FC2ブログ
RSS

新型コロナ対策のため日本にもCDCが必要なのか?

20200531_Blog_Daily020_COVID_CDC_Pict1.jpg

新型コロナウイルス感染症の対策のために、日本にもCDCが必要なのでしょうか?

CDCとは、米国の疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention)のことで、感染症や疫病の対策を主導して、人々の健康を増進することを主目的とする組織です。日本でも、新型コロナの感染拡大に伴って、専門家グループが招集されて、専門的な知見を解析して国家政策を決めるための一助を担っています。しかし、感染症対策のシステムをより強固にしていくため、CDCのような組織を立ち上げるべきではないか、という提言もなされているようです。

日本にも、米国のCDCに相当するような組織は存在しており、国立感染症研究所や国立国際医療研究センター、および、国際感染症対策調整室などの機関が挙げられます。しかし、これらの組織の人員数や予算額は、米国のCDCの数十分の一であると言われており、迅速かつ適格な感染症対策を実施していくには規模が十分ではないと考えられます。また、所属する省庁が異なる場合には、縦割り行政の仕組みに阻まれて、組織間の連携がうまくいっていない事象もあることが指摘されています。

このため、クルーズ船対応に警鐘を鳴らした岩田教授は、日本にもCDCのような組織が必要性であると訴えており、安倍首相も三月の予算委員会答弁において、米国のCDCを念頭に置きながら、組織を強化していくことが重要である、という認識を示していたようです。また、日本医師会の横倉会長からは、オールハザードアプローチ(全災害対応)という概念が示され、感染症のみならず自然災害等にも対応することで、ヒトの健康と命を守るための情報提供、および、解決策の提示をする組織にしていく、という具体的な提言もなされています。

しかし、日本にCDCのような組織を作るためには、実は多くの課題があるような気がします。

まず、ひとくちに「疾病予防管理」と言っても、たくさんの関連する専門分野があります。感染症の対策という一つの面に限ってみても、原因となる病原体がウイルスなのか細菌なのかによって、別々の専門家がいらっしゃいます。また、病原体そのものの研究している専門家の他にも、予防のためのワクチンの研究をしている専門家や、感染対策のための衛生学の研究をしている専門家、社会経済への影響を鑑みた防疫プログラムを研究する専門家など、多くの職種が連携しないと、適格な対策は取れないと思います。このような多方面の専門家が一同に集い、効率的に連携する組織システムを確立するのは大変な作業ではないかなと感じます。

実は、米国のCDCは、単に感染症や疫病の対策をする組織ではありません。米国CDCが取り組んでいる課題には、①科学的知識を動員したヒトの健康増進、②暴力と傷害の防止、③労働者の安全衛生や安定需要、④健康情報提供のための新技術、⑤生物学的テロに対する個人の保護、⑥人種的及び民族的格差の解消、⑦健康的な環境の増進、⑧健康増進のための国際パートナーとの協力、などが挙げられています。これらの全てを、日本単独で取り組んでいくのは難しいとしても、疾病予防管理センターというものが、単に病原体から人間社会を守るだけの組織ではないと言えるのではないでしょうか。

20200531_Blog_Daily020_COVID_CDC_GIF1.gif

もうひとつ、日本においてCDCを組織するときに問題になるかなと思うのは、その権限の扱いです。たとえば、米国のCDCは連邦政府とは完全に独立した組織であり、大統領ですらその意見を無視することは出来ないのだそうです。つまり、完全にガバナンス的に独立した組織であり、自己完結した判断と意見発信が可能な立場にあるからこそ、政治に左右されることなく、純粋に科学に基づいた見解や対策を提唱していけるシステムになっています。もっと言えば、米国には、連邦政府や州政府から独立した機関として、FBI(警察的機関)やCIA(諜報的機関)があり、独断での意思決定が可能となっています。日本の新型コロナ専門家会議が官邸に所属しているのとは、かなり大きな違いだなと感じます。将来的に、日本にCDCができたとしても、既存省庁の下部組織になってしまっては、政治と科学を分離した提言や提案をしていくのは難しいのかもしれません。

さらに、日本にCDCを整備するときには、憲法の問題もあります。今回の新型コロナに対する社会的距離政策を見ても、日本では緊急事態宣言が出された後でも、あくまでも自粛の要請であり、諸外国で行われたようなロックダウンは実行されていません。それは、日本国憲法には「国家緊急権」に関する規定が存在しないためであると言われており、せっかくCDCを組織しても、十分な感染症の対策を取れない可能性もあるのではと思います。そもそも、「疾病予防管理」とは、まさに安全保障や国防のための政策ですが、現行の憲法では、国防や領土の定義が不明瞭であるのみならず、日本国の安全保障は他国に依存しますと憲法前文に明記されており、このままで良いのかの議論を要するのかもしれません。

もう一点、CDCがあれば感染症に対して万全なのかと言われれば、必ずしもそうではないような印象があります。上述のようなレベルの規模と権限を持ったCDCは、世界では米国と中国にしか無いと言われています。しかし、米国はCDCがあるにも関わらず、世界最多の新型コロナの感染者数と死者数が出てしまっています。また、中国では、新型コロナ感染が終息したと言われていますが、それはCDCがあったからではなく、政府の権限がかなり強いお国柄であったのが要因ではないでしょうか。一方、CDCが無い国でも、早期に感染拡大を抑えた台湾や、人口が約一億人で未だに死者数ゼロのベトナムなど、比較的に優秀な対策を取った国もありそうです。

日本においては、今回のパンデミックを教訓としてどう活かしていけるかが問題であり、CDCを組織するか否かではなく、国民の一人ひとりの危機管理の意識を向上させていくのが重要なのではないでしょうか。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.




プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: 40代
住所: 神奈川県
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

ブログメニュー

推薦書籍

FC2カウンター

リンク

関連サイト

検索エンジン

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
160位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
19位
アクセスランキングを見る>>

検索フォーム

関連サイト

QRコード

QR