平均して九ヶ月(範囲:1~26ヶ月)のあいだに血腫の完治(Complete resolution)が達成され、血腫を再発(Recurrence)したのは一頭のみで(再発率:6%)、この患馬も、再発後の一回のホルマリン注射によって病巣が完治しました。また、血腫が完治しなかった症例においても、病巣の萎縮と共に臨床症状が消失したため、化学焼烙療法は中止されました。このため、進行性篩骨血腫の罹患馬に対しては、内視鏡を介した化学焼烙術によって、充分な病巣治癒が達成され、良好な予後を示す馬の割合が高いことが示唆されました。

一般的に、馬の篩骨血腫に対する外科的摘出では、全身麻酔(General anesthesia)を要し、多量の術中出血(Profuse intra-operative hemorrhage)を生じる場合が多く、また、四割以上という高い再発率(Recurrence rate)も報告されています(Cook and Littlewort. EVJ. 1974;6:101, Specht et al. JAVMA. 1990;197:613, Greet. EVJ. 1992;24:468)。ホルマリン注入では、蛋白加水分解によって組織を乾燥凝固させる作用(Desiccates and coagulates
tissue by hydrolyzing protein)によって、血腫の萎縮を誘導できたと推測されており、血腫そのものだけでなく、血腫への血液供給をになう脈管を乾燥凝固させることで、病巣の再発予防につながった、という考察がなされています。この論文の発表段階では、篩骨血腫への化学焼烙術における、最も効果的な治療指針(Most optimal therapeutic strategy)については、明瞭には結論付けられていませんが、三~四週間の間隔を空けながら、血腫病変が消失するまでホルマリン注入を繰り返す(または症状が消失するまで)、という方針が推奨されています。

この研究では、一頭の症例において、一回のホルマリン注入によって血腫が30%まで縮んだ時点で、病巣の外科的摘出が選択されましたが、その後の長期経過(Long-term follow-up)は報告されていませんでした。このため、サイズの大きな篩骨血腫の治療では、化学焼烙術によって病巣を小さくしてから摘出することで、手術時の出血を抑えながら、多数回にわたるホルマリン注入を要することなく、血腫の除去を完了させるという治療指針が有用な場合もある、という考察がなされています。今後の臨床応用では、化学焼烙のみの治療と、化学焼烙→外科摘出という治療における、治療成績や再発率の比較を行う必要があると考えられました。

この研究では、一頭の症例において、三回目、四回目、および、五回目のホルマリン注入の24時間以内に、蹄葉炎(Laminitis)による跛行(Lameness)が認められ、抗炎症剤(Anti-inflammatory drug: Flunixin meglumine)の投与によって症状が消失しました。この患馬は、治療開始前に既に蹄葉炎を発症していたため、ホルマリン注入と蹄葉炎再発の関連性は定かではありませんでした。過去の文献では、ホルマリンによる全身的毒性(Systemic toxicity)として、落ち着きが無くなる仕草(Restlessness)、流涙(Lacrimation)、流涎(Salivation)、尾の挙上(Elevation of the tail)、腸蠕動亢進(Increased peristalsis)、発汗(Sweating)、筋震戦(Quivering of muscles)、裏急後重(Tenesmus)、等が報告されていますが(Roberts. AJVR. 1943;4:226)、今回の研究では、このような症状を呈した患馬はありませんでした。

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