FC2ブログ
RSS

馬の文献:軟口蓋背方変位(Alkabes et al. 2010)

「内視鏡を介してのダイオードレーザー焼烙口蓋形成術における、臨床検査、組織学検査、MRI検査、生体力学検査による治療効果の評価」
Alkabes KC, Hawkins JF, Miller MA, Nauman E, Widmer W, Dunco D, Kras J, Couetil L, Lescun T, Gautam R. Evaluation of the effects of transendoscopic diode laser palatoplasty on clinical, histologic, magnetic resonance imaging, and biomechanical findings in horses. Am J Vet Res. 2010; 71(5): 575-582.

この研究論文では、馬の軟口蓋背方変位(Dorsal displacement of soft palate)に対する有用な外科的療法を検討するため、十二頭の実験馬を用いて、内視鏡を介してのダイオードレーザー焼烙口蓋形成術(Transendoscopic diode laser palatoplasty)の直後~45日目における、臨床検査(Clinical evaluation)、組織学検査(Histologic evaluation)、MRI検査(Magnetic resonance imaging)、生体力学検査(Biomechanical evaluation)が行われました。

結果としては、臨床検査およびMRI検査では、術後の45日目までに、軟口蓋の瘢痕形成、浮腫、炎症の増加(Increase in scarring, edema, and inflammation)が認められ、また、組織学検査では、筋線維の萎縮(Atrophy of muscle fibers)を伴う、骨格筋の全層損傷(Full-thickness injury of skeletal muscle)が見られました。しかし、生体力学検査では、レーザー焼烙された口蓋組織の弾性係数(Elastic modulus)は、有意に減退していた事が報告されています。このため、馬の口蓋組織に対しては、焼烙口蓋形成術によって瘢痕形成は誘導できるものの、それによって軟口蓋の強直度(Stiffness)が高まるというデータは確認されませんでした。一般的に言って、強直度と弾性度は完全に同じ概念ではありませんが、物体の構成成分(Property of a constituent material)を論じる場合には、弾性係数が高いほど変形が少ない(A material with a high elastic modulus will undergo less deformation)ことが知られています。

この研究では、軟口蓋背方変位を発症していない実験馬を用いた実験であったため、レーザーによる熱性損傷(Laser-related thermal injury)を介しての筋組織萎縮が起こり、健常な軟口蓋とデータ比較した場合には、弾性係数が減退するという実験結果が示されました。しかし、実際の軟口蓋背方変位の罹患馬において、もともとの軟口蓋の強直性が低い場合には、焼灼術によって有意な弾性係数の上昇が見られる、という推測も成り立つかもしれません。また、術後の45日以降に、徐々に軟口蓋組織の繊維化(Fibrosis)が進行して、強直度が増加していく可能性も否定できない、という考察がなされています。

一般的に、馬の軟口蓋背方変位の治療のためには、軟口蓋の強直度を高めて、喉頭蓋(Epiglottis)を軟口蓋の上に保持しやすくする指針が提唱されており、その術式としては、焼灼口蓋形成術の他にも、軟口蓋尾側縁(Caudal border of soft palate)を切除する口蓋帆切除術(Staphylectomy)や、口腔粘膜を部分切除する張力口蓋形成術(Tension palatoplasty)が応用されています。また、焼灼口蓋形成術では、感覚神経受容体(Sensory nerve receptors)が破壊され、咽頭痛反射(Pharyngeal pain reflex)および咳嗽反射(Cough reflex)が損失することで、軟口蓋尾側部の挙上(Elevation of the caudal aspect of soft palate)が抑制されるという、二次的な作用機序もあると考えられています。

一般的に、馬に対するレーザー焼烙口蓋形成術では、術後に三日間~二週間の回復期間(Convalescent time)を置くことが推奨されていますが(Hogan et al. Proc AAEP. 2002;48:228, Smith et al. Proc AAEP. 2003;49:377)、今回の研究では、軟口蓋の粘膜治癒(Mucosal healing)には最低でも30日間を要することが示されました。このため、この論文の筆者の診療施設では、焼烙口蓋形成術から一ヶ月以上を経てから運動復帰する、という治療指針が提唱されています。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, pakutaso.com/, picjumbo.com/, pexels.com/ja-jp/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:軟口蓋背方変位




プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: 40代
住所: 神奈川県
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

ブログメニュー

推薦書籍

FC2カウンター

リンク

関連サイト

検索エンジン

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
191位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
24位
アクセスランキングを見る>>

検索フォーム

関連サイト

QRコード

QR