馬の文献:軟口蓋背方変位(Franklin et al. 2002)
文献 - 2020年06月06日 (土)
「馬の軟口蓋背方変位に対する舌くくりの効果」
Franklin SH, Naylor JR, Lane JG. The effect of a tongue-tie in horses with dorsal displacement of the soft palate. Equine Vet J Suppl. 2002; (34): 430-433.
この研究論文では、馬の軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)に対する有用な保存性療法(Conservative treatment)を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって軟口蓋背方変位の診断が下された六頭の馬に対して、舌くくり(Tongue-tie)の装着前および装着時における、トレッドミル運動中の内視鏡検査および呼吸器気流測定(Measurements of respiratory airflow)が行われました。
結果としては、舌くくりが装着された状態においても、67%(4/6頭)の馬が軟口蓋背方変位を発症しており、他の二頭のうち一頭は、過半数の運動試験において軟口蓋背方変位の予防が達成されたものの、残りの一頭では、運動終盤の減速時(During deceleration)のみ軟口蓋背方変位が予防された事が報告されています。また、いずれの馬においても、舌くくりの装着によって、疲労するまでの運動時間(Run-time to fatigue)や呼吸器気流指標(Respiratory flow parameters)には、有意な改善は認められませんでした。
このため、舌くくりを装着することで、馬の軟口蓋背方変位を防げる場合もあるという、逸話的な知見(Anecdotal reports)を裏付けるデータが示されましたが、その効能が認められたのは過半数以下の馬にしか過ぎませんでした。また、軟口蓋背方変位が予防された馬においても、競走能力の向上(Improvement in racing performance)や上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)を示唆する証拠は認められず、舌くくりを装着することの合理性(Rationale)や有意性(Significance)には疑問が投げ掛けられています。
一般的に、馬の軟口蓋背方変位では、舌や喉頭の尾側退縮(Caudal retraction of the tongue and larynx)がその発症に関与すると考えられており、舌くくりを装着して舌の尾側退縮を防ぐ方法が有用であると仮説されています(Heffron et al. EVJ. 1979;11:142)。そして、英国競馬の調教師への聞き取り調査(Survey)では、呼吸器雑音(Respiratory noise)によって軟口蓋背方変位が疑われる馬に対して、積極的に舌くくりを装着させるという調教師が、全体の92%に上っていました。一方で、舌くくりが用いられた馬のうち、効果があったと判断されたのは13%にしか過ぎない事が報告されています(Franklin et al. Proc BEVA. 2001)。
他の文献では、健常馬もしくは胸骨甲状舌骨筋切除術(Sternothyrohyoideus myectomy)を受けた実験馬を用いた試験において、舌くくりを装着しても上部気道動態(Upper airway mechanics)は変化しなかった、という知見が示されています(Cornelisse et al. AJVR. 2001;62:1865, Beard et al. AJVR. 2001;62:779)。また、CTスキャンを用いた実験では、舌くくりを装着した状態でも、舌骨合同装置(Hyoid apparatus)の位置や、口腔咽頭部の三次元構造(Three-dimensional structure of oropharynx)は変化していませんでした(Cornelisse et al. AJVR. 2001;62:775)。一方、舌くくりの効能は、運動中の嚥下(Deglutition)を抑制することにある、という仮説もなされていますが(Rehder et al. AJVR. 1995;56:269)、今回の研究では、舌くくりの装着時にも、装着前と比べて、嚥下回数は変化しなかった事が報告されています。
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この研究論文では、馬の軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)に対する有用な保存性療法(Conservative treatment)を検討するため、内視鏡検査(Endoscopy)によって軟口蓋背方変位の診断が下された六頭の馬に対して、舌くくり(Tongue-tie)の装着前および装着時における、トレッドミル運動中の内視鏡検査および呼吸器気流測定(Measurements of respiratory airflow)が行われました。
結果としては、舌くくりが装着された状態においても、67%(4/6頭)の馬が軟口蓋背方変位を発症しており、他の二頭のうち一頭は、過半数の運動試験において軟口蓋背方変位の予防が達成されたものの、残りの一頭では、運動終盤の減速時(During deceleration)のみ軟口蓋背方変位が予防された事が報告されています。また、いずれの馬においても、舌くくりの装着によって、疲労するまでの運動時間(Run-time to fatigue)や呼吸器気流指標(Respiratory flow parameters)には、有意な改善は認められませんでした。
このため、舌くくりを装着することで、馬の軟口蓋背方変位を防げる場合もあるという、逸話的な知見(Anecdotal reports)を裏付けるデータが示されましたが、その効能が認められたのは過半数以下の馬にしか過ぎませんでした。また、軟口蓋背方変位が予防された馬においても、競走能力の向上(Improvement in racing performance)や上部気道機能の回復(Restoration of upper airway function)を示唆する証拠は認められず、舌くくりを装着することの合理性(Rationale)や有意性(Significance)には疑問が投げ掛けられています。
一般的に、馬の軟口蓋背方変位では、舌や喉頭の尾側退縮(Caudal retraction of the tongue and larynx)がその発症に関与すると考えられており、舌くくりを装着して舌の尾側退縮を防ぐ方法が有用であると仮説されています(Heffron et al. EVJ. 1979;11:142)。そして、英国競馬の調教師への聞き取り調査(Survey)では、呼吸器雑音(Respiratory noise)によって軟口蓋背方変位が疑われる馬に対して、積極的に舌くくりを装着させるという調教師が、全体の92%に上っていました。一方で、舌くくりが用いられた馬のうち、効果があったと判断されたのは13%にしか過ぎない事が報告されています(Franklin et al. Proc BEVA. 2001)。
他の文献では、健常馬もしくは胸骨甲状舌骨筋切除術(Sternothyrohyoideus myectomy)を受けた実験馬を用いた試験において、舌くくりを装着しても上部気道動態(Upper airway mechanics)は変化しなかった、という知見が示されています(Cornelisse et al. AJVR. 2001;62:1865, Beard et al. AJVR. 2001;62:779)。また、CTスキャンを用いた実験では、舌くくりを装着した状態でも、舌骨合同装置(Hyoid apparatus)の位置や、口腔咽頭部の三次元構造(Three-dimensional structure of oropharynx)は変化していませんでした(Cornelisse et al. AJVR. 2001;62:775)。一方、舌くくりの効能は、運動中の嚥下(Deglutition)を抑制することにある、という仮説もなされていますが(Rehder et al. AJVR. 1995;56:269)、今回の研究では、舌くくりの装着時にも、装着前と比べて、嚥下回数は変化しなかった事が報告されています。
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