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馬の文献:篩骨血腫(Frees et al. 2001)

「進行性篩骨血腫に対するホルマリン投与の後に重篤な合併症を生じた馬の一症例」
Frees KE, Gaughan EM, Lillich JD, Cox J, Gorondy D, Nietfeld JC, Kennedy GA, Cash W. Severe complication after administration of formalin for treatment of progressive ethmoidal hematoma in a horse. J Am Vet Med Assoc. 2001; 219(7): 950-952.

この研究論文では、進行性篩骨血腫(Progressive ethmoidal haematoma)に対するホルマリン投与(Formalin administration)の後に重篤な合併症(Severe complication)を生じた馬の一症例が報告されています。

患馬は、十八歳齢のアラビアン去勢馬(Gelding)で、三ヶ月にわたる鼻汁排出(Nasal discharge)の病歴で来院し、呼吸器雑音(Respiratory noise)、および、内側眼角から鼻孔尾側部にかけた領域の軽度顔面腫脹(Mild facial deformity from the medial eye canthus to the caudal aspect of nares)の症状が認められました。罹患側の鼻孔は、腫瘤によって塞がれて、内視鏡(Endoscopy)の挿入は困難でしたが、反対側の鼻孔からの内視鏡検査では、鼻中隔の対側変位(Contralateral deviation of nasal septum)が示されました。

また、頭部レントゲン検査(Head radiography)では、軟部組織密性腫瘤(Soft tissue density mass)が鼻腔吻側部から上顎&前頭副鼻腔の腹尾側部へと伸展している所見(Extended from the rostral aspect of the nasal cavity to the ventrocaudal aspects of the maxillary and frontal sinuses)が認められましたが、骨融解や透過性(Bone lysis/lucency)は示されませんでした。そして、臨床症状、内視鏡検査、および、レントゲン検査の所見から、進行性篩骨血腫の推定診断(Presumptive diagnosis)が下されました。

治療としては、一時性気管切開術(Temporary tracheotomy)を施した後、全身麻酔下(Under general anesthesia)での横臥位(Lateral recumbency)において、骨フラップ術による前頭上顎副鼻腔切開術(Bone flap sinusotomy of frontmaxillary sinus)を介してアプローチされ、血腫の摘出、病巣清掃術(Debridement)、ガーゼ充填してから、フラップ部のワイヤー固定と、皮膚切開創の縫合閉鎖が行われました。患馬の麻酔覚醒(Anesthesia recovery)は順調で、手術の48時間後にガーゼが除去され、七日後に退院しました。手術から退院の一ヵ月後まで、術後合併症(Post-operative complications)や異常な臨床症状は認められませんでした。

患馬は、術後の30日目に再び来院し、起立位でのホルマリン病巣注入(Intra-lesional formalin injection)が実施されましたが、その数分後に、馬房内での周回運動(Circling)と転倒などの神経症状が認められました。その後は、運動失調(Ataxia)、痴呆(Dimentia)、壁に頭部を押し付ける仕草(Head pressing)などを呈し、ジアゼパムとデトミジン投与による治療には不応性(Refractory)であった事から、外傷を予防するため、もう一度全身麻酔がかけられました。しかし、麻酔覚醒後も、昏迷状態(Stuporous mentation)や頻脈(Tachycardia)、重度の運動失調が認められ、神経症状の進行的悪化(Progressive worsening)が見られたことから、残念ながら安楽死(Euthanasia)が選択されました。

患馬の剖検(Necropsy)では、篩板腹側部の糜爛および壊死(Erosion and necrosis of the ventral cribriform plate)によって、鼻腔と頭腹側口蓋弓のあいだに異常な連絡路(Abnormal communication between the nasal cavity and the ventral cranial vault)が生じており、脳前葉の吻側部(Rostral portion of the frontal lobe of the brain)には広範囲にわたる出血と軟化(Extensive hemorrhage and softening)が認められました。このため、この患馬に対する二度目の処置時において、注射されたホルマリンが腫瘤から流れ出て篩板を溶解し、臭球(Olfactory bulb)および脳前葉に迷入して、重篤な神経症状を続発したことが示唆されました。

一般的に、馬の進行性篩骨血腫に対しては、ホルマリンを病巣内注入することで、血腫病変の良好な治癒が達成されることが知られており(Schumacher et al. Proc ACVS. 1997;25:150, Marriot et al. Aust Vet J. 1999;77:371, Schumacher et al. Vet Surg. 1998;27:175)、その際には、血腫が膨満して穿刺箇所からホルマリンが漏れ出てくるまで注入する術式が推奨されています(注入量は時には100mLに及ぶ)。しかし、今回の症例では、8mLのホルマリン注入のみで、重篤な合併症を生じており、過剰注入による圧力によって篩板穿孔が起きたとは考えにくく、血腫の浸潤による篩板組織の糜爛と虚弱化が発症素因(Predisposing factor)になったと推測されています。

この研究の症例では、内視鏡検査およびレントゲン検査のいずれにおいても、篩板組織の損傷は発見されず、病歴の短さ(三ヶ月)から言っても、重度の篩板糜爛を予測するのは困難であった、と考えられました。このため、この症例のように、広範囲の副鼻腔域に及ぶサイズの大きな血腫が認められた場合には、周囲組織への浸潤度合いを考慮して、CT検査(Computed tomography)などの三次元的な画像診断法(Three-dimensional diagnostic imaging)を介して、より精密な術前検査(Colbourne et al. JAVMA. 1997;211:335)を必要とする場合があるかもしれない、という考察がなされています。

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