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馬の文献:篩骨血腫(Rothaug et al. 1999)

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「馬の進行性篩骨血腫に対するネオジウム・ヤグ・レーザー補助での切除術:1986~1996年の20頭」
Rothaug PG, Tulleners EP. Neodymium:yttrium-aluminum-garnet laser-assisted excision of progressive ethmoid hematomas in horses: 20 cases (1986-1996). J Am Vet Med Assoc. 1999; 214(7): 1037-1041.

この研究論文では、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoidal haematoma)に対する外科的療法を検討するため、1986~1996年にかけて、内視鏡検査(Endoscopy)およびレントゲン検査(Radiography)による篩骨血腫の推定診断(Definitive diagnosis)が下され、ネオジウム・ヤグ・レーザー補助での切除術(Neodymium:yttrium-aluminum-garnet [Nd:YAG] laser-assisted excision)が実施された20頭の患馬における、医療記録(Medical records)の回顧的解析(Retrospective analysis)が行われました。

この研究の術式では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、前頭鼻腔骨フラップ(Frontonasal bone flap)を介して、前頭副鼻腔(Frontal sinus)、上顎副鼻腔(Maxillary sinus)、翼口蓋副鼻腔(Sphenopalatine sinus)、篩骨迷路(Ethmoid labyrinth)へとアプローチされました。そして、副鼻腔内に進展させたNd:YAGレーザーによって、血腫の付着部(Attachment)を焼烙切除して、副鼻腔洗浄(Sinus lavage)とガーゼ充填を施してから、フラップ部のワイヤー固定、および、皮膚切開創(Skin incision)の縫合閉鎖が行われました。

結果としては、一年以上の長期経過追跡(Long-term follow-up)ができた患馬のうち、篩骨血腫の再発(Recurrence)が見られたのは20%の症例(4/20頭)もしくは病巣(5/25血腫)であった事が示されました。このうち、両側性(Bilateral)の発症が見られた六頭では、再発率が50%(3/6頭)に上っていたのに対して、片側性(Unilateral)発症が見られた十四頭では、再発率は7%(1/14頭)と、有意に低かった事が報告されています。このため、進行性篩骨血腫の罹患馬に対しては、Nd:YAGレーザー補助での切除術によって、充分な原発病巣の治癒(Adequate healing of primary lesion)と良好な予後が達成される馬の割合が、比較的に高かったものの(完治率:80%)、特に両側性に篩骨血腫を呈した症例においては、病巣を再発する危険性が顕著に高いことが示唆されました。

一般的に、馬の進行性篩骨血腫に対する外科的切除では、重篤な術中出血(Severe intra-operative hemorrhage)を生じる場合が多く、多量の輸血(Blood transfusion)を要したり、失血に伴う術後合併症(Post-operative complication)を続発する危険性が高いことが知られています。今回の研究では、Nd:YAGレーザーによる止血(Hemostasis)を施しながら、血腫を切除する術式が応用されて、出血が少量に抑えられた事で(3リットル以下)、輸血が必要になった馬は一頭もなく、術野の確保も容易になった事が報告されています。また、血腫に連絡している脈管をレーザー焼烙(Laser ablation)することで、病巣部への血液供給路を効率的に除外することが可能になり、血腫の再発率の低さ(片側性病態では7%)につながった、という考察がなされています。

この研究では、両側性に篩骨血腫を発症していた馬の割合は、牝馬では67%(4/6頭)に達しており、オス馬(0/14頭)に比べて、有意に高い有病率(Prevalence)を示しました。このため、牝馬における篩骨血腫では、“潜在的なホルモン作用”(Possible hormonal effect)によって左右両方の篩骨を罹患する割合が高かったという考察がなされていますが、その詳しい発生序については、明瞭には結論付けられていませんでした。

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